1話:始まりの鐘
いつもと変わらぬ平凡な朝、新聞一面をある記事が我が物顔でのさばっていた。
『擬似戦争、実用か!?』
この教室の机に新聞を広げて読んでいるのは高校一年生の森授 和手。
新聞を読むのが趣味の一つに入っているという、変わった少年である。――ちなみに、コテコテの大阪弁のように自分のことを"ワテ"とは言わない。
『森から授かった和の手』という風につけられた名前"新授 和手"なんだが、名前通りの"和の手"がするようなそろばんや剣道が得意というわけではない。
和手はゲームが趣味で、その中でもシューティングと名のつくものは大得意、シューティングマニアである。
シューティングの中でも銃を扱った物が好きで、ゲームセンターに置いているそっち系のゲームのハイスコアを叩出している。それゆえ『鉄から授かった洋の手』、"鉄授 洋手"と名乗っても違和感がない。――ある意味、名前には勝っている。
さてこの見出し、何故こんなあり得ない記事がトップを飾っているのか? と思うのが一般的だ。
しかしそれはそのはず、それは新聞部が出す一風変わったものなのだ。
学校が出す新聞なんて、よほど真面目な生徒以外は読まないであろう。だが、この学校の新聞部の新聞は違う。
見出しを見るたび驚きの声が口から出てしまう。
内容を見るたび感心の声が口から出てしまう。
その内容は読みやすく面白い。
十代というニーズにあわせた食いつきのいい餌に、飽きない味付け、食べやすい食感。
新聞会のファーストフードや〜。
…………。
――――読んでる和手の姿をズームアウトしてみると……周りの生徒も新聞を読んでいる。
さらに隣の教室を見ても同じ光景である。
そう変わっているのはこの学校なのである。
新聞読むなんて習慣になかった生徒も、学校での生徒同士の会話はもちろん、先生までも授業中の脱線会話に新聞の内容を入れ始めたのである。
会話についていくために渋々読み始めたが、はまってしまった。なんて生徒は数多くいる。
――和手もその中の一人である。
そんなこともあって、学校では九割以上が読者になっている不動の新聞である。
最近では学校関係者以外がわざわざ貰いにくる姿が目撃されてるらしい。
キーンコーンカーンコーンー、キーンコーンカーンコーン
今日最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴り。物語は動き出す。