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30話:メロンと絶壁



 女医に拉致されたその日はVRが出来なかった。15分〜30分置きに女医が来るものだからチャンスがない。自宅まで帰るのは足がまだ本調子まで程遠いのでどうしても時間がかかるのだ。夜は病院事態に監禁されるが如く出入り口が施錠されるので出ることも出来なかった。

――が、どうしてもVSをやりたかったので、次の日のお昼、女医が去った後直ぐに抜け出して、先に呼んでおいたタクシーに乗って自宅まで着くと、急いでVRを取ってき、自室のロッカーに隠しておいた。


 そして満面の笑みでロッカーを閉めた時――個室である和手の部屋のドアが勢い良く開かれた。


「やー! 和手君、元気になったー!?」

「っ!! お、おかげさまでっ」

「ふふーん……」


 ロッカーに背中を付け答えると、にやついた顔でこっちとロッカーを交互に見てきた。


「な、なんでしょうか?」

「ふふふ……。まぁいいわ。隠し物を見る趣味はないから安心してちょうだい」

「ははは……」と、笑って誤魔化しておいた。

「それじゃあ、診察するからベットに座ってちょうだい」

「あ、はい」


 言われるがままロッカーの前から離れ、ベットの上に座る。

 が、判断が甘かった――キラーンって女医の目が輝いたかと思うと、素早い動きでロッカーを開けられた。


「隠し物を見る趣味は無いけど……隠しているエロ本がどんな内容かを見る趣味はあるのよ!」

「ああっ!!」


 何ていう悪趣味だ!! と思いながらも止めに入ろうとするが、ベッドに張り手の如く両手で勢い良く押し倒され、痛みで悶える。医者の癖に患者に手を上げるとわ!! 医者の癖にぃぃ!! 


「どんなのが好みなのかなー?」


 女医は少し顔を朱に染めながらロッカーを漁っている。

 一応服でカモフラージュしているが、大きさから時間の問題だった。


「エ、エロ本なんてないですっ! そ、それよりも、女医さん綺麗ですね! 美しい! 可愛い! 惚れちゃいそうですよ!」


 ここで見つかっては、没収され入院中は一度も出来なくなる。それだけは避けなければいけない。


「え? そ、そうかしら?」


 漁っていた手が止まり、手を頬にやりこちらを向いてきた。――HIT! HIT! 釣れた!!


「え、ええ。そ、そういえば名前って何て言うんですか?」

「私は麗華よ。レイカって呼んでくれていいわよーっ!」

「あ、は、はい。レイカさん、若く見えますが、年は何歳なんですか?」


 所々に褒め言葉を細かく入れるのを忘れない。


「聞いて驚くなよー!? ピチピチの18才よっ!」

「ええ!? そうなんですか?? 2歳しか違わないんですかっ!? 学校はどうしたんですか!?」


 本気で驚いた。医者が18歳なんて聞いたことがない。


「日本の基準で考えてもらっちゃ困るわ。もう大学卒業してるわよー、それにここの院長の娘よっ!」

「うわー、凄いですねぇー」

「そうよ、そうよー!」


 胸を限界まで張り、高らかにエッヘンとポーズを取る幼稚な医者。――胸は幼稚ではないが。

 そして聞かなかった方が良かったという事に気がついた。――2歳しか違わない人に息子を見られたのだ……。


「うわぁ……18才に……見られた……」

「まだ気にしてるの? もう、肝っ玉小さいわねー」

「う、うう…………」

「エロ本はもういいわ! 代わりに私がお相手してあげるわ!」


 急にそう言うと、手をわしゃわしゃさせながら近づいてきた。


「ちょ、ちょっと! な、何を言ってるんですかっ!?」


 といいつつも、完全拒否な態度は取っていない。――和手は押しに弱いのである。


「2歳ぐらいの年の差、全然許容範囲よー!」

「だ、だめですっ! まだ知り合って間もないのに!」

「お? 日数立ったらいいのね? それじゃあ楽しみにしてるわー!」


 そう言うと、急に去って行った。


「うっ……からかわれた……のか……? …………まぁいいや。VSは死守出来たし。隠し場所を変えないと」


 落ち込むよりも、VSを死守出来たことの喜びを感じる。


 シューティングをこよなく愛する男。その名も和手!! 他の事など二の次でしかない!

 息子を見られるか、VSが出来るか。比べること自体がナンセンス!! ――ということで、さっそく行動に移す。


 自分の個室には良い隠し場所は無かったので、ヘルムをシーツに包み、隣の個室に頼みに行くことにした。

 非常識な気もするが、形振りは構っては居られない。


コンコンッ


「はい、どうぞ〜」

「すみません、お邪魔しますー。あ、あのー、隣の者なんですが、ちょっと頼みたい事があるんですがー……」

「…………」

「…………」

「「お、お前は!!」」


 そこに居たのはGMである、あのチビ助だった。前回、結い上げられていた金色の髪は下ろされていて、腰辺りまであった。

 ベットの上に立ち上がっている。その金髪がゆらゆらと揺れて、その整った顔と相まって、神秘的とも言える雰囲気を出している。

 しかし発した言葉はそれらをぶち壊すものだった。


「ここであったが100年目!! 私をチビ助と言ったお前は許さないからな!!」

「うっ……」


 これは、どうしようか……。と、後ずさりしていると、抱えているヘルムの存在を思い出した。

 背に腹は変えられない!


「あ、あの時は、つい口が……、いやぁ、悪かった!! この通りだ!」頭を深々と下げた。

「う、ぬ、うぬぬ……、やけに素直じゃないか……」


 効いている効いてる。じっくり攻めていくのもいいが、ここは時間が無い、あの女医、レイカさんが何時帰って来るか分からないのだ。直球で頼むことにした。


「そこで、頼みがあるんだ!」

「な、なんだ?」

「このヘルムをロッカーに隠しておいてくれないか?」

「な、なんでお前なんかに、私のロッカーを貸さないといけないんだっ!」

「う……、同じ病院の隣同士のよしみで……?」

「ふんっ! チビ助と言った事は忘れてないもん!!」


 と、第二作戦、褒め殺しへ移行しようと思った時――レイカさんの(陳腐な)鼻歌が廊下から聞こえてきた。


「ふんふんふふーん、たんたんたたーん。今日も元気なレイカたーんっ!」

「ま、まずいっ!」

「入るわよー!! …………あれ? わーてーくーんー? どこいったのー?」


 大声で叫びながら、隣の部屋で豪快に探し回っている音がしている。この分だとこちらに来るのも時間の問題だった。


「何だ? お前、レイカ様から逃げているのか?」

「様だって? お前知り合いなのか?」

「私が尊敬している者の1人だからなっ!」


 と、チビ助は胸を張って、自信満々に言った。


「へ、へぇ……なるほどね」


 その張った胸と、レイカさんの胸を思い出して言った。その事に気がついたのか……


「お、おまえええええええええええ!!!! どこを見ている!!!!」


 ない胸を手で隠しながら、大声で怒鳴ってきた。


「わっ! バカ! 声が大きい!!」

「バ、バカって言ったな!! レイカ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! こっちに居ますぅぅぅ!!!!!!!」

「んん? その声はリルリルかいー!?」


 VSを阻止しようと強敵がやってくる。これは非常にまずい。


「く、くそっ!! ロッカー借りるぞ!!!!」


 ロッカーを勢い良く開け、持っていたヘルムを突っ込み、閉めたところで、レイカさんが入ってきた。間一髪だ。


「おおう! こんなところにいたかー! 逃げ出したのかと思ったよー!」

「ははは……、レイカさんの様に美しい人から逃げる訳ないじゃないですかー……」


 たどたどしくも褒めて攻め落とそうとする。


「おお! 和手君はにくいこと言うのー。……んん!? 2人は知り合いなのかー!?」


 チビ助に余計な事言うなー、言うなーって目線を向けた。


「お姉様、この者は一体なんですか?」


 さっきまでの態度とは180度変わって、急に丁寧な口調になった。


「私の患者だよー?」

「そ、そうですか」

「リルリルも、私の患者なんだから、ベットの上で立ってないで大人しくしてるんだよっ?」

「は、はい! お姉様!」


 チビ助は180度様子が変わり、ベットの上に正座した。


「それより、リルリルにやっと初めての友達が出来て良かったよー!」

「ち、違います!!」

「初めてってことは……?」


 いないってこと……? と含みを聞かせて言った。


「う、うるさい!」

「へー……」


 弱みを握ったので、思わず口元が緩む。


「く、なんだその顔は!!」


 チビ助はベットの上に再び立ち上がり、こともあろうに蹴りを入れてきた。

 咄嗟のことで、さらに怪我していたせいもあり、避けれず肩に綺麗に入った。


「い、いてえええええええええ!!!! な、何すんだこのチビ助!!」


 肩も怪我しているので、激痛に涙目になりながら、チビ助の両方の頬っぺたをつねった。


「ひビしゅけ言うひゃ!」


 と空いた口からも空気が漏れて変な発音になりながらも言い返しながらつねり返してきた。


 口論していると、後ろから静かな声が聞こえてきた。


「あらーまぁー、元気ね2人とも。でもねぇー、私の患者には大人しくしてもらわないとぉー……」

「レ、レイカ様! 私は寝させていただきます!」


 するとチビ助は急におびえた様に、つねってた手を離し、布団に潜り込んで行った。





「良い心がけねっ! さて、和手君はどうする?」


 すると布団の中からボソっと聞こえてきた。


「大人しくした方が良いぞ……」


 その言葉を直感的に従うことにした。


「え、えっと、大人しく寝させていただきます」

「えー、つまんないの。注射する機会あんまりないから、楽しみだったのに……」


 そして、また布団からボソっと聞こえてきた。


「鎮静剤を、規定量以上打たれるぞ。――幾度の失敗の後」


 レイカさんの手を見ると、注射器をピュッピュさせて持っていた。そのピュッピュも雑で、結構な量が床に飛び散っている。


「残念ね、わかったわー、それじゃあ2人ともお休みなさいねー和手君、また来るわー」


――嵐は去って行った。


「……助かった。一応礼を言っておくよ。ありがとう」

「ふんっ。さっさと出て行け」

「可愛げのない奴め……」

「うるさい! 早く出て行け!」


 これ以上、また騒ぎになってレイカさんに注射打たれるのは勘弁だったので、大人しく出て行った。――目的は一応達成したのだ。


 そして夜になり、あと10分で消灯時間の時、最後のレイカさんの訪問が終わったので、隣のチビ助のロッカーにヘルムを取りに行くことにした。


トントン


「どうぞー」


 チビ助は本を読んでいた。そしてこちらを見るや否や、汚物を見たかのような顔をし


「何だ、お前か」


 吐き捨てるように言われた。唾が溜まっていたら吐かれていた気がするのは気のせいだろうか。


「ヘルム取ったら直ぐに出て行くから。それにしても言わないでくれて助かったよ。VS出来ない生活には耐えれそうにないからなー」

「当たり前だ! 頑張って作ったんだからなっ」


 チビ助はそう言うと再び本に目を向けた。少し嬉しがっているようだった。


「ああ、そういえばお前も製作者なのか……そうは見えないなぁー」

「ふんっ」


 口は災いの元、自分があまり喋ると、このチビ助があの迷惑女の様に、第二の迷惑女と化し、自分に被害が被るのはもう嫌なので、手早くロッカーを開けてヘルムを取り出した。


「ん……あれ?」


 包んでいたのがシーツじゃなくて、綺麗な布になっていた。おかしいなと思い、その場で開けて見ると


「何だこれ……? 猫の絵か……? 俺のじゃない」


 あっ! とチビ助は言うと、本を捨ててこっちに飛び掛ってきた。


「か、返せっ!」


 ヘルムを高く持ち上げる。


「ん? お前のか……? ……これが?」


 身長差があるため、高く上げたらチビ助がジャンプしても届かなかった。


「み、見るな!」


 チビ助はみるみる赤くなっていった。


「へぇーこの猫可愛いな」

「うるさいな!」

「何だ、褒めてるのに」


 チビ助は、む、むむぅ……と言いながら大人しくなった。そして、ほら。と言いながら、猫の絵が描かれたヘルムを返した。


「うむ……」


 そこである事に気がついた。


「……ん……もしかして、俺が隠していることレイカさんに言わなかったのって……。お前も隠していたから……?」

「うっ……」


 どうやら図星だったようだ。


「何だ、お互い様か」

「ふーんだ! 早く取ったら自分の部屋に行けよっ!」


 また蹴られかねないので、わかったわかった。と言いながら、ロッカーを見るともう1つシーツに包まれた自分のヘルムがあったので、手に取り、部屋から出ようとすると……


「お前のも見せろっ!」


 がばっと布が取られた。


「うわぁぁ……」


 目を大きく開いてまじまじと見つめているチビ助に、自信満々で言った。


「どうだ、カッコイイだろ?」


 虹色のヘルムを撫でながら見せ付ける。しかし帰ってきた言葉は正反対の物だった。


「趣味わるぅ……」

「っく……朱利といいお前といい……俺はお前の褒めてやったのに……」

「む、むう……ふんっ! 用が済んだなら出て行けっ!」


 といいながら、背中を押してきた。


「イツッ!」


 思わず仰け反った。


「な、なんだ? 背中怪我しているのか?」

「まぁね……」

「どんな感じなんだ?」


 うーん、と少し考えた後、説明するのも面倒だったので、こんな感じ。と服を脱いで見せた。


「う、うわ! 何だお前、ミイラ男か!?」

「二言目には悪口出てくるなお前は……」

「む、むう、怪我は男の勲章で、それがいっぱいだから…………」

「ああ、すまん、俺が悪かった。無理に褒めないでいい…………」


 何とも変な空気になり、気まずくなったので出ることにした。


「そ、それじゃあな」

「う、うむ」


 そして、久しぶりにヘルムを被りVRにログインした。


 迷惑女は流石にもう言い寄って来ないと思っていたが、念には念を重ね、入る戦場は『綾』という文字がないか全て確認する羽目になった。

 その日は迷惑女の襲撃も、隣のチビ助の襲撃も無く、問題も起きず楽しくVSをすることが出来た。



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