16話:札吹雪
「次はナイフだ」
ナイフ
・おまけ1
・おまけ2
・訓練1
「極端に少ないな? でもまぁ、接近戦は苦手だから助かったかな?」
訓練が楽しいだけに、数が少ないのは複雑な気持ちだった。
順番にと思い、おまけ1を押した。
「『ナイフ:おまけ1』盆栽か生け花か選べっ!」
目の前にウィンドウが出てきた。
「説明すくなっ! んー……まぁ、とりあえず盆栽してみようかな」
しっかりとつっこみを入れてから、ボタンを押す。そして自己嫌悪に陥る。機械相手に一人で何やってるんだ。と……。
そうさせるオッサンが悪い。と責任転換し、問題は解決した。
「よし、盆栽だな! それでは自分の思うように作品を仕上げろ! 出来た作品はお持ち帰りOKだ! 制限時間五分スタート!」
お持ち帰りOKという言葉に少しドキっとする。青少年には色々と考え――妄想――させる言葉である。
場面が変わるまでの一瞬の間で和手が想像――妄想――したことの連想ゲームの一例を挙げて見よう。
お持ち帰りOK。女性。しかし盆栽。盆栽と女性。擬人化。盆栽女。痛そう。そんなプレイもあr……
ブウンッ
目の前に見上げないと、全体が見えない程大きい大木が姿を現した。今まで人生生きてきた中、TVで見た中でも一番大きかった。
「盆栽……?」
口をポカーンと開けて、どうしたものか……、と固まっていると
ブウンッ
大木が消えた。
「ごめんねぇ! 間違えちゃったよぉ!」
オッサンは舌を出しながら可愛く言った。
「キモッ!」
反射的につい口に出てしまった。
連想ゲームスタートッ!!
オッサン。中年。でも可愛い。女性。年と女性。年寄りの女性。でも可愛い。=ロリババ……
作者の遊びはこれまでとする。
ブウンッ
今度は自分の体の大きさほどの木が地面から出てきた。
「オッサン……まだ大きいって……」
しかし一分ぐらい待って見るがオッサンが出てこない。
きっと自分が盆栽の事を知らないだけなんだ。こんな大きさの盆栽もあるんだよ、きっと。と自分に言い聞かせ、ストレスを発散させるが如く、無我夢中で伐りつけた。
なんとか、アフロ頭の様にもさっとしていた木を、スッキリさせることが出来た。
中々の重労働だった。うまく出来たかはわからないが、個性は出せたと思う。
ブウンッ
「お疲れさん! それじゃあ、持っていきな」
と言うと、木がどんどん縮みはじめて、一般的な盆栽の大きさになり、そして消えた。ウィンドウに自動的に入ったのだろう。
縮んでいく時、初めから小さいままで出てこいよ! と思ったが、考え直すと理にかなった訓練だと分かりまたしても関心させられた。
そう、嫌いな接近戦を特に苦もなくできたのだ。
そして次に歩を進めた。
「『ナイフ:訓練1』はじめるぞ! ナイフの特徴は音がないことだ。使いこなせばかなり役に立つ武器だからな、がんばれ! 時間無制限スタート!」
ブウンッ
真横に木製の案山子が出現した。そして前方、離れたところには黒尽くめ三体が、様々な動きをしていた。
まず、真横のを見ると、頭、首、心臓部分の三部分が赤くなっていた。
機械とはいえ、人間型の黒尽くめじゃなくて、無木質の案山子にしてくれた運営の配慮に感謝した。
とりあえず切ったり刺したりしてみるが、なんとも動きがぎこちない。
シューティングは専門であるが、こんなことは門外漢である。
慣れないながらも、何度か切りつけていると案山子は消えていき、やっと終わったーと、安堵のため息をした。
今後、接近戦になってもナイフは使わないだろ……というよりまともに使えそうになかった。
そして、次の標的、
見てみると、一番近くにただ立っているだけのが居たのでとりあえず投げた
投げるといえば、シューティングだ。シャドートレーニングの成果もあり、綺麗に回転もせず真っ直ぐ赤枠に突き刺さった。
こればかりには流石に自分で自分をカッコイイと思ってしまった。ナルシスト、バンザイ。
投げることに関しては手榴弾でかなり上達していたのかもしれない。得した気分だ。
次は横移動で歩いていた。
いわゆるこちらに気づいていない設定だろう。
狙いを定め、ポインターにも出てもらった。補助的な役割にしかならないが、ないよりは見当がつきやすかった。
頭の赤枠に命中。
次は縦移動。
手前側から奥側への、一方方向の歩きだった。奥に着くと瞬間移動し手前側に来た。
ようするに、後ろからこっそり近づいて、暗殺。という練習だろう。なんとも良く考えられている。
手前に来たときに投げ、なんなく頭の赤枠に命中。
『Congratulation!!』
ブウンッ
切ったり刺したりする接近戦の訓練じゃないことを祈りつつ、ボタンを押した。
「『ナイフ:おまけ2』さて、お前はどのくらいのお金を入手できるかな!? 一度練習。そして二度目で本番。賞金は実力しだいだ! 何度でも訓練は出来るが、賞金が手に入るのは今回だけだ! 頑張りな! スタート!」
とりあえず投げることに関しては十二分に出来そうなので、まずは観察に力を注ぐことにした。
ブウンッ
砂地から、丸いカプセルの中のような部屋に変わった。壁は真っ白。そして真上の天井部分と左右の端に穴が開いていた。自分の細い手なら入りそうな穴だ。計三つ。
『穴からお札を出します。ナイフ使ってお札に傷をつけてください。ナイフはナイフ入れから引き抜くと同時に新しいのが出てきます。何本でも使いたい放題となっております。とにかく投げようが切りつけようが、お札に傷をつければ貴方の物になります。地面に触れた時点でお札は消えます。では練習10秒後にスタート』
『三』
『二』
『一』
『〇』
三つの穴から大量のお札が大量に噴出されてきた。勢いはとどまることなく、一分間出され続けた。桜吹雪ならぬ札吹雪だった。
それを最初一〇秒ほど観察をし、そして左端にある穴に向かって助走をつけ走りだした。
ジャンプして穴にギリギリ手が届いた。体を捻り、体の各部分を観察する。そして何度かナイフを投げるモーションだけすると手を離し。元の中央の位置に戻る。
そして、ナイフ入れを左腰から外し、右膝につけた。ナイフ入れや、ホルスターにポケットに手榴弾。これらは見えないマジックテープのような物が付いていて、どこでも装着可能なのである。自分好みの位置にセットできるのだ。
シャドートレーニングをし、さらに目を瞑り、イメージトレーニングもする。
『練習終了』
『それでは10秒後に本番スタートします』
左手にナイフを持ち、左端の穴に先程と同様に向かう。穴に右手が届き、体制を整えてから穴を掴む手を左手に持ち変える。左手にはナイフを持ったままである。
そして、体を捻り両足を壁に付け、右膝を立てる。そして右膝にあったナイフ入れから右手でナイフを取り出す。準備完了。
『三』
『二』
『一』
『〇』
勢い良く三つの穴からお札が出てきた。すぐ近くにある左端の穴からもお札が出るが、それと同時に左手に固定して持っているナイフによって全て切られて行く。
そして右手はひたすら上と右端の穴目掛けてナイフを交互に投げまくる。補充は、最速で出来ると思った右膝からで、さらに出来るだけ手首だけで投げ、無駄な動きを無くす。
ナイフは穴に吸い込まれるように入っていく。上穴からは斜めからなので五割ぐらい、右穴からは正面からなので八割ぐらいのお札に切り傷をつけている。
紙だといっても勢い良く出てくるので、左手に体重とその紙の力が加わり、ぶら下っていられるのは三〇秒ぐらいが限界かと思っていたが、ナイフの切れ味が物凄いいいのか、紙を切っている感覚、衝撃は全く伝わってこなかった。そのため、一分間持ちこたえることが出来た。
途中、右手首が釣りそうになったが、お金のため!!!! と気合を入れ、さらに叫びながら持ちこたえた。
『CoCoCoCoCoCongratulation!!!!!』
『本番終了』
『お疲れ様でした。それでは集計します……………………5万8793ゼニーでした!』
集計結果は、予想外だった。
「……ええええええ?????? 最低でも500枚ぐらいは切ったはず、いやもっと!!!! 千ゼニー*500だから……50万ゼニー以上のはずっ!! 消費税でもかかったのか!? なんだよ消費税って。な、なぜだ……? 一気に金持ちのために必死に歯を食いしばったのに……」
ブウンッ
オッサンが何か言ってくるが、耳に入ってこなかった。
考えて考えて、そして理解した。
『お札=千ゼニー札』と勝手に勘違いしていたのだ……。
そう、お札はたぶん1ゼニーから千ゼニーぐらいの間の値段だったんだろう……。
謎も解明でき、『ナイフ:見習い』の称号も手に入り、賞金は予想を大きく下回ったが一応は大金を手に入れたので、納得することにした。納得することにした……。
『強制ログアウトします』
五分前のアナウンスも聞き逃すほど考え込んでいたようだ。そして意識は遠くなっていった。
ちなみに、『ナイフ:見習い』の効果を後々見てみると、切れ味+(ダメージ+)と飛距離+だったが、手榴弾に比べると微妙な気がした。戦場では基本アサルトライフルでの戦闘だろうから役に立ちそうになかった。