鳥になった私の日常は平穏なハズ
よろしくです(๑•̀ㅂ•́)و✧
あぁ、もう夜か。すっかり寝てしまっていたようだ。
直前まで夢を見ていたらしく、モヤモヤとした感覚が残っている。
なんだか目が痛い。ドライアイに効く目薬を探していると、状況がおかしい事に気付く。
目に映るのは針葉樹ばかり。木の根、幹ではなく頂点が見える為、高所にいるらしい。
つまりは、ここは家でも建物の中でもなく森の中。一般人ならばあり得ないところにいる。
カサッ、と葉の揺れる音がして、振り向くとリスの姿が少し見えた。…首がいつもよりも曲がっている。
もしやと思い手を見ようとすれば届かない。しかし羽ばたく事ができた。
…そう。鳥になっていた。
私の記憶が正しかったら、確か家の中で寝っ転がってたはず。
…寝ている間に何かがあった?
でも、普段は一人暮らしで、あの時家にいたのは丁度遊びに来ていた母親。
母は無事なのか?
そもそも元の体は生きているの?
知らない間に死んでいた?
いや、今も目を覚ましていないのかも。
え?どうすんの?
どうすんのさ。
考えても考えても謎だらけ。
ネットでよくある転生?憑依?鳥になって転移?わけわからん。
キャパオーバーになった私は叫んだ。
_どうせ鳴き声にしか聞こえないのだろうけれど。
「----ぅわあぁあぁぁあぁあぁぁ----」
声は人間だった。
…生態どうなってんの。
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あの日から私は、兎に角鳥らしく振る舞うようにしてきた。
人間らしく生きるのは難しいしね。
狩りは苦手だったため、きのみを食べて暮らしていた。
そうしていく内に幾つか分かったことがある。
1つ目は、私の今いる場所は、異世界であること。
…森の中の生物は私の他にもたくさん居たが、人の言葉を喋るもの、種族特有の言語を話す者がいた。
今までは見たこともなかったティ○カー・ベルのような生物、ゲ○ガーの様に影からひょっこりしてくる生物など。
異世界あるあるの摩訶不思議な者たち。
2つ目に、獣人とエルフ、それから転生、転移経由で来た地球出身の人たちがいること。
この世界では、前者が多いが、後者もまぁまぁいるらしい。
それとなく聞いた話では、どの人も欧州系らしく、黒髪黒目の人は全く見かけないそうだ。日本とは縁がないのね。
その為、日本語ではなく英語が転生者、転移者での主流語なんだと。
…私、鳥で良かった。英語とかほぼできないし。
体はこの世界のものだから言葉はペラペラなのだ。
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ある日の事。一度街へ行ってみた。
どこもかしこも人ばかり。スク○ンブル交差点を思い出してしまった。
上空で飛び回っていると、風が美味しそうな匂いを運んで来た。柑橘系特有の爽やかさ。
たまらなくなってフラフラ〜と匂い元を辿れば、ケーキ屋さんについた。
如何にもフランスにありそうなお店で、
《アドゥハビ・ローズ》の文字が掲げられている。
「たっ食べたい…食べたいのに食べられない…」
当たり前だがお金を持っていない私はケーキが食べられない。
せめて姿だけでも…と、窓に張り付いてオレンジムースを凝視していると、店員さんに苦笑された。…まわりからも視線が突き刺さる。
それでも見つめる執念に負けたのか、一口のムースを持って店員さんが出てきた。
さかさず私はムースを浚い、美味しく頂いた。
再び戻ろうとする店員さんに飛び掛かり、
「働かせてください!!」
と頼み込む。
「えっ…いや、その姿じゃだめだよ。
それに君の匂いがケーキに移るだろうし。
衛生的にだめ。それにサイズ的にも。」
確かに、私は森の中にいたから清潔ではないかもしれない。それに結構ちまっこいのだ。
グヌヌ…と悔しがっていると、ある考えが頭に浮かぶ。
「なら、魔法で人型にしてください!
そしたら後は清潔にするだけだし…」
お願い攻撃で駄々をこねていると、ついに折れた店員さんは、店の終わった後に店内へ連れってくれた。やったね。
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そうしてのりや勢いでアルバイトを始めていた私だったが、いつからか厄介な常連客が増えていった。
「御注文は如何がなさいますか?」
「あ、今日も会ったな、バイトくん!」
「私はムースです!む、ぅ、す!
ていうか、常連さんなら毎日会うでしょ!?」
私のここでの名前はムースになっていた。
…安直すぎる。
そしてバイトバイトと連呼するあやつは人の名前をすぐ忘れるバカエルフ。またの名をライアン。
__耳長い癖に全然音を拾えてない。
赤髪でやんちゃ系美形。喋ってなければいいのにね。
「うちのバカがいつもごめんね。
じゃあ今日は君の名にちなんだムースを頼もうか。」
「じゃあ今日はって、いつもムースばっかじゃないですかエレクさん…たまには他のもの頼んでくださいよ」
毎度毎度バカライアンとセットの獣耳はムース好き。ムースしか頼まない。
ちなみに彼はウルフと欧州系のハーフ。
当然モデル体型だし、銀髪優男系美形。
美形が常連客となれば当然人も集まる。そして熱烈なファンは二人の、ひいてはこの店の常連に。
「ねぇライアン、私と話しましょうよぉー」
「私が先よぉ!」
「あたしはエレク様とぉ」
「眺めてるだけでもサイコぉ」
なんてキャッキャウフフしたがるお姉様方ももれなくついてくる。
私的には居なくてもいい、というかうるせぇ。
しかしアルバイト料が増えるに越したことではない。
今日のケーキはなんだろなぁ…と思いつつ笑顔をし直して店を切り盛りする。
休憩時間に差し掛かったため、交代しようと考えたときだった。
カランカラン…とドアベルが鳴り、扉が開かれる。
「はい、いらっしゃいま…せ?」
振り向いたそこには、驚くべき人物がいた。
…なぜだか嫌な予感がした。
END