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17話:鉄ウサギさんの恐怖


 そして火曜日、学校では昨日と同様にノート写しをひたすら続けた。

 帰ってからも同様だった。


 そして夜、ノート写しから逃げるようにログインした。

 訓練も残り二つとなった。さくさく進めば今日一日で終わるかもしれない。しかし面白かった訓練が終わりとなると少し寂しい気もする。そして最後までオッサンか。どっか行けよ。チェンジだチェンジ。等と、そんな黒いことを考えながら訓練場に向かった。

 

基礎動作

・おまけ1

・おまけ2


 二つだけだった。その分の応用編での反動が怖いような楽しみのような、またしても複雑な気持ちだ。

 しかし今まで楽しかったので、きっと楽しいが上回るだろう。――こんなこというと逆転のフラグが立ちそうで怖い。ので聞かなかったことにして欲しい。

  

「『基礎動作:おまけ1』障害物競走だ! 走れ!とにかく走れ! 時間無制限、スタート!」


ブウンッ

 

 障害物競走っていうから、学校の運動場をイメージしていたけど、広がった光景は全く違った。

 短い草の生えた草原だ。ログイン地点は長めの草なので、使いまわしではないようだ。

 そして、有無を言わしてくれないアナウンスが流れる


『よーい、ドン!』

 

 目の前に『迷路!』と書かれた大きな看板が掲げられている建物が姿を現した。

 とりあえず、入るしか選択肢はないので、入っていく。するとすぐに


――迷路名物 "別れ道" が 姿を現した!!


 T字型の分かれ道をどちらに行くか迷っていると、左手側から


――黒尽くめ が ニュッと 姿を現した!!


「うわっ!! な、なんだ!?」 


 攻撃でもしてくるのかと、肩に掛けてあったアサルトライフルを咄嗟に構えるが、黒尽くめはただ道のど真ん中に立っているだけだった。

 とりあえず、撃った。

 反撃してくることもなく、ただ弾を受け、三発当たると消えていった。


「なんだったんだろ……」


 何もしない黒尽くめの存在に不思議に思いながらも、敵が居るところ=お宝のある所か出口にたどり着く。と、自己流な独特の解釈をして、現れた方向の左手に進んでいった。そして一本道を少し進むとすぐに曲がり角が見えた。道なりに曲がろうとした時


「っ!!」


 また音も気配もなく黒尽くめがただニュッと現れた。

 すかさず銃を構え撃つ。そこでッハと気がついた。


「そうか、これは出会い頭での訓練か」


 そう、MMOFPSでは出会い頭で撃ち会いがかなりある。

 そのことに気がついてからは積極的に緊張感を持って迷路を進み、十数体の黒尽くめを真剣に実戦をイメージしながら倒していき、無事迷路を抜けた。

 こんなお遊びの訓練も真面目にこなすのが、和手のいい所かもしれない。――製作者は本当にお遊びで作ったかもしれないが……。

 

 迷路を抜けた先は、凸凹した足場の悪い土手道だった。

 そして距離にして100M先ぐらいだろうか、何やら大きな壁が見える。ベルリンの壁を超巨大サイズにした様な壁だ。

 とりあえず銃を構え、周りを警戒しながらゆっくり歩いていく。


 するとすぐに、前方の地面から何かが出てきた。

 木彫りの顔が一つ、二つ、三つ…………

――トーテムポールだ。

 撃とうかと狙いを定めた時、


ボンッ! 

 

 トーテムポールの、一番上の顔の口からバレーボールのような白い玉が発射された。

 条件反射で引き金を引いた。すると一発当たっただけで玉は簡単に砕け散り、トーテムポールは地面の中に戻っていった。


 昔から憧れていた、テレビで見る平行棒を通ってる最中にバレーボールをぶつけられるアトラクション。一度やってみたかったので、夢の一つが叶えられた気がして嬉しく、楽しめそうだった。


――しかし、常通りそれは始めだけだった。


 進めば進むほど激しさを増していったのだ。

 途中トーテムポール自体をフルオートで撃ってみたがビクともしなかった。

 次に、手榴弾を口の中に投げいれてみた。

 しかし、口に入ると思った手榴弾は見えない壁によって弾かれた。

……破壊できる仕様ではないようだ。


 壁に着くまで、幾度も幾度もしつこく襲われた。玉が発射される速度も上がっていった。時には後ろから、時には左右両方から同時に、時には全方向から同時に、長年シューティングゲームをやってきたので動体視力は十分にある。ただ……体を動かすのには慣れていない……。しかしどうしても全て撃ち落とせない場合が出てきたので、その場合は避けるしかなかった。

 避ける動作、体を動かすことには無駄な動きが多く、ぎこちない。その分はアサルトライフル、腕前でカバーした。

 

 そしてなんとか壁に着いた。遠くから見た分には一面壁だったので、よじ登るものと予想していて、あまりの高さにゲンナリしていたが――嬉しいことに違っていた。

 目に入ったのは横に広がった穴だった。高さはそのまま入ったら頭をぶつけるけど、伏せて行くほどの低さでもない。となると中腰だった。

 現実なら腰に来るから嫌なんだな。とか思う。こっちではさほど心配しなくていい。……のだろうか……? 

――とりあえず進むことにした。中は少し薄暗いが、見えないほどじゃなかった。

 

 穴を中腰で、勿論アサルトライフルは構えて進んでいく。すると先程同様に前方にトーテムポールが地中から出現した。


 発射される玉を撃つ。進むにつれ、攻撃も激しくなってくる。立っている時はある程度余裕があったが、慣れない体制――中腰が意外ときつい。

 腰も痛くなってきている。そこはこだわらないでほしかった。

 

 バレーボール程の大きさなので、軽く体を動かすだけじゃ避けれない。避けるとしたら横っ飛びとかになる。そうすると元々あまり良くない体制をさらに崩すことになり、大きな隙が出来る。なので避けるタイミングが難しかった。基本は銃で、どうしても銃だけじゃ対処しきれないときだけ避けて進んでいった。


 汗だくになりながらも、なんとか横穴を抜けれた。――腰は悲鳴を上げている。二度とこんな訓練するか! と自暴自棄になりつつある。 

 抜けた先は、休憩ゾーンのように青い空と足元は草が生えていた。

 すがすがしい。

 しかし、10歩ぐらい歩いたところにはまた……壁と……穴……。――腰は悲鳴を上げている!


 一息つけてから穴に向けて歩き出した。腰の痛みも疲れ同様、休めば回復した。――腰は喜んでいる。

 穴は先程とはまた違った横穴だった。

 穴の中は先程と同じくある程度明かりはあるので視界は十分保てる。

 しかし高さが問題で、否応なく匍匐前進の形で行くことになった。手には何時でも撃てるようにアサルトライフルを持っている。

 匍匐前進なんて初めてで、その上アサルトライフルが邪魔をし、進むスピードは亀並みの速度だった。


 必死に這っていると、前例通り、前方にトーテムポールが姿を現した。顔は一つだけしか出てこなかった。――正確には天井の高さから一つだけしか出てこれなかった。

 アサルトライフルで難無く玉を破壊。トーテムポールは二発連射や、五発連射や、卓球の玉のような極小玉、跳ねる玉といった様々な攻撃を仕掛けてきたが、それは全部前方からだったので、中腰の時より楽だった。

 そして時間はかかったが、何とか穴から抜け出せれた。

 抜け出した先は、水平線まで続く草原。広がる開放感に睡魔が襲ってきそうになるが、振り払い先に進む。


 一本道があるだけのただの草原だった。そして100Mぐらい先にはゴールと思われる白く太いタスキが浮いているのが見えた。――それゆえ、より慎重に足を進める。何故なら横移動等の訓練で、最後は厄介な場合が多いとわかっているからだ。

 

 すると前方の地面の上に、何か光る物体が見えた。

 目を凝らして見ると、鉄のウサギだった。

 とりあえず、無情だとは思ったが即撃った。カーンッと良い音がするだけで、ウサギは気にする様子もない。

 撃ち続けるか、観察するか――

 と悠長な事を考える間もなく、何かを投げてきた。

 

 危険を感じ、何かを確認するより先に撃ち落す。撃たれたその何かは大きく爆発した。

 見たことある爆発――手榴弾だ。

 ウサギが手榴弾を投げてくる……これが世間一般にシュールな光景というのか。


 またしても悠長に思いに浸る時間を与えてくれなかった。煙の中から何か改め、鉄の人参が飛んできた。

 撃ち落す。爆発。どうやら人参が手榴弾のようだ……これが世間一般に――――。


……しかし、鉄ウサギだけに、食料は野菜の人参ではなく、鉄の人参(手榴弾)と思えば理にかなっている……?

 と、バカな事を考えていると煙がはれ、視界が良好になり、目に入ったのは――三匹の鉄ウサギだった。


 鉄ウサギは人参を口にくわえており、そしてそのまま別々に、真正面に、左に、右にと走り出した。

 まず一匹目が正面から走ってくる勢いのまま人参を投げてきて、地面に潜って行った。

 人参の飛んでくるスピードに少し冷や汗を感じながらも冷静に人参を撃ち、破壊した。


 しかし後の二匹はすでに視界にいない。探すために素早く右に首を回すと、右後ろから人参が放物線を描き飛んで来ているのが目に入った。

 銃では間に合わないと判断し、とっさに前に駆け出したため、間一髪直撃は避けれた。そしてヘッドスライディングするように地面にへばり付いた。

 

 すぐさま、ッバと後ろを振り向くと先程居た場所でさらにもう一度爆発が起きた。


 先程居た場所の左後ろ辺りに鉄ウサギが居た。右後ろに居た鉄ウサギもまだ健在だった。

 正面から来た鉄ウサギの様に、投げたら居なくなる――というわけではなさそうだ……。


 二匹共、視界外から投げつけてきたのだろう。訓練の難易度調節がおかしいと嘆きたくなった。が、そんな甘えは許されなかった。二匹の鉄ウサギは人参を手元に召還した。

 

 上半身を起こしただけの不安定な姿勢ながらも、咄嗟に狙いを定めて撃った――しかし、見えない壁に弾かれた。口を開け唖然、としたかったが、唖然とするのは後に回すしかなかった。リアクションさえ取らせてくれない二匹の鉄ウサギがこちらに先ほど同様に円を描くように走ってきたのだ。


 急いで立ち上がった。撃っても無駄っぽいので、とりあえず動きを観察しようとするが、二体は別々の方向、自分を挟むように移動する。

 このまま突っ立っているだけでは、的にされるだけと判断し――鉄ウサギはもう無視して、ゴールに向かって走り出した。

 卑怯だというなら言うがいい!! 鉄ウサギの恐怖を知らないんだ!! 雪合戦の玉が手榴弾。そんな感じなんです!! ――和手はフラグを立てた。

 

 しかし、鉄ウサギは甘くはなかった。鉄ウサギの方が足が速く回り込まれた。


 回りこまれはしたが、一応視界に二匹が入った。銃を構え、攻撃に備える。

 二匹の鉄ウサギが動いた。右のは人参を上に大きく投げ、左のはこちらに向かって投げてきた。


 さっきの爆発のズレはこのためだったようだ。

 となると……動作は決められていると推測できた。目標の後ろに回りこんで投げる。ただそれだけと。


 そうと分かれば怖いものはなかった。落ち着いて、まずはこちらに向かって飛んで来る人参を撃ち落し、次に上からくる人参を撃ち落とした。

 そして上方から草原に視線を移すと、すでに二匹の鉄ウサギは消えていた。


 その後、慎重に進んでいくが後は何事もなくゴールに着いた。鉄ウサギの強襲が最後の障害物だったようだ。


『Congratulation!!』        

  

ブウンッ


「ふーっ」


 今までの訓練の中で一番肝を冷やした気がした。


――だが、そう思えたのは今のこの時だけだった―― 





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