5話:擬似戦争時代へ突入
――設立から一週間後、アメリカが日本と同じように開発に投資を始めた。
ゲームが大好きな自分はここでなんとなく理解した。
すると次の日にはさらに五カ国、次の日には二十カ国、さらに一週間経つころにはかなりの国がゲーム開発にお金を使い始めた。
『平和のためにならお金を惜しまない』といった理由だ。奇麗事を歌い文句にしていた。
しかし、その裏の理由は先に自国がそのゲームを開発すると、擬似戦争に置いて有利な立場に立てるから。だと思った。
だからといって世界がここまで動かされるのはおかしいが、自分はまだ世間知らずの高校生である。大人の事情で色々あるんだろう。
――
「このゲームで、勝負しましょー」
「いいよー」
「……負けた。君強くない?」
「だって、このゲーム僕が作ったんだもん」
「卑怯だー!」
「卑怯もクソもあるか!!!! ボケが!!!! ハッハッハ!!!! 有り金すべて寄こせ!!!!」
「イヤアアアアアァァァァ!!!!」
――
こんな感じじゃないかと……思う。
人類の英知を集めたゲーム、地球が作ったゲーム、ゲームじゃないゲーム、新世界、など呼び名は色々つけられた。が、"擬似戦争機構\\"は"擬似戦争機構\\"だった。"蛙"等とは呼ばれていない。
そして世界中が開発するゲームは名度No1ゲームになった。毎日、天気予報の様に開発状況がニュースで流れた。
開発には世界各国が協力した。基盤となるのは、某開発者が雇った世界各国のそれぞれの分野の専門家達が、一年前の発表の前から極秘裏に作り上げてきたものだった。
インターネットを使って世界中が繋がり、開発状況をリンクした。高性能同時通訳システムはまず初めに作られ、各国の専門家達が議論などをした。協力したのはゲーム関係の専門家達だけではなかった。それは幼稚園児から老人。脳科学者から靴屋、呼び名にあった"新世界"に相応しい程のありとあらゆる人々が協力した。
そしてその中で新たな呼び名が一つ増えた。"一攫千金ゲーム"である。その訳は開発に携わるものは勿論、貢献度によってお金が支給されるのである。その額は羽振りがよく、日本でのゲーム企業の開発者達はそれはそれはよく尻尾を振った。
学生はその恩恵に預かれないかと思ったらそうでもなかった。奇抜な、素晴らしいアイディアを出せば億万長者にもなれた。それゆえの誰にでもチャンスがあった。自分も挑戦してみたが……うん、開発する側じゃなく、やる側が向いているようだ。親が残してくれたお金がかなりあり、お金で不自由はしないので、問題はなかった。
――ゲーム開発の開始に伴い、戦火は徐々に消火されていった。戦争に使われていたお金が、ゲーム開発に矛先を変えたのだろう。それまでは戦場が数え切れないほどの数だったのが今では数えれるほどになったので劇的な変化だろう。この時点でもうすでに当初の目的は遂行されたんじゃないかとさえ思った。
テロに戦争に紛争と世界は荒れていた。争いは人間対人間が主流だったので、酷い有様だった。理由は対空兵器がとても進歩していて、戦場で空を飛ぼうものなら1分と経たずに落とされてしまうからだ。それは飛行機に限らずミサイルも同様だった。
そして荒れていたのは日本も例外ではなかった。戦争大国日本と呼ばれるほどであり、攻めては攻められ、テロを起こしてはテロを起こされ、とても平和とはかけ離れていた。義務教育という考えはなく、小学校から軍学校があるほどだ。
そして徴兵制度はあるが、行われているなんて聞いたことない。徴兵の基準も明確に示されていない。それは示さなくても軍人は世間から英雄扱い、給料も高額。軍学校も、費用は国負担で逆に給料と言う名の小遣いもくれる。
これらの制度によって無理矢理徴兵しなくても軍人はたくさん居た。現に小中学校の同級生、進学先に軍学校を選んだ人数は少なくはない。学校を退学して途中から行く奴もいたほどだ。
しかし、念には念をかけて、自分は筋肉をつけず運動部にも入らず勉強を頑張った。――というのは言い訳で、ただ単に運動は好きではなく、ゲームが大好きだからだ。
――そして最終的には擬似戦争機構が情報を、技術を纏め上げ作った。期間は約一年だった。一年と言う製作期間は早かったのか遅かったのかは規模と技術が想像の範囲外だったので全くわからない。
その間何だかんだあったが、結局は日本人の某開発者が代表の擬似戦争機構が結果的に作り上げたので、日本が"世界を手の上で躍らせた"んじゃないのか? との議論も少し起きた。――がほんの少しだった。それは他の国が外国に"踊らされた"なんて認めるような議論を話題にするわけにはいかなかったからじゃないかと思う。
こうして世界の技術とお金の結晶、VR MMO FPS、名づけて『VS』(バーサス)が完成した。
世界は擬似戦争時代に突入していった――――。