23話:リベンジ開始
幸か不幸か初日と同じ所からのスタートで、夕暮れの狭い入り組んだ路地内だった。
今回は夕暮れには目もくれず、耳を澄ませて辺りを警戒した。
すると、後方から近づいてくる音がしたので、後ろを振り返るがまだ見える範囲には居なかった。
なので近くの物陰に身を隠し、待つことにした。するとどんどんこっちに向かってきてるのが分かった。
自分の中で3,2,1とカウントし、0で一気に身を出して、バンダナしている頭目掛けて3点バーストを決めた。
相手は何もすることなく倒れていった。そしてその体の上にはDEADと赤い文字が大きく出ていた。
初日に自分が幽霊状態になって、何度も見た光景だ。
今度は見ないぞ! と意気込んで、歩き出した。
出来るだけ音は立てないようにゆっくり、音に注意しながら入り組んだ路地を進んでいった。
すると初めに自分がやったように、物陰から急に出てきて撃とうとしてくる輩がいた。
が、しかし、こっちの方が早く正確に頭に3点バーストを決めて、相手はそのまま倒れていった。
(うはー、楽しい! 楽しいぞこれ!!)
思いっきり叫びたいのを我慢して、代わりに心の中で大声を上げ、心の中の和手が小躍りをした。
そして路地を進んでいくと、十字路の所で横から赤いポインターが出ているのが見えた。
とりあえず止まって、看板が足元にあったので、しゃがんでそれに背をつけて後ろをガードしながら、ポインターを出している奴が出てくるのを耳を澄ませてタイミングを計る、前方は目で見て警戒した。
そして10秒もすれば相手がひょっこり出てきたので、出てくるや否や横顔に3点バーストを決め、呆気なく倒せた。
(よし! 二人目!)
ポインターを出したまま歩いているとは、かなりの初心者なんだろう。
ちなみに血が飛び出たり、中身が飛び出たり、穴が空いたりなんてことはない。設定で変えれるが、未成年ということで規制がされている。
未成年じゃなくなっても、このままの設定でやると思う。ゲームでゲロンチョは勘弁だ。
すると銃声をききつけたのか、十字の4方向からほとんど同時にポインターと銃撃が交差した。
自分の視線の先には、アサルトライフルを構えている者が居た。ポインターもしっかりと飛んでいる。
しかし、相手のポインターは自分には向かずに自分の頭上を越えて、自分の後方に居る者に向かっていた。自分の存在には気づいていないようだ。路地内はそれほど暗いわけではないが、ポインターが何よりも目立つからだろう。なので漁夫の利じゃないが、ラッキーとばかりにポインターを相手の頭に合わせてすぐに撃った。
視線の先の相手はそのまま倒れ、DEADが表示される。
すると自分の後方から、視線の先の相手に向かっていたポインターは下げられたのが見えたので、すかさず立ち上がり後方に居た者を撃った。
後方の者は行き成り現れた敵に、成す統べなく倒れた。
残るは左右で撃ち合っている二人だ。どうするか少し考えていると、訓練を思い出した。
ポインターは高い位置で交差しているので、伏せて、十字路に顔だけ出し、左右の者の位置を確認した。
二人とも手榴弾で届く距離だった。すぐに顔を引っ込め、立ち上がり、手榴弾を左右に順番に投げる。
ドーン、ドーンと連続した二つの音が鳴った後、ポインターが見えなくなったので十字路に出て、二人のDEADを確認した。
十字路の真ん中にも関わらず、我慢出来ずに小躍りをしてしまった。
そして小躍りし終えて満足したところで、幽霊状態というシステムを思い出し、赤面しつつその場を逃げるように離れた。
路地を抜けると、広場に出た。至る所でポインターが飛び交っている様子が見て取れ、銃声が止む事はない。
自分の方に向かってきているポインターはなかったので、目に見える範囲の者から掃討していった。
撃ち合ってる者達を、後ろ、横からどんどん倒していく。これが本当の漁夫の利であろう。
広場の獲物の最後の1人は、相手していた相手が倒れて、油断したところを、和手がその一瞬のチャンスを見逃さず倒した。
実際には最後の一人が相手していた者も、和手が倒していた。
そしてアナウンスが流れた。
『20KILL達成者現れたので、帰還します』
ブウンッ
『お疲れ様でした。Wate様が20KILL達成しましたので帰還しました』
『3分後にまた戦場に戻ります』
「ん……?」
20人も倒したっけ? と半信半疑でウィンドウを開き確認してみると、今回の戦場での成績が一番上、TOPで
――『Wate』KILL 20 / Deth 0
一段下、2位の者の成績を見てみると、KILL4でDETH0だった。
つまり――和手の成績は異常だった。
そして、戻らされた草原では皆がホストに向かって口々に怒鳴っていた。
「おい! 本当に成績確認してからスタートしたのか!?」
「何者だよアイツ! 初心者じゃねーだろ!」
「どうなってるんだよこれ!」
「20KILL戦、いつもの時間の何分の1だ? 5分の1? 10分の1? そんな早く終わるっておかしいだろ!?」
などと聞こえてきた。
「ひ、ひぃ、えぇ、えええ、ちゃ、ちゃんと確認しました。こ、このWateって人、い、今確認してもKILL20/DETH5で、ですっ」
あの中に入って行き説明するのは、怖かったので逃げようとした時、後ろから声をかけられた。
「やぁ!」
「あぴゃぃ!!」
急に後ろからの声に、変な声と汗が出た。
「さっきの君! どうだった?」
「あっ、ど、ども」
開始前に声をかけてきた男性だった。
「まぁ、その様子を見ると、ボロボロだったかな?」
男性は、ハハハ! と笑いながら言った。
「まぁ、僕も笑える成績じゃないんだけどね! いや、笑えるって意味では笑えるかなーあははーッ!」
と何とも明るい人だ。嫌いではなかった。
「まぁ、ダメダメ同士頑張っていこうよっ!」
「はい」
また手を出して握手を求められたので、素直に握手を返した。
「今回は何とも強い人が居たねー! 出来る初心者は出来るもんだねー! いやー、まいったねーまいった!」
ちっとも参ったそぶりを見せずに、和手の肩を豪快に叩いた
「そ、そうですね」
「ところで、君、えーと、Wate君? 成績どうだったのかな?」
「えっ!?」
「ああ、服に名前ついてるでしょ。ほら」
と言って見せてきた胸ポケットの所には男性の名前が書いてあった。
しかし……まずい。逃げようとしても、まだしっかりと握手がされていて、逃げられない。そして男性はウィンドウを開いた――
「……えーと、今回はWateって人が1位だねー、僕は下から数えた方が早いなー、アイターッ! えーと君はー確かWate君だったね……えーと、Wate……Wateと……1位……ん? 君は、Wate君…………1位の人はWate……え? ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!??????????」
豪快に大声で叫びながら、豪快に尻餅をついた。
その声を聞いた人達――ホストの人に群がって居た人達――がこちらに向かってきた。
「どうしたんだ?」
「だ、だいじょうぶか? あんた」
そして、豪快男性の口が開いた。
「き、君がWateなのかいっ!?」
「い、いや、え、あー……「「なんだって!?」」」
和手の声はかきけされた。
「き、君、初心者なのかっ?」
「は、はい……成績見てもらえば……」
「どうやったんだい?」
「どうと言われましても……」
「軍隊に入っているとかなんだろ?」
「い、いえ、訓練をしただけなんですが……」
「ほらみろ! 軍隊の訓練を受けているんだ!」
「ち、違います。このバーサスの訓練です……」
「え? あれをしただけでかい?」
「は、はい」
その後も、怒涛の質問攻めに全てに答えていると、
『30秒後に戦場に戻ります』
救いのアナウンスが流れてきた。
「ま、まぁ、嘘をついている様には見えないし……初心者なんだろ」
「ボウズ! 次は負けないからな!」
「ここじゃ成績上げれないなー……」
アナウンスのおかげで、囲んでいた人達は去っていった。アナウンスさんありがとう。
そしてこの戦場、草原から出て行く人も居れば残る人も居た。入ってくる人も勿論居た。
戦場の出入りは激しいかった。
「はぁ、助かった……あ、大丈夫ですか?」
手を伸ばし、まだ尻餅をついていた男性を立たせた。どうやら、気を取り直したみたいだ。
「世の中には見た目じゃ分からん事もあるもんだなぁー! はぁー! 俺も頑張ってみるよ! ところでお前さん、訓練やったってどのくらいやったんだい?」
「はい、一応全部やりました」
「……え? えええええええええええええええええええええええええ!!!!!!???????」
再び豪快男性は尻餅をついた。
そして、数人が揃って入ってくるのを最後にゲートは閉じられ、アナウンスが流れ始めた。
『十秒前』
目を白黒させている男性を立たせた。
(そういえば中々難しい訓練だったからなー。それにしても豪快な人だ)
なんて考えながら深呼吸を開始する。
豪快な男性のリアクションは、あながち間違いじゃなかった。
和手は訓練ALL100点を一番手に達成してしまったのだ。MMOの世界でどんな事でも1番というのは、クラスで成績TOPを取るのとは段違いなのである。
一般的なMMOの参加人数はクラスの数百倍〜数百万倍。世界規模で見るとさらに桁が二つぐらいは増える。
ましてやこのVSの参加人数は他のMMOと比べても桁違い。
どのMMOにも、廃人と呼ばれる人たちが凌ぎを削っている。このVSでも同じことが言える。訓練は比較的人気のないものではあったが、それでも訓練を、ALL100点にしようとする者は少なからず居る。さらに訓練にはランキングという起爆剤がある。大半の人間は競争心を刺激されて、TOPになろうと挑戦する。そんな中、和手はTOPでゴールしてしまったのだ。そう、和手はとてつもないことを成し遂げていた。
その事に気がつくのは、また後のことである。
『五秒前』
先ほどと同じように、アサルトライフルを肩から下ろし、
『四』
構える。
『三』
『二』
『一』
『〇』
ブウンッ