21話:チビ助到来
ブウンッ
音が止むと同時に着物姿の女の子が現れた。このゲームはいつもはお姉さんなのに、女の子とは珍しく、髪は着物に合う様に結い上げられていた。しかし髪の色は金髪、日本人ではなかった。そう判断したのは髪の色じゃなく、顔の作りである。それは明らかに日本人のものではなく、さらに整っていた。肌の色も白く、白人の様で、朱利を可愛い系とするとこっちは綺麗系だった。少女なのでどちらも可愛いという事に違いはないが――。そして身長は朱利と同じぐらいのように見えた。
それで思わず見惚れていると、ログイン地点のお姉さんの様に深々とお辞儀をされた。
一体何が始まるんだろう。とワクワクしていると
「Wate様、おめでとうございます。この度、訓練ALL100点を取り、そして、見習い称号を全て手に入れましたので、新たな称号を授けたいと思います」
「おぉぉ!? 訓練ALL100点!? そんな取ったっけ……?」
そういえば、途中から点数を気にしなくなってから点数は見ていなかった。
ウィンドウを開いて確認してみると……言う通り綺麗にALL100点になっていた。
後半はほとんどクリアーしたら100点貰えるって内容の物ばかりだったような気もした。
「称号、『見習いのスペシャリスト』をお受け取りください」
「ださっ」
思わず即答で本音が出てしまった。
「……う……。そんなこと言わずに、お受け取りくださいっ!」
「いやだ……今迄で一番酷いじゃないか……」
「嫌でも、受け取ってください! こっちだってまさか、この日数で全てALL100取る人間が出てくるとは思ってなかったんです! 折角、連日徹夜して完成し、休暇が始まるかと思ったら、あんたがどんどん進めていくから、こっちもどんどんバージョンアップしないといけなくなってるんですよ!!」
急に怒り出してしまった。ふと、疑問に思う
(NPCじゃないのか……?)
「GM?」
しっかり受け答えして来たのだ。おかしく思い、尋ねて見た。
「あっ!! あー、あー…………さて、それでは称号の授与をしたいと思います」
今度は急に焦りの表情を浮かべたと思うと、すぐに無表情になって強引に進行を進め始めた。
「ねぇ、ちょっと、GMなの?」
《GM=ゲームマスター》
GMなの? と言った瞬間、無表情は崩さないが、目が少し大きく開いたのを見逃さなかった。が、強引に進行して行く。
『『見習いのスペシャリスト』を装備しました』
「ちょっと! 苦労してALL100点取ったのに、こんなダサイの装備させるな! このチビっ子!」
「チ、チビですって!? 少しだけ、ほーんのちょーーーっとだけ小さいだけです!! それに、だ、ださいとはなんですか! 私が命名したんです! 元々名前もまだ付けられてなかったのを、今日行き成り呼び出されて、わざわざ命名してやったのに……! 何ていい草だ! このピーピーピー!!」
的確に弱点をつくと、見事に釣れた。
それにしても命名したのがこの子とは……センスを疑う。
――ちなみに、和手は自分のセンスの悪さは自覚していない。
「やっぱり、GMか」
「あっ……」
口を両手で押さえてるが、もう手遅れだ。
「何でわざわざGMが……?」
「うっ、くっ……うぅ………………ま、まだ、この授与イベントを作成してないんだ!」
誤魔化す事を諦めたのか、白状してくれた。
GMであるなら、要望が一つあった、いや、出来たので言ってみた。
「ふーん。で、称号の名前変えて欲しいんだけど」
「ふんっ! いやだ! ぜーーったいに、変えない!」
まさかの全面拒否。
「なっ! あんたはダダッ子か!」
「誰がダダっ子だ! ふんだっ! この記録、どうせあんた反則でもしたんだろ! ぜーったいに見破ってやるからな! 覚悟しとけよな!!」
小さなGMはこちらをビシッと指を指し、言い切った。
「不正なんてしてないから問題ないしー。それより、禁則用語を言うGMってどうなんだろー?」
ニヤニヤ笑いながら聞いてやった。先ほどピーピーピーを言っていたのだ。
「なにっ!? お、脅すのかっ!?」
すると、小さなGMは急にたじろぎ始めた。
ここが押しどころと思い、攻める。攻める。攻める。
「さぁー? チビの出方次第じゃないかな?」
「チ、チビ言うなっ!! 気にしているんだっ!! いいもん!! 私はGMだから、いざとなったらこの会話記録削除するからいいもん!」
顔を真っ赤にして反論してきた。まさかの特権乱用だ。
「な、なんだって! 反則はそっちじゃないか!」
「ふふーんだ。さて、反則君、もう帰りたいんだけど、いいかな?」
急に態度がでかくなった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、称号の能力説明してもらってないんだけど……」
これだけは教えてもらわないと、今後困るのだ。ここは下手に出るしかない……。
「えー? どうしようかなー。んー、チビってもう言わないならいいけどー。それに敬語を使え!」
ヘヘン。といった顔をして、両手を腰に当て、仁王立ちで無い胸を張り、背筋をめいいっぱい伸ばして言って来た。
「う、く、くぅ……。仕方ない、ここは背に腹は変えられない……。どうか教えてください。小さくないGMさん」
「む、何だかちょっと引っかかるけど、まぁよしとしよう。…………それぐらい……ウィンドウ開いて自分で見ろ!! バカ!!」
「ん? ああ、そうだった、ウィンドウで見れるんだった。ありがとう」
確かに、その通りだった。すっかり忘れてた。
そしてお礼を言うと、急に小さなGMは口ごもった。
「む、む、むぅ……礼を言うとは……む、むぅ。し、しかし、教えたとたん敬語止めたな! …………ま、まぁ、いいとしよう。体も大きければ、心も広いからなっ! それじゃあ、不正を暴いてやるから覚悟しておけよ!!」
「不正なんてしてないって言ってるだろ……」
はぁ。とため息をつきながら言った。
「言ってろ言ってろ。犯人は皆そう言うんだ」
免罪食らった人に、その言葉を言ってみろ。と言いたくなる。
するとこの小さなGMはウィンドウを開き、何かのボタンを押した。
その動作を和手はしっかりと見ていた。そう、押した位置はログアウトボタンの位置だ。
そして、小さなGMがブウンッと消える直前――犯人扱いされてることに、少しイラっと来てたので
「この、どチビ助! 不正してなかったら這い蹲って土下座して、称号の名前変えろよ!!」
「なっ――」
チビ助は言い返して来る前に、消えていった。
そして、時間を見ればもうすぐでログアウトの時間だったし、またチビ助が来ても煩いので称号の能力を見たら、ログアウトすることにした。
見てみると――
『『見習いのスペシャリスト』今までの『見習い:――』称号の全ての+補正が付く。スペシャルな称号である』
大躍りした。少し我を忘れて躍ってしまったが、チビ助が今にも来そうだったのでログアウトボタンを押した。カウントが始まっていった。
するとログアウト2秒前に、予想通り再びチビ助が現れて、何か言ってきたが耳を塞いで聞いてやらなかった。
訓練最終日は何とも騒がしく終わった。
――センス×の和手の踊りは、盆踊りとドジョウすくいを足して割ったようなものである。