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19話:ポーズ

 次の日の夜、


「おう! 新入り以上、見習い未満! よくきたな!」

「どもー」


 NPCだから返事を返しても会話が成立しないのだが、何か言われたら変事を返すのが当たり前な現実で育った習慣は取れなく、取ることを諦めた。

 すなわち、独り言。


「おめでとう! 基礎動作ALL100点クリアーだ! 称号を授与するぞ!」

「ん……? あぁ、そういえば昨日あそこで強制ログアウトしたんだった。今日もログアウト前にでも行こうかなー、うーん……」


 そんなこと思っていると、教官が話を進めた。


「『度胸:見習い』を授与する!」

「…………『動作』じゃなくて、『度胸』とか……また悪ふざけか。もう驚かないぞ」

「『度胸:見習い』を装備しました」

「……え? 装備された……。本当にこれが称号名なの!?」

「肩を見ろ、またマークが新しく変わったからな」

「話が進んでいる……本当にそうなのか……?」


 そして言われたとおり、肩を見た。するとそこへ描かれているのは看板のマークで、書かれている文字は――『ドッキリ大成功!』


「はいっ! ドッキリでしたー!」

「……消え失せてくれればいいのに」


 つい本音が口に出てしまった。

 しかし罵倒する時の言葉が朱利と似ている気がする……。どちらが先か後か分からないが、幼馴染として生まれてからずっと一緒に居ればそうなってくるのも仕方ないだろう。

 そろそろ離れるべきではないか? 時々そんなことを考える。そうしないと朱利に彼氏が出来ないのだ。彼氏を連れて来られても、戸惑うかもしれないが、幸せを考えるなら喜んであげるべきであろう。――妹(のような存在)なので、親心のようになってしまうのだ。

 伝奇を書くことは止めたくないので、彼氏と同居し始めるまで、朝だけはお邪魔しよう。 

 しかしまぁ、最近右肩上がりにこのオッサンの態度が気持ち悪い。そろそろ誤射を実行に移そう――。 


「『度胸;見習い』を装備しました。ってアナウンスさんの声の物真似、どうだ!? 似ていただろ! 録音現場では聞き耳を毎日のように立て録音し、家では勿論のこと、さらにはウォークマンに入れて通勤中も毎日聞いたからな! 凄いだろ! えっへん!」

「キャラが急に変わった……? これ、凄いというより……うわぁ……真症の変態じゃないか……それに、生々しい現実の話をするとか良いのか……? …………おっと手が滑ったぁ!!」


 カカカカカカカカカカカカーンッ!


 ARの弾丸は見えない壁に阻まれた。


「もう、お茶目さんなんだからぁっ!」

「うわぁ……」


 裏声のオカマのような声で可愛らしく言ってきた。身の毛も弥立つ声とはこのことだろう。


「もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ!」

「え……? もしかして撃った分だけ言うとか……?」


 その予想は正答だった。


「もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ! もう、お茶目さんなんだからぁっ!」


 耳の中で指を震わせて、さらに「ああああああああ」と連呼することによって、悪魔の囁きを回避した。

 フルオートを途中で止めてよかった。


「さーて、本物の『動作:見習い』授与するぞ!」


 軍曹の中身の人間性が破綻してそうなことが気にかかったが、そんなことお構いなしに軍曹はいつも通りの口調に戻り、話が進んでいった。

 NPCだから当たり前だが、マイペースだ。


『動作:見習い』を装備しました』

「効果は、スタミナが減りにくくなるぞ」

「……地味……いや、これは地味に見えてかなり良い性能かもしれない。うーん、減る度合いにもよるなー」


 実験の余地あり。と、頭の片隅に入れておいた。


「残るは応用だけだな! 難関だが、ここまで出来たお前ならやれるはずだ! 頑張れよ!」

「はいよーっ!」


 一連の流れは頭が痛くなってきたので、忘れることにした。

 肩を見てみると人が走っているマークで、横線が何本も描かれていて勢いが感じ取れた。

 そしてウィンドウを開き、応用を押した。


応用

・一人

・二人

・三人

・複数

・おまけ


「ふーむ……」 


 予想するところ、実践形式のようだ。複数まであるということは、1〜3人は楽そうだ。

 先におまけをやりたくなったが楽しみは最後に取っておき、まずは『一人』を押した。

  

「『応用:一人』だ! まずは一人、中々の熟練者を倒して見ろ!」


 熟練者という言葉に気を引き締めた。


ブウンッ


 そこは三階建ての一軒屋程の大きな岩から、小石まで大小様々な岩がたくさんある岩場だった。

 とりあえず、近場の岩に身を隠し相手の出方を探ることにした。耳を澄ませて足音を探る。――しかし風の音しか聞こえない。

 そんな時、静かさを断ち切るように後ろから激しい銃撃音が聞こえた。

 咄嗟にその場から転げるように移動する。転がりながらも、音が聞こえた方を見たがすでに誰もいなかった。

 そしてまたしても静寂が場を包み込む。

 耳を澄ませ、今度は後ろを取られないように背中を岩に押し付け、左右をキョロキョロと見渡していると音も無く何かが右手の方から飛んでくるのが見えた――手榴弾だ。

 目に入った瞬間に体を動かしていたが、すでに避け切れる距離ではなく手榴弾は体に直撃し、無慈悲にも爆発した。


ブウンッ

  

 元の訓練場の砂場に戻っていた。

 こちらからは何一つ出来なかった。――相手の姿を見ることさえも……。

 とりあえず、まずは状況整理と思い、胡坐あぐらをかいて座り、考える。

 耳を澄ましていたにも関らず、相手の音が足音すらも一切聞こえなかった。――どうやら、相手は物音立てずに接近してくることが出来るようだ……。 

……策も特に思い浮かばなかった。思えば対人戦はこれが二度目だ。

 胸を借りるつもりで何度でも挑むことにした。


ブウンッ

 

 また岩場。どうやら固定ステージのようだ。

 今度はこちらから攻めてみることにした。出来るだけ音はたてないように、忍び足で銃を構え歩いていく。

 岩がたくさんあって視界が悪い。いつバッタリ出くわしてもおかしくはない。そんな状況なので神経を張り巡らせる。数十メートル歩いた時、


コツッ

 

 確かに物音が右の方で聞こえた。咄嗟に右を向き安全を確認後、音の聞こえた方へ慎重に行ってみるが――誰も居ない。音もしない。

 と思った矢先、銃撃音共に背中に衝撃を受けた。

 すかさず横に飛びのき、ッパと振り返ると、岩影に隠れながらこちらを撃ってきている黄土色尽くめの姿を見た。――黄土マンと命名する。

 飛びのきながら銃を構えたが、時すでに遅かった。

  

ブウンッ


 撃つ前にやられてしまった。今度の収穫は黄土色の姿だけ。――フィールドも黄土色。

 状況が悪くなった気がした……。

 また胡坐をかいて座り、顎に手をつき、考える。

 今回後ろから撃たれ、負けた。それは音がした方に行った後だ。

……あの静かなフィールドで、勝手に物音がするのはおかしい。となると、黄土マンが石などを投げて発生させた音か、それともあの場に居たけど、すぐに後ろまで――音も立てず――回ったか。この二つだ。

…………どちらにせよやっかいな相手みたいで、項垂うなだれた。


「シュウ神よ、考える力を分けておくれっ! うーん……ぬーん……むむむ……うー……」


 親友に念を送った。届いたかどうかは知らないが、一つ思いついた。


「お、そうだ、相手がしてくることを真似してみるのはどうだろう」


 画家でも初めからオリジナルの絵が描ける者などほとんどいない。

 他のことでもそうだ。なんでも初めからオリジナルが出来る人間など少数だ。

 そう、まずは皆、真似から入るものだ。


「うん、やってみよう」


 相手がやってきたことは物音を立てず近づいてきたことと、音によるトラップだ。トラップじゃなかったとしても、だったとしても、こちらからやってみる価値はありそうだ。


 シュウ神に感謝を述べ、気合を入れて立ち上がり『一人』を押した。


ブウンッ


 開始と同時に足元に落ちている石を素早く拾い、見える範囲の中で一番遠いところへ力いっぱい投げた。そして、両手でアサルトライフルを構える。

 石は岩とぶつかり、結構な大きさの音が出た。

 後はそこに相手が来るのを待つ。

 待つ。

 待つ。

……来ない。

 

 来た!――のは後ろからだった。


ブウンッ

 

「……はうぅ」

 

 再び座り、頭をフル回転する。

 しかし中々案が思い浮かばなかった。そこでわらにもすがる気持ちで、恥ずかしくてやりたくなかったが、誰にも見てないこともありやってみた――あのポーズを。


 胡坐をかき、両手を組み、背筋を伸ばし、目を瞑る。


「…………駄目か?」


(いや待てよ、思い出してみるとあのポーズ中効果音が流れていた。これは必要なことなんじゃないのか……? きっとそうに違いない)


 頭の両側に指をつけ、回しながら唱えた。


「ポク、ポク、ポク、チーンっ」


…………駄目だった。

 NPCとはいえ、オッサンに見られている気がした。睨み返し、威嚇をして再び思想に走る。

 思い返してみれば一休さんが一番リラックス、瞑想、集中等が出来るポーズであって、自分が集中出来るポーズではないことにやってから気づいた。


「ん、いや、この一休さんポーズ……きたきたー!」 

 

 一休さんの場合は、ポーズと音に囚われていた。今回は、先に発見することと音に囚われていた。しかし別にそこに囚われなくていいんじゃないか。

 思い返してみると攻撃は視界の外から、すなわち前方以外からだ。

 もしかすると、これは逆に狙い目じゃないのか……? 即実行に移すことにした。


ブウンッ


 警戒しながら一方へ小走りで進んでいく。ある程度進んだところで、一気に後ろへ全速力で辺りを見渡しながら走る。――視線の左端で逃げていく黄土マンが見えた。すかさず方向転換し、必死に後を追いかける。撃つタイミングを探すが、入り組んでいて、さらに岩が邪魔して狙いづらい。

 なんとか撃つチャンス作るために、手榴弾を黄土マンの進行方向を予想して、走りながらあるだけ全て投げた。

 激しい爆発音が連続して何度か続く。

 そして黄土マンが行った方へ、岩を曲がろうとした瞬間――目前を、目の先を弾丸が通り過ぎた。狙われているとわかって、そこへ飛び出すわけにはいかない。 

 その場に留まる様に、必死に全身を止めようとしたが――車は急には止まれない。と同じく走ってたため止まれない。なんとか必死の思いで止めれたのは上半身だけで、止まることの出来なかった下半身はさながらバナナを皮を踏んだ様にに足を前へ投げ出し、そして派手に尻餅をつきながら、尻でスライディングするように地面を滑っていった。

 そんな無様な格好のまま滑って行った先は、相手が待ち構えている先だ。四肢を使って、蜘蛛の様に必死に後方へ下がったが、何発か左腕と左足に銃弾を食らってしまった。


「いたたたた……」

 

 今まで逃げ回っていた相手が、何故急に迎え撃ってきたかは分からないが、これはチャンスだった。――撃ち合いなら自信があるのだ。

 しかし、待ち伏せされている所へどう出るか。それが問題で、でもちんたらしていてはまた逃げ出すかもしれない。

 

 手榴弾はもうなかったので、拳銃を手に取り、そして相手から見えないギリギリの角度から腕で遠心力をつけて、居るであろう先に思いっきりサイドスローで投げた。

 そして銃声が聞こえる中、すぐさまアサルトライフルを構えて飛び出した。

 拳銃が空中で破壊され、地面に落ちていく姿が視野の端に映った。が、視点はしっかり相手を見つめていた。既に出していたポインターで頭に狙いを定め撃った。素早い動作だったためか、拳銃囮作戦のおかげか、先制を取ることが出来た。

 そして一発として外すことなく、頭に三点バーストが決まり、反撃もせずに消えてくれた。

 鉄人間のように固かったらどうしようかと思っていたので、胸をなでおろした。 


 そして、改めて黄土マンの居た場所を見て見ると、そこは行き止まりのようだった。――いや、この道はさっきの追いかけっこで通ったが、行き止まりではなかった……。となると、先程の手榴弾によって岩が崩れるなりして、行き止まりになったようだ。手榴弾は予想以上の成果が出ていたことに驚き、喜び、更に岩を壊せるという事実を知ったことに更に喜び、一人小躍りをした。

  

『Congratulation!!』 

 

ブウンッ


「ふぅ、なんとか倒せたなー」


 岩を壊して通行止めとは、卑怯なんて言葉が頭を通り過ぎるけど……


「立派な作戦だった思うことにする! さて、次だ次だー!」

「『応用:二人』だ! 今度は二人、コンビネーションアタックを倒せるかな……? スタート!」


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