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6話:Login【2章】

土曜日の朝


 今、自分は高鳴る心臓を抑え、ドアの前で正座して待っている。


コツコツ……


 足音がだんだん近づいて来た。来た、やっと来た。待ちに待ったVS。

 親が残してくれたお金で、高額なゲーム機器を買うのには、抵抗が少なからずあった。そんな抵抗がある中でやっても100%楽しめない。なので思う存分やるためも初めてバイトをして、その分は稼いだ。勉強もしっかりやった。

 準備は満タンだ。さぁ来るがいい!


 足音が扉の前に来た。扉の取っ手に手をかけ待機する。


コツコツ……


 しかし足音は止まらずに、そのまま遠ざかって行く――宅配便じゃなかったようだ。

 肩を落として、おやつでも食べながら待とうと思い、扉から離れたその時


ピンポーン


「来た!?」


 扉に駆け寄ると


ガッチャ


 勝手に扉が開いた。


(……勝手に扉を開ける宅配便とは……うん、まぁ、許そう! 待ちに待ったVRが来たのだ!)


 と思ったら、扉の前に立っていたのは朱利だった。


「…………はぁ…………何しにきたの……?」


 盛大に溜息をついて、じと目で朱利を見る。


「な、何よ! 来ちゃ悪いっていうの!?」


 来るや否や、朱利は腰に手を当てプリプリ怒り出してしまった。

 

「いや、別に……」


 目の前の脅威より、間も無く来る楽しみの方が上だ。


「うん、まぁいいや。ちょっと確認したいことがあってね」

「ん? まぁ上がってよ」

「勿論そのつもりよ」


 何とも傲慢だが、もう慣れている。

 冷蔵庫から冷えたお茶と、棚から朱利が好きなお菓子を取り出し、テーブルの朱利の前に置いた。


「はい、お茶とお菓子」

「お、和手にしては気が利くね、ありがとう!」


 朱利の機嫌は良くなった。この待ちに待った日を、朱利に邪魔させる訳には行かない。


「……あんたまだVSきてないの?」

「そうなんだよ……」

 

 ふうん、と興味なさそうに言うと朱利はお菓子を再び食べ始めた。


「……それで朱利は何しに来たの?」

「別に何だっていいじゃない」

「ま、まぁそうだけどさ……」


 出来るならば早く帰って欲しいと思いつつ椅子に座り、自分もお菓子へ手を伸ばそうとした時


ピンポーン


 音に脊髄反射で飛び上がった。 


「来た!? 来たよ!! 来たよ!? 朱利!!!! ねぇどうするどうする!?」


 興奮しすぎてカケルのようになってしまうが、しょうがない。こんな嬉しい時はそうない。


「うっさい!! 黙れ!!!! お前は盛りのついた犬か!?」


 こんな嬉しい時には何言われても凹まない!!


ピンポーン


「はいはいはいはいー!!!!」

「ハイホー宅急便で……」


ガチャッ!


 言い切る前に勢い良く扉を開けた。

 呆然としている宅配便の人からダンボールを強奪し、ハンコを押した。


「ありがとうございますーー!!!!」


ガチャッ!


 勢い良く扉を閉め、テンションMAXになりながらリビングまで持って来て、ダンボールを丁寧に、丁寧に開け始める。


「やっときた、やっときた、やっときたよー! アゲッ」


 すると横から蹴られて、壁まで退かされた。


「ああ、もうまどろっこしい」


 そう言うと朱利は強引にダンボールを千切りながら開けていった。


「あ、あぁ……ダンボールは記念に飾って置こうと思ったのにな……」

「黙ってなさい!」


 間もなく中からVRの本体"ヘルム"が出てきた。朱利は手に取り舌打ちすると、こともあろうにほり投げてきた。


「ちょ、ちょっとあぶない!! 精密機械! これ精密機械!」


 ヘルムを手に取り、全体を眺める。漆黒で洗練された形…………漆黒のボディーだって? 洗練された形? あれ?


「…………何これ? ……色が違う……形も何だか違うかも……」


 テンションがどんどん落ちて行く。吸血鬼が若い女と思って血を吸ったら、若作りした80歳だったことに気がついた時ぐらいに、落ち込んでいく。


「あんた何色を選んだの?」

「虹色だけど……?」

「うわぁ……きっつぅ……」

「う、うぐぅ……」


 と朱利は吐き捨てるように言うと、椅子に戻りお菓子をまた食べ始め、そして言った。


「電話してみなさいよ」

「そ、そうだ! 言ったら色を変えてくれるはず!」


 人間、希望がないと生きていけないとはこの事か! それは吸血鬼が……(逆パターン略)。とテンションがどんどん上がって行った。


「そうよ!! 早くかけなさい!」


 言われるがままVS本社、擬似戦争機構に電話をかけた。


トゥルル、トゥルル、ガチャッ


「はい、こちら擬似戦争機構です」


 声が綺麗なお姉さんが出た。


「あ、あの、届いたVRが色が違うんですがー」

『はい、申し訳ありません。製造の関係上、選んだ色と形は基本的に"希望"であり、違う色形が届く場合があります。現在大量に注文が入っており、そうならざる得ない状況なのです。すみません。注文時の注意書きや、VSと一緒に入っている説明書にも明記されていると思うのでご確認をお願いします。後、色選択時の料金追加等はちゃんと引かれておりますので、ご安心ください』


 そういえばそんなことが書かれてあった気がしてきた。

 またテンションが下がって行くのを感じる。吸血鬼が……(逆の逆パターン略)。


「あー……はい、そうですか……わかりました。お時間取らせてしまってすみません……」


 電話の終了ボタンを押そうとしたとき、横から声がかかった。

 

「ちょっと待て!! 何だか雰囲気的に駄目だった感じじゃない!! 押しが足りない、もっと攻めろ!! もういい! ちょっと電話代われ!」


 肉食獣が爪で獲物の喉を切り裂こうとするかのように、電話が奪い取られた。俺のために声を上げて怒ってくれている朱利に感動を覚える……。


「ちょっと! どういうこと!? 私ピンク色選んだのに!! 何で地味な黒で、さらに1,3倍ぐらいの大きいって何!! 可愛くないじゃない!」


 自分のためだった。…………まぁそうですよね……。

 そして、あることに気がついた。


「……ピンク?」

「う、う、うっさい! だ、黙れ! 這いずり回って泥水飲め! そして下痢になって悶え苦しめッ!」


 顔を赤くしながら、怒涛の暴言が飛んできた。

 これ以上からかうと手が飛んでくるので、大人しく黙った。

 昔、部屋の事を人前で言いそうになった時は……死んだと思った。


『も、申し訳ありません。お連れの方にも説明したんですが、大量製造の関係上しかたないのです……本当に申し訳ありません』

「そっちの都合なんてしったことじゃない! 何とかしろ!」


(何て暴君なんだ……)


 そう思うが、我が身が可愛いので決して口には出さない


『え、えっと、新しく交換するとなると、それなりの日数がかかります。それにピンク色にしたいのであれば、専門の業者に頼めばより可愛く、より綺麗に仕上がります』

「え? そ、そうなの……?」


(お? 言い包められてる? どんな会話してるか分からないが、いい方向へ行ってるようだ)


『それにキャラクターのマークなんかも書くことが出来ます。頼めばどんな絵柄でも対応してくれるはずです。公式サイトの方に、お住まいの地域周辺にあるお店のMAPが掲載されているページがありますので、是非ご覧ください』

「な、ならいい。無理言って悪かったわ」


(どんな手を使ったんだ!? 怒涛の朱利を言い包めるなんて!! 是非教えてください!!)


『いえいえ、どんな事でも仰ってください。真心込めて、愛を込めて対応をさせていただきます。また何かあればいつでもお電話ください。それでは失礼します』

「わかったわ」


――朱利が電話を切った。朱利の目は逝っていて、口元は笑っている。これは本気で怒ってるようだ――



「あ、あの、朱利? もう一度電話して、頼んでみようか?」


「和手!」

「は、はい!」

「公式サイトから周辺のペイント店探して」

「はい! ……え? どういうこ……あー、なるほど」

「早く!」

「はいはいー」


 そしてその後、二人とも希望通りの色に変えた。朱利の場合は基本的に色はピンク、さらに可愛いキャラクターが舞い踊ってて、ハートマークがたくさんついてて……略。朱利の要望と気迫にはペイント店の人は困惑していた。

 無理だということを伝えるフォローをこちらに目線で求めていたが、助け舟は出さなかった。

 助け舟を出そうものならこちらまで転覆させられてしまうからだ。

 自分のは1時間もあれば終わったが、朱利のペイントには時間がかかり、朝から行って終わったのがお昼過ぎだった。お昼ご飯は朱利の家でオムレツを頂いた。



 家に帰ると早速千切られたダンボールの中から入ってた物を全て出した。中には説明書とカードが入っていた。

 説明書は一般的な分厚さの物と、辞書ぐらいの物の二冊あった。

 一般的な方には基本的なことが書かれてて、分厚い方は専門的な事が書かれているようだった。

 カードが良くわからなかったので、説明書でカードの項目を見た。


『カードには設定情報やゲーム情報、いわゆるセーブデータが入っております。旅行に行く際などはこのカードだけ持って行けば、ヘルムさえあればどこでもできます。始めに設定した人物以外は使用出来ませんので、盗られ悪用される心配も御座いません。その分、紛失、故障にはお気をつけください』


 旅行にあんなリュック一つ丸々占領しそうな大きいヘルムを持ち運ぶわけにはいかないだろう。

 色は変えれたが、形、大きさはそのままだ。丸みを帯びた形から、少々角ばった感じに……。我慢しよう。

 しかし、便利なシステムに感心した。


 そしてセッティングを開始した。

 セッティング終了。ものの1分で終わった。

 セッティングは置く場所を決めるのと、カードをヘルムに差し込むだけだった。

 内部構造が複雑すぎるので、セッティングの工程は工場のほうですべて終わらせてるようだ。


 後は説明書を軽く一通り読み、早速やることにした。

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