26話:見習いのスペシャリストと和手無双
土曜日、夜のVRまで特にすることもなかったので、朝から家を改造することにした。
ええ、暇人ですよ。
至る所に、いろんな物を吊るした。フライパンから、どんぶり、コップ、何でも吊るした。
さらに綺麗に片付けられている部屋に、障害物としてダンボールやら、椅子やらを色々あちらこちらに置いていった。
そしてモデルガンを持ち、準備完了だ。
さながらVSの完成。
吊るされているものを、パンパン撃って、カンカン音を鳴らす。
障害物は、巧みに壁として利用したり、時には大胆に飛び越えて――こける。現実の運動能力は最低だから当然の結果だった。
時には、吊るしてたものを連続して撃ち――派手に連続で落ちて、下の階から苦情が来る。
時には、突入から、帰還まで素早く行う――足音で、下の階からキレ気味に苦情が来る。
時には――…………
何て事を改良を加えながら一日中した。ちなみに頬っぺたは赤くなっている。下の階のオバサンに5回目で引っ叩かれた。
そして夜、VSにログインした。
せっかく取った称号なので、名前のことはさておき、能力を確かめるためにもつけて戦場に行くことにした。
称号は装備しても肩のマークが変わるだけなので、注意深く近くまで来て見ないとわからないと判断したのだ。
称号の名前は誰にも見られない。――はずだった。はずだったのだ……。
タイトルはテンプレの『英雄が住まう土地』
ルール、『ソロ』『10分間』『ランダムMAP』の戦場へ入った。
ブウンッ
草原に来た。ゲート近くは人が多い。なので、始まるまで気持ちを落ち着くためにもゲートから離れる。
……しかし、視線を感じ、立ち止まる。
装備はしっかりと全てしている。何もおかしなところはない。自分の体を見回してもおかしなところはない。気のせいか。と
再び歩き出そうとした時、声が聞こえた。
「見習いのスペシャリストって……くすっ……」
ッハ、と振り返ると、あからさまに視線を外す人が何人も居た。
周りをクルっと見渡すと、他の何十人もあからさまに視線を外す。
これは、バレている。絶対にバレている。
ウィンドウを開いて、自分の装備が見られているのか!? と思うが、誰もウィンドウは開いていない。そう、ウィンドウの参加者リストから名前を押せばその人の詳細がわかるのだ。詳細の中に装備も含まれている。
そこへ、ゲートから出てきた人がこっちを向いた。視線は自分の肩ではない、自分の頭の上を見ていた。
頭の上を見上げてみると、
『見習いのスペシャリスト』
と、ハッキリと文字が浮いて見えた。
「ナ、ナゼダアアアアアアアアア!!!! アイツの呪いかアアアアアアアアアアアア!!!!???」
叫びながら今までにない位の猛ダッシュでゲートに、自室に戻ろうとするが、無常にもゲートは閉じられ、カウントが始まった
『10秒前』
「オレヲ、ミルナ、ミルナアアアアアアアア!!!!!!!」
もはやピエロだった。
周りは口々に発する。
「見習いのスペシャリスト……」
「見習いのスペシャリストってなに……?」
「見習いのスペシャリストだってさ……ップ」
「見習いのスペシャリスト……カモっぽいなあの人」
「見習いのスペシャリスト、子供は見ちゃいけませんっ」
「見習いのスペシャリストってネタ? あの人自身がネタなのね?」
「見習いをスペシャリストになってどうするのよ」
「見習いのスペシャリスト……キモッ」
「見習いのスペシャリスト……ダサッ」
「見習いのスペシャリスト……イイッ」
「見習いのスペシャリスト……稀代のモサイね」
「何のスペシャリスト? 見習いのスペシャリスト」
ブウンッ
マップはランダムMAPでしか現れないレアマップ、闘技場だった。
視界をさえぎる物は何もないところで、数十人が乱戦を繰り広げるマップで、開始位置はど真ん中だった。
「…………オレヲミルナ……オレヲミルナ、オレヲミルナ……オレヲ、オレヲ、オレヲ、ミナイデクレエエエエエエエエエエ!!!!!」
和手は羞恥心が限界に達し、暴走、無双した。
闘技場のど真ん中で、近くに居る者から無差別にどんどん倒していく。
そして1分もすれば、残っている者は一度和手に倒され、リスポンス(リスタート、復活)した者だけだった。
しかし、そのリスポンスした者も直ぐに倒されていった。
全てのポインター、弾を避けつつ、手榴弾は全て撃ち落し、かつ正確に、現れた人達の頭に次々と射撃し、倒していく。
動きは、操り人形の様で、それも子供が乱暴に扱っているかのようにめちゃくちゃだった。もはや、奇怪としか言い様が無かった。
さらに、弾が切れる前に倒した相手の弾を、銃を他者と戦いながらも奪い取り、弾切れになることはなかった。
そして10分間、和手の集中(暴走)は切れることなく、断トツ1位で終わった。和手以外、立っていただけじゃないのか? と思うような全体の成績である。
草原に戻った人達は、誰も起こった事が信じられなかった。
そして、人々はWateとなる人物を探すが既に居なかった。
誰かが呟いた。
「いったい何者だ……?」
こうしてWateの名は、VS内で瞬く間に広まっていくこととなった。
今まで、ログインしてから訓練場に行くまでの間、色んな称号を付けたまま人ごみを歩き、他人の視線を釘付けにしていた訳だが、その時の和手はその日の訓練の事に頭がいっぱいで、他人の視線なんて全く気にしていなかった。それにほとんどが駆け足だったりしたわけで、名前は誰にも見られていなかった。
が、訓練の成績、ランキングでは大いに目立ってはいたことは確かである。
そして、今回派手に動いた事により、一躍、一番の噂の中心人物となった。
そのころ自室で和手は
「何故だ、何故外れない……呪いなのか……? あいつ何をしやがった……」
数十分、称号を外すことに奮闘してみたが結局外せなかった。
そこで自室から出ると直ぐにエレベーターに駆け込み、1人用の階に移動し、防具屋で顔全体が隠れるような物を探すと、カッコイイ仮面があったので、初めてのお買い物をした。
そして自室に戻ると早速装備し、以降その仮面は外さずに戦場に行くことにした。
さらに戦場へは、初心者狩りがするような開始ぎりぎりに入場という方法を取って、出来るだけ目立つことを避けた。
そして、戦場ではそのコソコソしないといけないという不満をぶつけるが如く、暴れた。
終われば速攻でゲートから出た。
VSでは伝説が出来た。
マンガ、ラ○キーマンに登場する、目立ちたが○マンのお面――補正+等といった効果は無い――という、今販売されている中で一番高価な物――さらに一番人気のない物――を付けているのに、何故か装備は初期装備という変態が戦場を駆け抜けるというものだ。
時に、変な踊りを踊ったりもすることから、辺境の地から来た戦士だ。などとも噂が流れた。
そして大半の人が、Wateをワイトと読み、骸骨を、死神を、悪魔をイメージした。
次の日、日曜日
朝、逆に人目を気にせず暴れれるということで、中々ストレス発散になった和手は気分が良かった。
良い買い物も出来たせいもある。
今日はまず初めに、思い切って練習するために、上下左右の部屋の人に高価なお菓子を買いに行き、配った。昨日とは打って変って良い関係を築くことが出来た。
そして、昨日のままの散らかった家で、再びVSの練習を始めた。
今までの戦場での戦いをイメージしながら、練習し、それが終わると、訓練を思い出しながら復習に勤めた。
そうこうしていると、楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、夜になった。
VSにログインする。
昨日に引き続き、仮面のままで戦闘をした。時間ギリギリに入り、終われば即出て他の戦場へ行く。
休憩なしで3時間ぶっ続けで楽しんだ。
アサルトライフルばっかり使っていて飽きてきたので、自分だけルールを設けたりして遊びの幅を広げてみた。ナイフだけを使う。や、拳銃だけ。や、手榴弾だけ。
などというものだ。楽しむことに全力投球した。
死ぬこともあったが、それでも高確立でTOPを取り続けた。
ナイフで切り付けだけ。という自分ルールではボロボロだった。
要練習だな。と思うが、気が進まなかった。
こうして土日は終わった。




