表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

2話:消せぬ傷


「今日はここまで、委員長」


 先生が言ったとたん、空気がピシっと張り詰めた。


「起立! 礼! 着席!」


ガタッ、ザッ、ガタッ


 と揃った音を立てて、軍隊並みにかしこまった挨拶が済むと一気に空気が緩んだ。

 そしてざわざわと教室がにぎやかになる中、この少年、和手は大きくため息をついた。


 この少年の風貌を一言で言うとケケケの鬼太郎に近い。

 髪は黒々しく、その上長い。前髪は顔の右側半分をほとんど隠す程だ。

 そこまで長くしているのには訳がある。小さい頃の事故により体中至る所に傷痕、手術跡があり、顔にも例外じゃなく大きな傷跡があるからだ。

 デコの真ん中から始まり右頬まで続く月型の傷で、右の眉毛は左と比べて半分しか生えてない。ギリギリ目はそれていて、失明になっていないのがせめてもの救いだ。

 そしてさらに癖毛なので、綺麗系とは言いがたい風貌である。アンニュイと言えば聞こえの良い雰囲気があり、オシャレっぽいので、アンニュイだろ。と最近言っている。

 癖毛を朝に直す努力を昔はやっていたが、いつからかめんどうになり今に至っている。

 身長は長くも短くも無い平均的。勉強も、通っているここは進学校ではあるが、その中で中の中。至って平凡である。

 

「ふー、終わった」


 ため息をつきながらイスにだらしなくもたれ、そして反転した世界で後ろの可愛らしい少女を見た。


「この一日の授業終わりの開放感はなんともいえないんだよなー」

「うっとおしい」


スコンッ


 と、その少女は額を定規で叩いて来た。ペチっという音ではなく、スコンという音だ。つまり鋭角の方で叩いて来たこのサディスティック少女は、幼馴染の空野そらの 朱利しゅりである。

 身長は低く、とてもとても可愛らしい小中学生に見える程だ。そして腰まで届きそうな綺麗な長髪である。幼馴染という役得バンザイ!! これ程可愛い女の子と関わりを持てるなんて、これから一生ないだろう。役得バンザイ!!

 しかし外と中は別の話である。

 昔、ある生徒が"からし入りシュークリーム"と表現した。最後のピースがはまったパズルのようで賞賛を送りたかったが、送れるような状況じゃなかった。その事件は"シュークリームの大爆発"と呼ばれている。


「鋭角は痛い……」


 とボソボソ言いながら、涙目で帰る準備をはじめた。




ガタンッ!!


 激しい音とともに教室の扉が開いた。


「ふふふ、泣きながら喜べ、聞いて怒れ!! 配給品を持ってきたぞ!! 席に着けっ!!」


 右手に風呂敷に持った女の担任が勢い良く入ってきた。心の中では騒音変人と呼んでいる人である。

 風呂敷を広げると生徒たちから歓声があがった。風呂敷の中身は束になった新聞だった。

 新聞は多くの生徒が読むようになってからは、帰りのHR(ホームルームの時に担任の先生が配るようになった。それまでは廊下に張られてた。

 配られ始めると、教室内のあちこちからさらに歓声があがった。

 配られてきた新聞を見ると……


『擬似戦争、実用か!?』


 と大きな見出しが目に入った


「ええっー!?」


 歓声を上げ自分の世界に入り読み始めようとした時、後ろからドスっと強烈なチョップが脳天に入った。


「先に後ろに回せあほたれ!!!!!」

「ごめん…………」


 とまたしても涙目になりつつ後ろに回した。

 周りは我関せずを決めて目をあわそうとしてくれない。

 いや、きっと新聞に夢中なだけなのだろう……。きっと……。


 誰も聞いてない学校の連絡事項を先生は言い終わると


「連絡事項以上! 委員長!」

「起立っ! 礼っ! 散開っ!」


ガタッ、ザッ、ザッ


 クラスは軍隊ではない。委員長が軍隊マニアなのである。最初は皆戸惑っていたが1ヶ月もすれば慣れてしまった。

 掃除の始まる教室でゆっくり新聞は読めそうに無いので帰ることにした。


「おーい、和手一緒に帰ろうじゃないかー!」


 声をかけてきた少年は、髪は天パーで同じ身長ぐらい、似合わない眼鏡をかけているモテナイクラスメイトの加賀かが かける、心の中のあだ名は"変人×変態"。不幸なことに同じ中学出身で今はクラスメイト


「……和手さーん、声に出てますよー?」

「わざとです」

「うわーん、ひどっいさー!」


 カケルは泣く真似をしつつ教室から走り去った。泣き真似をする男なんて気持ち悪い以外の何者でもない。

 しかし、中高共に新聞部を立ち上げ、その部長で高校にいたっては新聞部が作る学校新聞を1ヶ月で浸透させたという経歴も持っている。

 ほっといて、走り去った方と逆方向にある階段に向かった。


 靴箱に行くとクラスメイトの赤木あかぎ しゅうがいた。愁も同じ中学出身。短髪で180オーバーの剣道部所属。スポーツマンだ。


「あれ、今日クラブ休み?」

「そうだ」

「一緒に帰ろうか」

「問題ない」


 スポーツマンというより、侍だ。一言で返されるというのは嫌悪感を感じたり、嫌われてるのだろうか? などと普通は思うが、シュウは昔からこうだったので別に気にしてない。

 雑談をしながら校門を出て、少し歩いたところでシュウは急に止まった。


「後ろのはほっといていいのか?」


 ッパと後ろを振り返ると電柱に隠れてる、変態クラスメイトと目があった。が


――見なかったことにして、再び歩き出した。


「……ちょっ、おまっ、まってくれー! そこは何か一言欲しいなー「何か用があったんじゃないのか?」」


 横に並んできたカケルの発言を断ち切るようにシュウが言った。


「そうだった! 新聞の感想を聞きたいんだけどー」

「まだ読んでいない」と言うと、

「そっかー残念。それじゃあ、どこか遊びに行こうー!」


 これが本題とばかり声を上げて言う、しかし


「用事がある」と即答のシュウ。

「俺もいやだ。今日は帰って新聞を読む」

「なら一緒に新聞を読もうじゃないか!」


 奇妙なことを言ってきた。


「男二人で新聞読むってどうなのさ……」

「……和手となら……構わない……っぽガハッ!」


 「っぽ」と言うと同時にカケルの横っ腹に、シュウからのえぐり込むようなパンチが入った。


「不愉快だ」


 自分は気持ち悪いと感じる前にシュウの対応がわかったので、その状況を楽しんだ。

 3人いるといつもこのような馬鹿話をしている。

 そんなこんなで寄り道もせず、直帰した。


 


 家に着くとさっそく読み始めた。


 まず目に入るのが、大きな見出し『擬似戦争、実用か!?』である。

 この擬似戦争とは、あるゲーム会社の某有名開発者が約一年くらい前に発表した論文、案であり、ニュースで大きく取り上げられたものである。

 簡単に説明すると、"擬似的な戦争をすることによって現実の戦争はなくなり世界は平和になる"というものだ。

 夢物語のような話だったので、一発芸人よりも早く1ヶ月ぐらいですぐに消えるだろうと思っていた。それ以上に早く、1週間後次の話題が出てくるとかき消されたかのように話に出てこなくなったのだ。

 ちなみに解説者はこう言っていた。


『話題作りのため無理やり持ち上げられた生贄ですね。それにこれは机上の空想にすぎません。こんなこと言い出したバカは飛んでいけばいいのに』


 机上の空想。その通りだと思い、そこで自分の中では解決していた話だった。

 話題に上ってる1週間の間ならこの新聞には"普通"にくいついていただろう。

 しかし、あえて今にこの話題。何かあるに違いないと思い、巨大な期待とチラチラ顔を出す不安でワクワクしていた。――不安というのはたいした理由をもたない場合である。



 読み進めていくと、こんなことが書かれていた。


『世迷言と見られていた擬似戦争ですが、ここのところ何か動いているという情報を入手しました』

『ある日、ある政治家と政治家が擬似戦争について話しているのを聞いたんです。場所は2F東館トイレ。これ以上はいえません。証言者K氏』


(……高級料亭での密会とかじゃなくて……? いや、意外とそういう場所のほうが信憑性高い会話をしているのかっ? うーん……)


 首を傾げながらも読み進めた。

 他にはニュースで散々取り上げられて議論されていたルールが載っていた。


"戦争に負けた場合、勝った側の『要求』は必ず受けなければならない"

"『要求』はお互いに釣合う物とし、戦争前に決めるものとする"


 簡単に言うと


「ケンカしようぜっ! 俺が勝ったら、100万相当のドライヤー貰うぞ」

「いいよ。しかし、僕が買った時は、100万相当の目薬貰うよ」

「「さぁ勝負だっ!」」


 といった感じだ。

 

 話し合いによる解決とは程遠いので、色んな批判が相次いだ。

 色んな意見が出てたけど、どれが正しい意見なのかはわからなかった。


 そして読み終わったころにすっかり外は真っ暗になっており、夕飯を食べるのも忘れていた。

 親は小さい頃の交通事故で2人とももう居ない。3人で暮らしていたマンションに今は1人暮らしだ。3人で暮らすことが出来る広い部屋なので一人にしては大きすぎるが、開放感があり気に入っている。

 インスタントラーメンでさくっとすませると、毎日欠かさずやっているゲームを思う存分し、寝た。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ