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5.ウォーター・リーパー

 湖に着いた。

 透明度がとても高く、水深が深いところは深い青。

 そこから浅瀬になるにつれて、エメラルドグリーンへと染まっていく幻想的なハイライトになっていた。

 また、透明度が高いこともあり、水中にいる生き物がよく見える。

 彩色多様に発光している珊瑚には、密かに隠れて小さな魚が泳いでいたり、獲物を探して徘徊している、少し大きめの蟹がいたりもした。

 なかでも、度肝を抜かれたのが、上半分は猪、下半分が魚を模している生き物がいたことだろう。

 浅瀬に浮上していたところを偶然見物できたが、普段は深いところで暮らしているのか、さっき観察していた蟹を咥えると、たちまち湖の深みに姿を溶け込ませて行く。

 沈みこんだ倒木の隙間を、華麗な泳ぎですり抜けていく様は、最初、幻でも見たのかと錯覚したほどだ。

 その倒木には水苔が所狭しと生えており、狂おしいほど美しかったのも、そう思わせた一因だろう。

 反対の岸は絶壁に囲われており、至る所から滝が流れ出ては、宝石で作られたと言われても疑わない程美しい湖に落ちて行っては飛沫を上げている。

 飛沫の上がり具合や景観からして、かなりの高度があると、ここからでも予想できた。

 あの上から下を覗いたならばタマヒュンものだ。

 湿度が高いからか、水分が潤沢だからかは定かではないが、湖の周りはショッキングピンクの葉が生い茂ったマングローブのような木が乱立している。


 かくいう俺達も、その木の根に立って辺りを見渡しているのだが。

 羽の生えた猿に手を振っているカナちゃんが、とても愛らしい。

 そうだ。言い忘れていた。

 念願の隠れ家だが、このマングローブ擬きを使うつもりだ。

 何と、この幹、中が空洞になっており隙間さえあれば壁を確保できる万能さ。

 太さにしても軽く八畳はある。


 お値段なんとタダ!

 今ならなんと、よく分からない植物が着いてきます!

 この植物、傘のように横に広いので支えさえあれば屋根として充分機能しますよ!


 っとまぁ、セールストークっぽく言ったが、これを運ぶのには随分苦労させられた。

 この葉が生えている隣を本拠地にしないと、使用も出来ないじゃじゃ馬ぶりだ。

 運のいいことに、この木はどうしてだか切り株状になっていたから、設置はできた。

 でも、本来こんな状態になかったらタダでもいらん。

 むしろ金払え。


 それから数分。

 微調整も終わり、やっと一息つけた。

 え?

 お前石だから動いてないだろって?

 幼女に懇切丁寧に説明なんて疲れるに決まってるだろうが!


 その幼女も幼女で、疲れているらしく、お腹を出して就寝中だ。

 うん、可愛いは正義だね!


 ちなみに、俺は眠気を全く感じていない。

 しょうがないね。

 石だもの。

 そんな訳で今俺は、やれることを一つでも増やそうと努力していた。

 そう、スキルだ。

 実験をしないことには、有用かどうかもわからない。

 優先順位はない。

 強いて言うなら安全確保。

 なので上から順に試していこう。

 ////////////////

 ???

 LvⅠ

 スキルポイント:3

 結硬/強度:1

  使用回数:1

  回復速度:1

 収集/容量:1

  分解:1

  構築:1

  確率:1

 念話/距離:1

 ////////

 恩恵/攻撃補正値+10

  防御補正値+50

  魔導補正値+50

 ///////////////

 えっと、まずは結硬か。

 項目は強度、使用回数、回復速度の三項目。

 その横のはレベルかな。

 おおよそ項目事にいじれるんだろう。

 強度が関係してくるなら物理だろうし。

 結合組織が硬くなったり?

 うーむ、字面だけ見てても、有用な回答は得られそうにないな。

 名前からして危ない類ではないし、一度試したほうが早そうだ。

 トライ&エラー。

 とにかく試そう。

 スキルの発動は念願や収集でやってるから何とかなりそうだ。

 とりあえず、念願の発動法に寄せて、簡単に念じてみた。

 するとどうだろう。

 面白いことにスキルの全容が知識として俺の中に流れ込んできた。

 念話や収集の時には感じられなかった感覚だ。

 なぜ、今になってできたのかは謎である。

 収集を行使可能になったから?

 まぁ、どうでもいいか。

 結硬は、どうやら俺の見立てどうり防衛に行使するらしい。

 空中に透明な板状、障壁を張れるそうだ。

 結って結界の結ね。

 視界内なら何処にでも出せる高性能ぶり。

 んで、さっきの三項目は強化基準らしい。

 強度は省略して、使用回数。

 これは、一つレベルが上がる事に使える回数が一枚増えるそうだ。

 現在の使用可能数は一枚。

 限りがあるぶん、慎重に使い所を見極めないとな。

 そして、減った使用可能数は時間で回復する。

 その時間、百分。

 つまり一時間と四十分は無防備になる。

 裸同然だ。

 レベル一ごとに十分クールタイムを短く出来るのはありがたい。

 戦闘中の十分はとてつもなく大きい……いや、しらんけど。

 ……。

 兎も角、結硬は防御スキルってことか。

 入ってきた情報を読み解くに面白い応用も出来そうだし、かなり使えるな。

 収集はゴブリンといた時に石ころをしまえたので収納出来るスキルだと判明している。

 項目の内容は分からなかったが、容量と書いてあるだけあって限界がありそうだ。

 確率ってのがよくわからんが収集の確認はぶっちゃけ後回しにしてもいいと思う。

 いえね、守る手段を見つけたのだから、まずは結硬のレベル上げをしたい。

 スキルポイントを使ってレベルアップするのは結硬を使った時に把握した。

 レベルアップはスキルのレベルに依存する。

 レベルを一から二にあげる場合、スキルポイントは一しか消費されない。

 しかし、二から三にあげる場合はスキルポイントを二消費するのだ。

 さらに、三から四にあげるにはスキルポイントが三必要となる。

 つまりだ、現在のスキルレベルと同じ数スキルポイントを使う。

 今俺が持っているスキルポイントは三ポイント。

 スキルは全てレベル一だ。

 一つのスキルをレベル三にするか、三つのスキルをレベル二にするか選べるのだ。

 一つ二つレベルを二にして一を温存する手もあるが、スキルポイントの入手方法が少しこの子にやらせるには酷なので守ることに全てを注いだ方が良いと思われる。

 このぷにぷにほっぺ、略してぷにっぺにレベル上げするから敵倒してとはいえないよ。

 ゴブリンが戦闘でみせてくれた補正値の効果は、この子にも付与されているかもしれない。

 が、それでも子供にやらせるのは、日本育ちの弊害か忌避してしまう。

 子供は、守る対象であって働かせる道具じゃないんだ。

 お腹出して寝てるくらいがちょうどいい。

 だから、ポイントは守護スキルの結硬に使う。

 異論は認めない。

 結硬の三項目をレベル二にして、スキルポイントは零になってしまった。

 この体は疲れ知らずなので、身辺警護はぬからないようにしよう。

 それから翌朝まで彼女は眠り続け、珊瑚の光源を心の支えに、俺は警戒を解かない練習を続けた。


 ◇


 翌朝。

 カナが目を覚ましたのは、とある爆音がしたからである。

「っんにゃ!?」

 飛び起きたカナは入り口にしていた隙間から外の様子を伺おうとした。

『こら!危ないから近づいちゃダメ!』

 動けないから言って聞かせるしかないのだ。

 しょんぼりして入り口から離れるカナを撫でられないのか口惜しい。

 ぐぬぬ……。

 まぁでも、気になるのは分かる。

 実際問題、音の発生原因を確かめないといけないのは事実だし、カナちゃんの行動は間違いじゃない。

 でも、そういう危険が伴うことは年上がやるもの。

 人に頼らず自分で行動しようとするその心意気は感心するけど、ここは俺を立てておくれ。

『ごめんね怒ったりして。でも、カナちゃんが危ないことをすると心配なんだ』

「危なくないもん」

 隅で三角座りしているカナちゃん。

 その目頭には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

 あぅ……。

 この場合、どう声をかけるのが正解なんだ?

 前世では高笑いしながら歩いてたから、子供はもちろん大人さえも俺を避けていたから経験がない。

 こんなことなら、強大な力に恐れをなして距離をとっているなんて考え方捨てて、真っ当に人と接しておけばよかった!

 俺が後悔しながらオロオロしていると、気まずくなったのかカナちゃんの方から話をしてくれた。

「ママはなんでも一人で出来たんだもん。だからカナも石さんのお世話一人でできるもん」

 俺はお人形さんかな?

 なんにせよ、幼女に気を使わせてしまったのか。

 ショックだ。

 おれはなんて不甲斐ない。

『カナちゃん。ママは大人でカナちゃんとは違うんだよ?』

「カナも大人だもん」

 あ、はい。

 っじゃなくて!

『カナちゃんは俺より年下だろ?』

「そうなの?」

『うん。カナちゃんは七歳。俺は十八。十一も上なんだ』

「おじちゃんなの?」

『お……おじちゃんでは、ない……よ?』

「そうなの?」

『そうなの』

「じゃぁ、お兄ちゃん?」

 おぅふ。

 何かに目覚めてしまいそうだ。

 ぺドフィリア呼ばわりされていた俺だがそんな性癖はなかった。

 なのに、今新しい性癖が加わってしまった。

『そうだよ!お兄ちゃんだよ!お兄ちゃんは頑張らないと死んじゃうんだ!』

「そうなの!?」

『そうなの!』

 だからね、なでなでしないで。

 何がとは言わないけど悪化しちゃうから!

『なので、ここはお兄ちゃんに任せてね』

「わかった」

『ありがとう』


 俺はカナちゃんに、入り口の外に置いてもらった。

 外の様子を伺っても特に異常なし。

 昨日と変わらず、美しい湖が広がっていた。

 朝日が水面に反射して眩しい。

 なんとも平和だと、そう思っていた。

 そいつを見るまでは。

「お兄ちゃん上!」

 こっそり覗いていたのか、カナちゃんの険しい叫びが上への注意を促す。

 そして、敵は既にこちらを認識していた。

 木漏れ日をバックに浮遊する陰。

 大きさは大型犬ほど。

 全体の色は白く、表皮をぬらぬらとした体液で湿らせていた。

 魚のヒレに似た翼を一対生やした、大きな牛蛙だ。

 アルビノ種なのか、蛙の特徴的な目は真っ赤だ。

 脚はなく、代わりなのか、成体にも関わらず鰻のような尻尾が生えている。

 ウォーター・リーパー。

 俺の頭にはその単語が浮かんでいた。

 厨二を拗らせて図書室で使い魔にできそうな幻獣を調べていた時に、チラッとみかけた精霊の中の一種だ。

 普段は水の中に棲んでいるのに、陸上の生き物を好んで喰らう肉食性で、俺の記憶が正しければ、好物は確か……。

「キィィイィィィイイイイイ」

 全身の毛穴が脇立ちそうな嫌な鳴き声が周辺を支配した。

 黒板を引っ掻いたような不快感が大音量で鳴っている。

 半規管はないはずなのに、聴いただけで方向感覚が麻痺してしまいそうだ。

 振り返ると、カナちゃんも耳を塞いで顔を顰めている。

 次第に音は止み、それと同時にカナちゃんが倒れた。

 ウォーター・リーパーの鳴き声は聴いた者を気絶させ、時として命を奪うことがある。

 息があるだけまだましなのだ。

 生きているならよかった。

 まだ、助けられる。

 これは俺の責任だ。

 ウォーター・リーパーの好物が人肉だって知ってたのに、遠方攻撃があるって事前に知っていたのに、先手を譲ってしまった。

 これは、俺のミスだ。

 落とし前は自分でつける。

 良かった。

 昨日のスキル調査で面白い活用法を思いついてて。

 これなら、蛙風情は軽く狩れる。

『抗うな。貴様に死の約定をくれてやる』

 ウォーター・リーパーが突撃を開始した。

 結硬。

 これは、守りを固めるためのスキルだと言ったがそれは違う。

 このスキルは、空間に障壁を生み出すスキルだ。

 その副産物として防衛に利用が可能なだけ。

 そして、これは攻撃にも利用できる。

 物質を押しのけてまで作製される障壁。

 なら、意図的に物質間に障壁を産み出せば、それは回避不可能な絶対切断の攻撃にほかならない。

 真っ直ぐに降下してきたウォーター・リーパー。

 そのシルエットが二つに割れた。

 頭は速度を緩めずに起動だけを変え、幹に衝突し、湖に落下。

 それに続いて空中に急停止していた胴体も血飛沫を吐きながら水面に打ち付けられ、湖に新たな色彩を付け足した。

 それは、宝石を著しく穢す魅惑的な色。

 淡い幻想を侵食する、悍ましい色。

 そんな色が、俺達には流れている。

 ……。

 なんて、な。

 アハハ。

 昂ると、厨二病の後遺症がつい出てしまう。

 駄目だなほんと。

 はやく治さないと女の子に嫌われそうだ。

 あ、今は石だから手遅れか。

 自分の認識が伴っていないとネガティブな齟齬が生じやすい。

 この先に思いを馳せ、気が滅入ってしまう。

 はぁ……。

 朝御飯、どうやって調達させようか…………。

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