3話:空野家特製トースト
翌朝、学校へ行く準備をしていると規則正しい音が聞こえた。
ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ……
自然と起きれる性質なので家で聞くはずのない目覚まし時計のような音。
それゆえ不思議に思いつつ音の聞こえる方を見ると、つけてあったTVからだった。画面上方には『臨時ニュース』の文字が点滅していた。そして、テロップが右から左に流れてきたので、口に出しながら読んでいった。
「擬似……戦争の……実用が……決定……しました………………うぇええええーーっ!!?」
その後、立ったままボーっとテレビを見ていた。内容は頭に入ってこなかった。
ッハと我に返り、時計を見たらいつも家を出る時間になっていたので考えるのは後回しにした。
向かう先は、自宅のマンションから徒歩30秒以内にある幼馴染の家だ。
小走りのまま家に吸い込まれていった。手馴れた手つきでドアを開け、
「お姉さん、おはようございますー」
と言いながら、まるで自分の家のように入っていった。
それもそう、もう十数年続いている習慣だからだ。
「わーちゃんおはよー!」
と、奥から朱利のお姉さんの元気な声が聞こえてきた。それと共にバターとトーストの焼けている良い匂いがした。
お姉さんと呼んでいるが、朱利の母親である。理由はおばさんと呼ばれる事を極端に嫌うためである。そしてお姉さんと呼ぶに相応しいほど、綺麗である。"この親あってこの子あり"だった。――身長含め。
玄関の左手にある階段をトットットットと上っていく。
そして廊下中央の右側ににあるドアをノックもせずに開ける。
そこはなんとも可愛らしい女の子女の子している部屋だ。ベットの上にはぬいぐるみも勿論たくさんある。
そして、ベットの真ん中には子供一人が丸まっているぐらいの大きさの膨らみが見て取れる。
すうっと息を吸い、足を肩幅に広げ、拳銃を構えるポーズをとり、大声で言った。
「おぬし!! 何者だ!! 武器を捨てて両手を挙げろ!!」
――布団の中身がピクっと動いた。
「そうだ! そのままゆっくりこっちを向け!」
――布団の中身がモゾモゾ動き始めた。
「……お、お前は朱利じゃないか!」
『牢屋にいる者を脱走させに来た曲者を察知して、ホールドアップさせたはいいが、その人物は知り合いだった! しかし、その知り合いは……(略)』というのが今日の設定である。
布団の中身がガバっと起き上がって、ベットの上で土下座しながら謝って来た。
「ごめんなさいっ! お腹が空いていて我慢出来なかったのでシュークリームを少しだけ……」
そして続けて涙声で
「ごめんなさい〜……」
何とも可愛らしい声だった。普段からは想像も出来ない。
「寝ててもシュークリームって…………ぶはっあはははははは!!!!」
シュークリームは朱利の好物である。大声でひとしきり笑い、出てきた涙を手でぬぐいつつ、ポケットからペンと手帳を出し会話を筆記する。書き終えると
「これだから止められない。さて、明日はどれにしようか……」
と呟きながら、下に降りていった。
――――
そして和手が1Fについたあたりで、ん? と顔を上げる朱利。
その目はほとんど開いてない。
朱利は寝ぼけながらも体が覚えてる習慣に従って、寝巻きから制服に着替えて、一階へ降りた。
――――
――朱利をただ起こすだけじゃつまらなくなった和手は、ある日から変な起こし方を実行し、"紀行"ならぬ"奇行"を日記として書き綴ることが日課となった。その手帳には起こし方のアイディアがところ狭しと書かれている。将来、朱利が大物になった時"伝記"ならぬ"伝奇"として販売を目論んでいるとか……いないとか…………
―――――
リビングでキビキビと朝食の準備を手伝っていると、朱利が降りてきた。
「……私にまた何かした……?」
目を擦りながら聞いてきた。
「ん? ただ起こしただけだよ」
「……ふーん……」
何のことか分からない。といった感じでやりすごした。
朱利は寝ぼけているので、何とでも誤魔化しが効く。
朱利はイスに座って、半開きの目でテレビを見だした。
そして朝食の用意が整うと、3人揃って手を合わせて
「「「いただきまーす」」」
と、二人が元気良く、一人が寝ぼけ声で言うと、そこからは黙々と食べはじめる。
メニューはバターを縫ったトーストを焼いた後、その上からハチミツをたっぷりかけられた空野家特製トースト。
もう1品は空野家特性ドレッシングがかけられたサラダ。
自分は食べ終わるとテキパキと片付け、紅茶を入れ始める。――朱利は8割方開かれた目でテレビを見ている。
『次のニュースは昨日採用された擬似戦争についてです。まずはこちらをどうぞ!』
「擬似戦争って何?」
と朱利は言った。
「んー……お、説明始まるみたい」
説明を開始しようとしたところで、TVの画面が変わり説明文と画像が出ていたので、TVに任せることにした。
ニュースキャスターが読み上げていく。
『擬似戦争とはこのようなヘルメットを被り、直接脳内の信号を読み取り、現実のような非現実の世界にログインする。これを利用して現実で戦争を行うのではなく、非現実の世界で戦争を行う。それを擬似戦争と呼びます』
ヘルメットの見た目は安全第一などは書かれてない、強盗が被ってきそうな黒いフルフェイスの物だった。
画像の下には(仮)と表記されてあった。
『まだ情報が公にされておらず断片的な情報しかわかりません。が、しかし! 近いうちに国が詳細を発表するでしょう!! もー楽しみですっ!!』
楽しそうな熱血ニュースキャスターが語った。
「ふーん……よくわからない、詳しく説明して」
可愛そうな熱血ニュースキャスター。
「説明してあげたいんだけど……時間がないから歩きながらでー」
「む……」
キツイ目で睨まれた。本当に時間が迫っていたので、そそくさと立ち上がり
「お姉さん行って来ます〜」
と言うと玄関に向かい、外に出た。すぐに玄関から「いってきますー」と声が聞こえたのと同時に朱利が出てきた。