冬 うららかな日に 皆で手を取る
あなたの手を取る 今は白い柔な手を
白い部屋で 心が 幼子に戻りし 義母さんの手を取る
働き者 かつてそうだったあなたの手は 家に居るときは ゴツゴツとして 日に焼けていた
草刈り 畑仕事 冬場の食糧 漬物の仕込み
眼鏡をかけながらの 豆のかわむき 選り分け
雪が ふかぶかと積もる日々の 雪かき
こたつで セーターほどいて 自分の袖無し 編んでいた 働き者のあなた
何も知らぬ嫁に 色々教えてくれながら 遠慮なく ケンカ売ってくるから
買ってた こちらも 遠慮の無い嫁
思えば 珍しい 嫁姑 でも 楽しかったね 義母さん
私たちは 悪友 旦那が仕事に行って 私が休みの時には
こっそり 二人で 時々美味しいご飯を 食べに行った
息子には内緒な うん、旦那には内緒!
と回るお寿司じゃ無いお店で お好きなの握ってもらったり
お肉の好きな 義母さん
息子には内緒な うん、旦那には内緒!
少しお高い焼き肉屋さんの ランチに行ったり
旦那よ 悪いなぁ 適当お弁当食べてる時に ちょこっと 悪事をしていた私達
たまに 旦那の姉も 参戦して 女三人かしましく
楽しく過ごしていたけれど あなたはゆっくり 幼子に戻って行った
おかずの位置を 教えなければ ご飯ばかりを食べてたり
昔、育った子どもの頃の家に記憶が戻り 真冬の夜に トイレは外だと さ迷い出だす
忘れ行く自分と戦ってる 不安と 恐怖の嵐の中
あなたは時に 暴れてみたり そして 我が家の伝説となった タクシーチャーター事件
行方不明になりました あのときはさすがに
焦った家族 幸い無事に 戻ってこれたけれど
ある夜 皆が目を離したそのときに 転んで怪我して それからそのまま 病院に
そして家に 帰れることなく ここに入所
共にいた時は 日に焼け ゴツゴツしていた あなたの手
普段の生活 手をつなぐこともなかった けれど
まだそうとは誰も知らぬとき タクシーチャーター事件の前
ちょっと 夕食前に 歩いて散歩に出たまま 帰って来ない
なぜた?まさか いよいよ その時が来たかと 予感がした ある日の夕の出来事
夕食前に 探しに行こうとしていたら 電話が鳴る
ご近所さんのお宅が うちにいるから 迎えに来てね
その後直ぐに 検査を受けに 病院に行くことに…
薄闇 宵闇 暮れ行く 空の下 はじめて しっかりと お手手つないで おうちに帰った 嫁と姑 悪友二人
それから 間もなく あなたは家に 戻れなくなってしまった
転んで怪我した後 体の具合が悪くなれば病院に 体が元気な時は 白い部屋へと あちこちする事10年
何回 白い部屋で 柔らかく白くなった ふあふあ すべすべの手を取ったのか
ゆっくり ゆっくり あなたは お花畑に心が行って
お話も何も出来なくなって あなたはほんわか
ほんわかあなたは お花畑で 過ごしているかの様に 幸せな時の中で 夢見て寝てる
そんな日々が だんだん 長く続くようになり
そして ある冬麗のある日 具合が悪くて 病院に入ってた あなたは
病院からの知らせに 間に合った 皆に囲まれ 静かに逝った お花畑の向こう側
あなたの手を取る みんなで
暖かい白い病室で 心が幼子に戻り そのまま逝った あなたの手を取る
働き者 かつてそうだった あなたの ゴツゴツとした日に焼けてた手は
柔らかく 白く細くなっていた
可愛い 幼子の様な 小さな 白い手になっていた
皆が じゅんじゅん あなたの 白い柔らかくなった 綺麗な 手を取った
小さくなったその手を取った
涙に暮れて 手を取り 両の手で包み さする
最後に あなたの手を みんなで 握った 冬うららかな午後の時だった