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Cares talte -序章-  作者: 天秤屋
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世界のはじまり -とある授業風景-

 これは、カレスターテという星が生まれてから、今日までのこと。


 銀河を遠く望む暗黒のなか、一柱のカミがありました。カミはその叡智を切り分け、分身たるカムサビを生みました。次に、カミはカムサビとともに海ノ星と冥ノ星との一部をとって混ぜ、一滴の光を落としました。


 生まれたばかりの星はカムサビの手にゆだねられました。カムサビは星に光と闇とを与え、混沌をつくりだしました。光の中からは原初の空【滅空(めっくう)】が生まれました。【滅空】は、休みなく嵐が吹きすさび、雷鳴がとどろいたといいます。【滅空】の雫が落ちた闇の中で原初の海【紅海(こうかい)】が生まれました。【紅海】は血潮のような海で、静まることなく荒れ狂っていたといいます。そして、【紅海】の激しい波がぶつかり合う場所に【大地】が生まれました。


 天地開闢のおり、空も海も「無」そのものでした。


 星を守るものカムサビは、【滅空】に息吹を吹き込み【烈空(れっくう)】に変えました。【紅海】には魔素を流し込み【清海(せいかい)】へと成りかわらせました。【烈空】と【清海】のあいだには雲が生まれ、雨が降るようになりました。【清海】のなかには、巨大な命のかたまりが生じました。しかしこれは生命力そのものであって、いまだ生き物はなにひとつ存在していませんでした。


 カミはその善なる心と悪なる心とを分かち、カムサビに与えられました。悪なる善意を与えられたものは新たな【カムサビ】、善なる悪意を与えられたものは【慈愛(クルタナ)】となりました。


 光のカムサビと影のクルタナとが、星の中心へ自らの叡智と心とを注ぎ込んだとき、海中にあらゆる種の祖先が生じました。【起源の種】です。


 カムサビは【起源の種】に魔素を分け与えました。最も力あるカムサビたちは、法の化身たる【白龍】に。ほかのカムサビたちは原初の【精霊】とに成りかわりました。白龍と精霊との魔力が交じり合って生まれたのが【亜竜】と【智の(シルウァト)】です。


 クルタナは【起源の種】を手助けし、【獣】、【魚】、【虫】、【植物】などあらゆる生き物をつくりだしました。それぞれには優れたところがあって、【獣】は力と生命力に溢れていました。【魚】や【虫】は産まれ増えることに長けていました。【植物】は不朽の存在であり、種が滅ぶことはありません。


 クルタナが最後につくったのは【人】です。【人】は大きく優れたところはありませんが、少しずつ、いろいろなことができるよう造られました。


 クルタナはすべての種を誕生させると、自らは世界を調律する【黒龍】となり、影のなかに去っていきました。


 透き通る【碧空(へきくう)】と青い【滄海(そうかい)】の頃には、それぞれの種が世界を形作り、文化と文明とが築かれていきました。まだ【人】は力も数もたいしたことはなく、【シルウァト】や【獣】たちが優勢を誇っていました。


 カムサビであった【白龍】は「統治者(プレセア)」となり、表舞台からは姿を消しますが、世界を支える存在となりました。


 統治者や精霊たちは【幻灯界(アストラル)】に暮らし、ほかの種はすべて【具象界(アッシャー)】に暮らしていました。ふたつの世界は隣り合い、地続きで結界もなく、自由に行き来することはできました。しかし、【具象界】に暮らすものたちが【幻灯界】へ出向くことはありませんでした。彼らにとっては、【具象界】が【世界】のすべてだったからです。


 【シルウァト】は自らを「管理者(エヴィラ)」と名乗り、法と秩序を重んじ、【具象界】側での白龍の代行者となりました。また、シルウァト族の中からは、白龍と黒龍とによって【魔王】とよばれる統治者が選ばれました。


 クルタナであった【黒龍】は、統治者であると同時に管理者の役も担い、自ら調律のために手を下す存在となりました。また、従者であり代行者である【シェイド・ラ】を生み出し、これを管理者に据えました。【シェイド・ラ】は言葉を解しませんが、黒い翼をはやし、黒龍の誠実な代行者として古くから【具象界】に在るものたちです。


 【獣】たちは空を飛ぶもの、地を駆けるもの、海を往くものなど、それぞれが生きやすい場所で国をつくり、独自に栄えていきました。


 やがて、少しずつ数を増していった【人】が勢いを増してくると、統治者のあいだで意見がわかれました。


 【黒龍】は無視できない勢力を認めるべきだと考え、シェイド・ラに【人】の管理を任せようといいました。これには【白龍】もシルウァト族も賛成しました。しかし、【魔王】だけは人を減らし、世界の勢力図から排除するべきだと唱えたのです。


 【魔王】は実力行使にうつり、【幻灯界】にある自らの居城から【具象界】へ軍勢を送り込みました。魔王と同じように、人族に反意をとなえる獣族や精霊族の一部が賛同し、次々と人族の里を襲いました。人族も応戦し、のちに「魔大戦」と呼ばれる世界大戦が起こったのです。


 皮肉なことに、人族は「魔大戦」をきっかけにより繁栄し、発展しました。さらに、人族どうしで争った「統一戦争」の時代を経て、今日のような隆盛ぶりとなりました。


 【虚空(きょくう)】と【幻海(げんかい)】の時代は、「統一戦争」の終わりとともに始まりました。空と海とにそれぞれ精霊が宿され、黒白の龍に代わって世界を見守り、生命を循環させる理が定められました。死した魂は虚空へのぼり、銀色の雨となって幻海に注ぎ、新たな命となって再び生まれる。この循環を見守るものとして白き(ラサ)が生まれました。ラサは管理者ではありませんが、空と海との守り人として、多くの種族に崇拝されています。


 なかでも人族は宗教に関心が強く、生命の生まれ来る「(ウバス)」を熱心に崇め、虚空を祀り、暦にそれぞれ祭礼の日をさだめました。また、空には『真実』『誠実』『希望』を、海には『信頼』『忠誠』『絆』を。彼らはそれぞれに信仰すべき理を見出し、誓いをたてました。


 いまや人族は他の種を圧倒するほどの勢力を誇ります。


 神話の記された文献のなかには、次のような言葉があります。


 【人こそは種の間に在る『境界』を越える術を持つ者ども。分かたれた生命の隔壁を壊し、世界を繋ぐ要となる者。境界を越えよ。統治者らは「その時」の訪れを待つ。】


 クルタナが何のために人族をつくり給うたか。その答えにたどり着く日を、歴史を紐解きながら、我々は心待ちにしているのです。



 今日の授業はここまで。神話代から現代までの流れを、しっかりと復習しておくように。それでは皆さん、ごきげんよう。

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