22話:戦場に移行します
次の日の朝、学校へ行く途中、朱利が聞いてきた。
「そういえば和手、戦争ゲームどうなの」
「やっと訓練終わったところだよ」
「まだ訓練してたの?」
「中々難しくてねー」
「ふーん」
聞いてきておいて、なんとも興味なさげな返事で終わった。
このピーしてやるぞ! なんてのは口が裂けても言えない。――言うぐらいなら裂けた方がましだ。
休み時間
「昨日GMから直接称号貰ったんだけどね、お前不正しただろ! って言い掛かりつけてきて困ったもんだよ……」
「え? 不正なんてしてないだろー?」とカケルが?を浮かべて聞いてきた。
「勿論、してないってきっぱり言ったんだけどね」
「いや、待てよ……ポインター具現化はどうなんだ? 不正になるのか?」とシュウが冷静に聞いてきた。
「「……ああ!!」」
カケルと二人で声を出してポインターの存在を思い出す。
「え、もしかしてやばいかな? ポインター」
「いや、理論的には和手にしかポインターは見えてないはず。いかにGMであろうと見えてないはずさー。だから不正だとしても、クリーンな不正だよー!!」とカケルが熱く語るが、
「不正にクリーンもくそもないだろ」シュウが無慈悲にも言い切った。
「「う……」」
カケルと二人して苦い顔をする。
「まぁしかし……俺は不正ではないとは思う」
「「そうだよな!」」
理論が証明できたカケルと、苦労して手に入れた具現化能力の存在が肯定に向かった自分は、声合わせて喜んだ。
「それにもし不正だとしても、昨日のGMの様子だったらログインしたらすぐに接触してくるだろうから、言えば問題なさそうかな」
「うむ」
心配は少し残るけど、大丈夫そうだ。
「そういえば、シュウ、最近剣道部どうなの?」
「そうだな……。VRを剣道部の皆に勧めたところ、成果が出ている」
「「へー」」
「対外試合や、怪我をしやすい練習をVRですることによって、効率が上がっている」
「なるほど、便利なもんだなー」
VRと現実の使分けか。自分も利用出来ることないかな? 何て考えながら聞いていた。
「和手はVSで訓練終わったんだろ? これからどうするんだ?」
「後は戦場でまったり楽しむつもりだよ」
「和手はシューティング廃人だから、まったり楽しむなんてことはないだろー!」
「うむ、確かにそうだな」
「うぐ……」
実際にそんな気はしていた。ゲームは一度やり出すと止まらなく、徹夜して、次の日の学校は一日中寝てたなんてことは度々あった。まったりとはかけ離れたことになりそうだ。
「そ、そういえば、カケルはVSもうしてないの?」
「……あれは俺には合ってない……」
「そ、そっか」
珍しくテンションが落ちたので、これ以上聞くのは止めにした。傷をえぐるのも楽しそうだが、自分も実際に体験したこともあり、えぐりずらかった。あれは心の病になるようなトラウマレベルの傷だ。カケルといえど自重した。
「それより俺は毎日、新聞だー!!!!」
テンション急上昇で立ち上がり、叫び出した。――先ほどの気遣いを返してくれ。
隣で大声を出されたシュウは額に筋を立てて、横っ腹目掛けてパンチを炸裂させた。ナイスだシュウ。
そして学校も終わり、家に帰り家事を終えると、すぐに勉強を始めた。
今後また具現化訓練のように、勉強に遅れが出る時があるかもしれないので、先に勉強を多めにしておくことにしたのだ。
かといって急に真面目に出来るはずもなく、合間合間にVRの分厚い説明書を適当に読んで過ごした。しかし実際には勉強が合間合間にだった。
そしてVS。
ログインするや否や、自室へ向かった。そこはロッカーとソファーと、訓練で手に入れた盆栽はロッカーの上。それだけしかない。初日とほとんど変わらない殺風景な部屋だった。
が、そんなことは気にしない。今日が戦場デビューなのだ。――初日のぼろ負けは忘れることにした。
興奮しながらウィンドウを開いた。とりあえず説明を見てみると、初級戦場、中級戦場、上級戦場と、まずは大きく3つに別れてることが分かった。
戦場に居る人数の割合を見てみると、大体、初級8割、中級2割、上級0割となっていた。
あの日の二の舞は嫌だったので、背伸びをせずに初級を選んだ。というより、初級しか選べなかった。
そしてそこに乗っていた戦場の数は、初日の時とは比べ物にならない、物凄い数だった。
選んだのは、一番上にあった『初心者100KILL以下』というタイトルの戦場で、ルールは『ソロ』『20KILL』、マップは『廃墟の市街地(外)』で、初日と同じマップだった。
タイトルの100KILL以下というのは、成績のことだろう。自分は0KILLなので……問題ない……。
20KILL戦とは、ヘルプを見ると、20KILLを誰かが達成したらそこで終わりと書かれていた。
装備をしていることをしっかりと確認してからボタンを押した。
装備は、慣れ親しんだ初期の拳銃、アサルトライフル、ナイフ、手榴弾だ。称号は名前が恥ずかしいので外して置いた。
そして頬を叩いて、気合を入れてからドアを潜った。潜った先は見慣れた癒される草原で、すでに何十人も待機していた。
深呼吸をしながら待っていると、後ろから声をかけられた。
「やぁ、あんたも初心者かい?」
「あ、はい、訓練はしたんですけど、戦場はこれで二度目です」
声をかけてきたのは、人の良さそうな男性だった。
「んー、本当だな。0KILLで5DETHかー」
「えっ? 自分の成績どうやって見たんですか?」
「んん? ああ、これはだね、ウィンドウを開いたらこの場にいる人たちの名前がずらーっと出るから、名前を押すと、成績が見れるんだよ」
「なるほどー」
ウィンドウを開き、色々と弄って見た。色んなことが出来るようだ。
「こういう初心者部屋では、ホスト(部屋主)が全員の成績をチェックしてたりするから安心しなよ。強い人は来ないから」
「へー」
「まぁ、俺も見てもらったら分かるけど、似たようなもんだよ。最近やり始めたんだけど、全然だめだよー」
照れ笑いしながら、頭を掻いていた。
『三十秒後に戦場に移行します』
アナウンスが流れてきた。
「おっと、始まるようだな。お互い頑張ろうぜ」
「はい!」
握手を交わし、男性が離れていった。
思えばVSで、始めての交流かもしれない。これからはもっと自発的に交流をしていこうかな。などと思いながら、再び深呼吸を始める。
『十秒前』
前回の時と比べると、心臓の高鳴りの度合いにあまり違いは無いが、今回は楽しみという興奮であって、緊張なんてほとんどなかった。
『五秒前』
アサルトライフルを肩から下ろし、
『四』
しっかりと構えた。
『三』
『二』
『一』
『〇』
ブウンッ