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28話:最悪の日

 上着を思いっきり投げ捨てた。


「な、なんだ、どうした!?」

「ふう、スッキリ。一般人の家ではこういう仕来しきたりもあるんですよ」

「そ、そうなのか……?」

「で、現実の訓練なら尚更駄目ですね」

「どうしてだ!? お前は部活にも入ってないし習い事もしていない。暇だろう!」


 人のことを暇人呼ばわりする、この女……。

――実際にそうだが。直球的に言われると……顔が引きつりながらも答える。


「自分は訓練教えるような、出来た人間じゃないですよ? 体もひ弱ですし、運動もご存知だと思いますがダメダメです」

「いーや! 私はお前を知っているぞ。訓練の成績と、先日の二試合(3人との戦いと、その前の試合)と、さらにはあの後の試合も全て見たからな! さらに言うなら土日の試合も見たぞ! ちょっと……まぁあれだったが、良い試合だったと思う!」


(ストーカーだ。間違いなくストーカーだ。……ってかどうやって俺の試合見たんだよ!?)

 色々と疑問が出てくるが、一先ず横に置いておく事にした。


「えー、えーとー……」

「私は訓練の成績と先日の2試合では、私はお前に教えを乞おうぐらいしか考えてなかった。しかしだ! 更にその後の試合も見て、私の考えは変わった!! お前になら初夜を上げてもいいとさえ思ったんだ!!!!」

「ええええ!!!!!?????」


(なんだ、この暴走女、やばいぞ、やばい!)

 和手の中の、警報ボタンが高らかに鳴り響きだした。和手の中の和手はあるだけ全ての警報ボタンを連打して鳴らしまくっている。


「心に秘めた鬼の様な猛々しさ。そしてそれを全面に押し出すポテンシャル。そう、あの様な男らしい男、男の中の男と私は生涯を共にしようと考えている。そう、お前だ!!」


 この美少女が人を指差す様子。実に様になっている……が……。

(勘違い女が暴走している。非常にやばい)

 あの日、その鬼の様に暴れさせたのは、お前がちょっかいかけてきたせいもあるんだよ! と声に出して言いたかったが、ややこしくなりそうなのでやめておいた。


「え、ええっと、勘違いなされてます。先程言ったように……………………ああ、もういい!! 実際にやってみようじゃないか!」


 こういう勘違い人間には、説明しても聞き分けないと分かっていたので、実際に目に見せれば分かると思った。が…………。後悔どころの騒ぎじゃなくなることに…………。


「おお!? やってくれる気になったんだな!」

「ああ! やってみれば分かる!」

「どうする? 服は着替えるか?」

「いや、このままでいい」


 どうせ、一回で終わるだろうから


「おお、服を汚さず訓練が出来るほど凄いんだな……やはり見込んだ通りの男だ……」


 何かブツブツ言ってるが、ほって置いて外へ出た。


「で、何の訓練?」

「そうだな……まずは柔道、組み手でどうだ?」


 組み手という言葉に、連想されるイメージ。たまにはこんな事があっても、神様は怒らないだろう。うん。


「な、何でもいい早くしよう」

「こっちだ」


 お前は、一緒に歩くものは、手を繋がないと歩けない種族なのか? と言わんばかり、手を繋いできた。

 もしかすると、本能的に逃げ出させないようにさせているのかもしれない。


「ここだ!」


 するとそこは体育館の様な所だった。中に入ってみると、そこはとてつもなく広く、あらゆる種目のスポーツに対応していた。

 金持ちの道楽も行き過ぎだろ!! と思わされる程だった。


「とりあえず、さっさとやろう」


 下心はない。…………。


「はい! 師匠」


 急に態度が変わり、背中が痒くなるが、早く終わらせたいので直ぐに畳の上へ移動した。


「それじゃあ、いくぞー」

「はい!」


 いつの間にか柔道着を羽織っている美少女と組み合う。しかし、何も始まらない。


「………………あれ? 師匠、技かけて来ないんですか?」

「……技なんて知らないから」


 思えば、柔道なんてしたことがなかった。


「…………? なるほど! かけてこいってことですね? 行きますっ」


 何か勘違いしているが、早く終わる事に越した事はないだろう。


ッサ


 足をさばこうとして来たのを、ぎりぎりで避ける。


「流石師匠! 避けるの上手いです! ヤッ!」


ッサ


「ムムム、やりますね! ヤッ! ハッ! テヤッ!!」


ッサ

ッサ

ッサ

ッサ

ッサ


「ハァハァハァ……、ちょ、ちょっと待ってッ!」


 朱利の日常的なDVと、動体視力のお陰で避けることが出来たけど、10秒と持たずにスタミナが切れた。


「試合中に待ったなんてありませんッ」


バターンッ!!


 室内に、良い音が響き渡った。


「ガハッ!! い、いてぇえええええ!!!!」


 良い声も響き渡った。体が打ち付けられて、肺から空気が無理やり押し出された。


「あ、あれ……? な、なるほど! まずはお前の実力を見るためにも、どんどん技をかけてこい! ってことですね? 行きますっ」

「ま、まてっ! 違う、もう負けた! あぁっ!!」


 無理やり立ち上がらされては執拗に何度も何度も技をかけられ、難なく気絶した。

 そこへボディーガードが水を持ってきて浴びせてきて無理やり覚醒させられる。その時、


「……はぁはぁはぁ…………ちょ、ちょとまって……。お、お前はもう俺が運動出来ない人間だってわかっただろ……。止めさせてくれッ!」


 と、救いの手を求めたが


「何のことか分かりません。決して小型スピーカを付けた服をほり投げたことや、お嬢様と密着していること等に怒りを覚えているわけではありません」


 救いの手は跳ね除けられた。


「こ、こいつ……「あっ、気づきましたかっ! 次行きましょうっ!」」


 その後、数時間に及んで勘違い暴走娘による訓練が、格闘技全般や射撃全般と多岐に渡って様々な種目で続けられた。役得なんて淡い妄想は砕かれた。――射撃なら上手く出来るんじゃないか? と思ったが、反動耐えれるほど自分の体は丈夫じゃなかった。

 そしてやっと弱いことに気づいたのか、気絶させられたまま起こされなかった。



 自然に目を覚ますとソファーの上だった。


「……ここは……どこだ……」


 見慣れない天井が目に入った。


「やっと気づいたか」

「ん、んん……貴女は……誰……だ?」


 だんだん、意識がハッキリとしてくる。思い出した。ここは客間で、目の前に居るのは悪魔だった。


「……悪魔めっ!! っく、まだやるのか! もう止めろ!! 止めてくれ!! 止めてくださいお願いです……」


 涙目になりつつ、許しを乞う。

 

「弱い者虐めは趣味ではない」

「……なに! 散々やっといて、そのセリフか…………っ!! ……なっ! お、俺の服をどうしたっ!?」


 そこで気付いた。服を見ると全く別物の、執事が着ていた高そうな黒服に変わっていたのだ。 


「ああ、ボロ雑巾の様になったから捨てた。ボロ雑巾で私のソファーの上に寝られてはかなわん」

「お、お前が脱がしたのか!?」


 制服が捨てられたことより、羞恥心で顔が真っ赤になる。


「安心しろ。私が見たのは腕だけだ。確認のためにな。何だそのヒョロっこいのは……騙されたわ。折角、運命相手が見つかったと思ったのに……興ざめだ」

「な、誰が脱がしたっ!?」

「メイド達に頼んだぞ。寝たまま体も洗って貰えて良かったな。庶民には二度と受けれないだろう?」


 髪も触ってみると、水と汗等で汚れていた髪は、今までにない位綺麗になっていた。


「な、な、なんだって!? メイドって女なのか!?」

「勿論そうだ。何だ? メイドに体を見られるのは恥ずかしいのか?」


 反論の言葉が口まで来ていたが、飲み込んだ。

 これ以上、文化の違いを討論しても無駄だと分かったからだ。

 

「………………もう、いい。帰る……」


 一気に力が抜けた。そして早くこの場から去りたかった。この女は当然のこと、体を全て見られたメイドとは会いたくなかった。どんな顔をして会えばいいのか分からないし、傷跡のことを聞かれるのも嫌だった。


「まぁ、待て。お前は本当にWateで、VSで強かった奴なのか?」

「…………。ご自分で確認したでしょ? それに、貴女みたいな綺麗な方(内面は遠くに置いといて)の相手ならいくらでも歓迎なのですが……」

「私に惚れたのか?」

「違います(誰がお前みたいなクソ女に)。実際問題、この通り運動は平均以下なんです」

「それはいい。現実での訓練は諦めた。だからVSの訓練が一人専用じゃなくなったら訓練つけてくれ」


 VSの訓練を多人数で出来るようにする。と言っている様にも聞こえた。


「それは、多人数用になってから言ってください」


 とにかくさっさと帰りたかった。

 

「ふむ……。なら、2人だけの戦場で訓練をつけてくれ」

「うっ……そうきたか……」


 その考えは全くなく、虚を突かれた。


「どうだ? 金なら出すぞ? お前が一生働いても稼げない程度はやろう」


 この女は更にたたみ込むように、金庫を指差して言った。


「すみませんが、お断りします」


 しかし即答した。


「なにっ!? なぜだっ!? 金が欲しくないのか!?」


 机を大きく叩いて、興奮した様子で反論してきた。


「やっと訓練も終わり、つい最近始めて戦場出たところで、楽しみたいんですよ」

「私とじゃ楽しくないと言うのかっ!」

「はい、ぶっちゃけそうですね。楽しいのたの字も存在しません。もっと言うなら、たの字の1画目すら存在しません」


 しっかりと目を見て、正直に言った。


「な、なにっ! 皆私と居ると楽しいと言っておるぞ!!」


 勘違いも来るところもここまで来ると少し可哀そうに見えたが、さらに正直に言った。


「その者達は、貴女の後ろにある千倉という名前やお金を見ているんでしょう。貴女は見られていませんね」


 ここまで言うと、あのボディーガードに殺される気がしたが、ボロボロにしてきて、メイドに全身を晒させ、金で解決しようとしてくるこの女に、流石に腹の虫が限界だったのでぶちまけた。


「そ、そ……そんなことないっ!!」


 一瞬心当たりがあるのか、目を伏せたが、振り払うように大声で怒鳴ってきた。 


「本当にそういい切れますか? 貴女は自分しか見ず、自分のためにしか行動しない。他人のことなんて1ミリも考えていない、クソ女ですよ? 貴女が今通っている学校の周りの女の子達は、愛想笑いで貴女に接しているんです。貴女を見るだけで吐気がし、裏で悪口を叩く女の子も少なからず居る筈ですよ。いや、居ないか。貴女のボディーガード達が既に始末してるかもしれませんね。どうですか? 突然学校を辞めた友達がいるんじゃないですか? ああ、そのことさえも気にかけたことないですか」


 そこまで言った所で、外からこの家に向かって来る音が聞こえてきた。ボディガード達が盗聴していたようだ。


「ほら、見てください。貴女が言う完全にシャットアウトされた、プライペードな家も全て盗聴されて監視されてますよ。どうやら貴女はこの家に飼いならされているだけのようですね。……貴女には男の兄弟が居ませんか? 跡取りとしてちゃんと育てられている男の兄弟が。そして貴女には結婚を決めた男性が居るでしょう。政略結婚という名のね」


 そこまで早口で言い切ったところで、ボディーガードが乗り込んで来た。


「貴様はもう黙れ!! おい、連れ出すぞ!」

「「ッハ!」」


 6人は居るであろうボディガード達は自分を取り囲み、強い力で腕を掴まれた。


「ハハハ、どうやら俺も、千倉家にはそぐわない人物として始末されるようですね。VSで戦った貴女は活き活きとしていましたよ。さようなら」

「黙れ!」


 腹に思いっきり拳を貰った。そして遠のく意識の中で見た、お嬢様の目は潤んでいたが、VRで会った時のような強い目をしているように見えた。


「…………言いたい事はそれだけか。もういい、追い出せ。殺すと後始末が面倒だから殺すなよ……」

「ッハ!」


 と、女が言い部屋を出て行くのが見えた。


(…………あれ、予定と違うくない? ここで、女は「待って!」とか言って止めてきて、ボディーガードや家の者に、盗聴という裏切られていた事に憤りを感じ、そして俺に感謝し、助けてくれる予定なのに。……あれ? こういう風に真実を言ったら、お嬢様という者はコロっと態度を改め……俺に惚れて何てしちゃったりして…………あーれー? どういうことー?)


 展開は考えていたものと全く違っていた。シュウ神に助けを求めるが、バカかお前は。現実は甘くないぞ。と一蹴された。

 となる一手は逃げ出すしかない。と思うが、貧弱な和手はパンチ一発でまったく動けなくなっていた。

   

 外に連れ出され、


「……ということは、殺さない程度なら痛めつけていいってことだ。見えない所にしとけよ」


 そんな物騒な声が聞こえ、地面にほり投げられたところで意識が飛んだ。

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