15話:異世界トリップ
今日は八日分の授業の遅れを取り戻すべく猛勉強した。
そう、勉強が疎かになるとゲームが思う存分ゲーム出来なくなるのだ!
高性能目覚ましのおかげで、授業の途中眠くなることも全く無く、内職を、ノート写しをしまくれた。
一番綺麗にノートを取っているシュウに貸してもらった。
帰ってからもノート写しに追われた。
ノート写し漬けである……。
そして夜、いつものようにヘルムを被り、ログインする。
昨日でアサルトライフルの訓練は終わったので、今日から手榴弾だ。
手榴弾の項目を見てみると……
手榴弾
・おまけ1
・おまけ2
・おまけ3
・おまけ4
・おまけ5
「!? こ、これは……!? と、とりあえず、やってみよう」
不安な期待をしつつ、『手榴弾:おまけ1』押した。
「『手榴弾:おまけ1』はPKだ! 倒せ! 制限なし5回」
「PKってMMOで見る、プレイヤーキルのことか……? 対人戦をするのか……?」
首を傾げた。
ブウンッ
広がった光景はグラウンドだった。そして目の前にはキーパーとゴール。
「……PKってそのPKのことかいっ! 」
一人でつっこむ。静寂がちょっと寂しかった。
「……とりあえずシュートを決めればいいのかな」
白い丸の部分、指定位置に手榴弾を置き、助走距離を取るため下がった。
少し待ってみるが、合図とかは特に無かったので、勢い良く走り出して蹴った。
キーパーは反応できずゴールにつきささった。キマッタ。俺カッコイイ。
『OUT!!』
「……あれ? 入ったのに?」
ポーズまで決めていたのに。軽く涙目になりつつ、もう一度蹴った。今度もキーパーは反応できずゴールした。というより反応せずに。と言った方が正しいみたいだ。
『OUT!』
そこでオッサンの言葉を思い出した。『倒せ!』だったのだ。
信管を抜き、手から離す。そして地面に落ちる前に思いっきり蹴る。
――蹴った瞬間、爆発するかと一瞬焦りを覚えたが、爆発することなく、キーパーが飛びついてキャッチした瞬間爆発した。
『GOAL!』
次は信管を抜き、蹴るまでの動作を早く行ってみた。するとキーパーは反応せずゴールに入り、それから爆発した。
『OUT!』
ここで確信を持った。
どうやらこれは爆発するタイミングを鍛える訓練みたいだ。うまいタイミングで爆発する時意外、キーパーは反応しないようだ。
信管を抜いてどのくらいで爆発するか数えてみた。もちろん自分から離している。
ドーンッ
『OUT!』
約5秒のようだ。
ブウンッ
一回だけ『GOAL!』しただけで、20点だったのでもう一度挑戦。全て成功させなければならないようだ。『手榴弾:おまけ1』押した。
ブウンッ
システムとタイミングはすでに掴んでいるので楽々クリアーした。
『Congratulation!!』
ブウンッ
「さて、まだまだ張り切って楽しむぞー!」
気合を入れ、『手榴弾:おまけ2』押した。
「『手榴弾:おまけ2』はボウリングだ! しかし普通のとは違うぞ! 途中にある輪を通して、さらにピンの手前で爆発するように投げなければならない! おまけ1の応用編だ! 回数は四回、スタート!」
ブウンッ
ボウリング場が姿を現した。――1レーンだけ。回りは砂場。異様な光景だった。そんなことに気にしていてはクリアーできないので、頭から除外する。
レーンの上には浮いている輪があった。
大きさは半径10センチぐらいと中々大きかった。輪の高さは自分の頭の位置。距離はピンと自分のちょうど間ぐらいにある。
ポインターを具現化するまでもないが、上手投げの放物線を思い描いて、イメージをつかんだ。
そして信管を抜いて三秒目と同時に7割ぐらいの強さで手榴弾を投げた。うまいこと輪を通り、ピン直前で爆発した。
煙が晴れた時、残っているピンはなかった。
よしっ! と小さくガッツポーズをし、次の手榴弾を手に取った。
そしてピンが復活するのを待っていると、輪の位置が動いて、腰の下辺りの位置まで下がった。
さっきと同様に三秒目に、ソフトボールのように下手投げをした。見事に輪を思い描いていた通りに抜けて、ピン手前で爆発し、全て吹き飛ばした。
次は腹の高さだった。しかしさっきまでは輪は中央だったのが右端によった。
考えれる投げ方はサイドスローだ。
投げ方をサイドスローにするだけ、要領は同じだった。投げるのもシューティングのような物なので簡単だった。
そして最後。
腹の高さで、左端に移動した。逆の手で投げるとなると、中々至難の業である。
ポインターを出して、なんとなくの手を離す位置と輪を通りピンの手前までの射線を作った。
このように、もう応用出来るまでになった。
何度か左手で投げる練習をしてから、射線に添って投げた。
何とか輪内を通ったが、力が入ったため勢いがあり、ピンにぶつかった。手榴弾は弾かれたが、すぐに爆発して何とかなった。
『Congratulation!!』
ぎりぎりのクリアーだ。
ブウンッ
「次はなんのスポーツだー!?」
どうやら全てスポーツのようだ。球技といえば数多くあるので、どれが出てくるか楽しみである。
『手榴弾:おまけ3』押した。
「『手榴弾:おまけ3』はフリースローだ! 十回入れたらクリアー制限時間なしスタート!」
見慣れた講堂に変わった。
そして今居る位置は、一般的なバスケットのフリースローの位置。しかし向いている方向は一般的に狙うゴールの方ではなく、反対側。ということは、そういうことであろう……。後ろをチラっと見たが、ゴールは付いてなかった。そういうことみたいだ。
距離にして約20〜25Mぐらいだろうか。しかし、ゴールの高さを考えたら30Mぐらい投げる感覚でよさそうだ。
とりあえず、フリースローのように投げては届くわけはないので、片手で振りかぶって投げてみた。――届かない。信管は抜いて投げていたので、床で爆発した。
かなり力を入れて投げて、やっと板に届いた。一番飛ぶと言われている45度もキープしている。おそらくゴールの位置が手榴弾の最長の射程距離みたいだ。ある程度以上では、力を入れれば入れるほど安定が失われる。これは中々大変になりそうだった。
――ちなみに床、板は傷一つついていない。
しかし、考え方を変えてみると、戦場で相手も同じ距離しか投げられない。この距離感を覚えてしまえば有利になるかもしれない。と思うと俄然やる気が出てきた。
作戦はひたすら投げ続けるぐらいしかなかった。上手、下手、サイドスロー、色々試したが、サイドスローは論外、上手も下手も特に差はなかったので、一般的な上手投げで繰り返し投げた。
一度入れるまでが少し大変だったが、一度入れてしまうと、後は3球に1球ぐらいのペースで入った。
『Congratulation!!』
ブウンッ
一息つけてから『手榴弾:おまけ4』押した
「『手榴弾:おまけ4』 TKG! スタート!」
ブウンッ
20〜30Mぐらい離れた距離に、半径大人一人分ぐらいの大きな白い玉が、、空中に浮いて出現した。形は少し楕円な……
とりあえず、手榴弾を投げてみた。感覚もすでに掴んでおり、玉に直撃と同時に爆発した。ひびが少し入った。
五発目を投げたところで、一気にひびが広がり、玉の下に大きな丼が姿を現し、そして玉改め卵は割れた。
そして丼の上に綺麗に中身は着地した。TKG、『Tamago Kake Gohan』の完成。
『Congratulation!!』
「こういうのを開発者の悪ふざけと言うんだろうか…………楽しいから良し!!」
こんなことさせんじゃねぇ! と怒るよりも、バカだなぁ。とクスっと笑った方が楽しいのだ。
ブウンッ
気を取り直して最後の、『手榴弾:おまけ5』押した
「『手榴弾:おまけ5』だ! お前は異世界に飛ばされた! 救世主となれるか!? 城を守りきれ! 今回もランク付けで賞品が出るぞ! スタート!」
色々と気になる点があるが……スルーする。
ブウンッ
そこは夜の世界だった。月は三つある。
そして自分は古風な城壁の上、ど真ん中に一人立っていた。
左右に、城壁の上に弓を持った兵隊達がずらーっと並んでいる。
彼らの表情は等しく険しい顔をしている。――そう、等しく同じ顔だった。
何百人の兵隊の顔を一人一人設定することは放棄したみたいだ。
左右は岩壁に挟まれいる防衛には好条件の城のようで、前からの侵略を阻止するだけでいい。楽そうだ。
そして兵の一人が近づいてきて、頭を垂れてきた。
「救世主『バクダンマ』様、どうか我々に力をお貸しください。魔王が復活したようで、我々だけでは対処できません。敵は歩兵、弓兵、魔術師を使って来ます」
……名前……。とりあえず返事を返す。
「わかりました」
「あと、バクダンマ様をお守りするために結界を張らせていただいてますが、攻撃を受けすぎると破壊されますので、注意してください」
「なるほど……敗北条件は、城が落とされるか、自分がやられるか、かなー」
すると急に世界が光を手に入れた。朝日が昇ってきたのだ、その光にあわせる様に太鼓の音が聞こえてきた。さらにその音にあわせる様に足踏みする音も聞こえてくる。
前方から1頭の馬が猛スピードで駆けて来て、乗ってた兵士が大声で言った。
「魔王軍が来たぞー!!!!」
とりあえず襲撃に備え、手榴弾を両手でひたすら投げた。信管は抜いていないので爆発はしない。
手榴弾をそこら中に撒いているのだ。どうやら力が増しているのか、より遠くに投げることが出来た。
太鼓の音がどんどん近づいてくる。まだ視線には入ってこない。
汗が湧き出てくるし、息も切れてくるが、とにかく投げ続けた。
スタミナは無尽蔵ではないのだ。休めば回復するが。
そして岩壁の端から徐々に魔王軍が姿を現した。それはかなりの量の軍勢だった。こちらの数倍はあるようみ見える。
異形の者達は斧や剣等を武装している。
そして、手榴弾が届かない位置で止まると、異形の者達が道をあけた。すると後ろから神輿の様な椅子に座った者が最前列に出てきた――それは見たことある顔だった。
「う"おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいい!!!!!! あの時の恨み果たしに来たぞ!!!!!!!!!」
変な魔王っぽいコスプレをした銀行員だった。
「愛車を壊された怒り! 忘れはせんぞ! 今ここで晴らしてくれる! 第一陣行けー!!」
「「ウヲヲヲヲヲヲオオオオオオオォォォォ!!!!!!!」」
つっこみどころ満載だが、あえてつっこまない。スルーする。
異形の者達が、叫びながら突っ込んできた。見たところ接近武器しか持っていない、歩兵隊だけのようだ。
手榴弾が届く距離まで来たので、信管を抜かずに直接頭に当てて倒していく。――そんな使い方いいのか? そんな声が聞こえる気もするが、華麗にスルーする。我が道を行くタイプなんです。
そして、意外とこちらの弓兵が強力で、三分ほどそれで乗り切れた。
しかし数の暴力、徐々に押されて来た。門にたどり着きそうだったので、一個だけ信管を抜いて軽く投げた。
池に投げた石のように、波紋が、爆発が一気に広がっていく。
大爆発と共に、物凄い煙が辺り一面を覆った。奥に居るであろう魔王軍も見えない程だった。
煙が晴れた時には、数百は居たであろう異形の者達の姿は無かった。
それでも強気な銀行員。
「っふっふっふ! それくらいでいい気になるなよ! まだまだー! 第二陣突撃ー!」
異形の者達が、先よりも増して突っ込んでくる。同じように信管を抜かず直接当てて、原始的に倒していく。
しかし途中で止まる者達が居た。弓兵だ。
数が多く、流石に対処しきれなかったので、信管を抜き投げた。
先ほどと同様規模の大爆発を起こした。
初めに歩兵、弓兵、魔術師と聞いていたので、予め手榴弾の配置を三段階に、近距離中距離遠距離と別けていたのだ。
殆どの弓兵と、巻き込まれた歩兵が姿を消した。
大爆発で第二陣の五割程を倒したので、後は楽だった。ただ投げ当てるだけで後はこちらの弓兵で対応できた。
程なくして第二陣を壊滅させた。――ここまでで城壁に辿り着けた者は居ない。
「っはっはっは! こんなの序の口だよ! 行け! 第三陣!」
それでも銀行員の焦りの色が見えない。何か策があるように思えた。
銀行員が現れてから策を仕掛けておいたが、より念入りに策を仕掛けることにした。
そして第三陣、歩兵と弓兵に加え魔術師も出てきた。
歩兵、弓兵には合間合間に仕掛けて居た手榴弾に誘爆を誘い、対処し、魔術師には当てるだけで粘るが、魔術師の多さに対応しきれず、限界だと判断した時、仕方なく信管を抜き、三段階の遠距離部分の左右に投げ、先までの大爆発よりは小さい中爆発が二度起きた。
これで殆どの魔術師と、巻き込まれた諸々(もろもろ)で、第三軍の残りは三割を切っていた。後は味方の弓兵に任せ、念入りに策の"準備"をした。
間も無く第三軍が全滅した。
「どうやら私が出るしかないようだな……! 私は雑魚どもの数百倍は強いからな! 私の車にしてくれたように、お前を穴だらけにしてくれるわ!」
この話し方からすると、手榴弾を数百回当てたら倒せるということだろう……。準備していて良かった。
そして、銀行員は椅子から降り、こちらに向かって歩き出した。
射程内に入ったらすぐに投げれるように、手榴弾を構えた。
一歩一歩ゆっくり近づいてくる……
「俺様の編み出した、必殺技ウルトラサブプ――」
「今だ!」
手榴弾は弧を描いて飛んでいく。投げた後は手で耳を塞ぎ、しゃがんだ。
銀行員の1M手前に落ちた。――落とした。
そして一個の手榴弾は爆発する。その爆発が導火線となり、
"超"大爆発を引き起こす。
始まる前に、合間合間にコツコツと一箇所に投げ貯めた手榴弾、約500個が一度に爆発したのだ。
その爆発は思っていた以上で、さながら花火大工場大爆発だった。自分の体は紙くずみたいに後ろに吹き飛び、"結界"によって城壁から落ちるのは防げたが、音と衝撃は防ぎきれなかった。体が野球ボールになり、バットで思いっきりホームランされた気分だった。衝撃により耳から手が外れ、音は耳に直接入り、確実に鼓膜が破れた。と感じた。がそんなシステムなかったようで、鼓膜は健在だった。
最後に見た銀行員は、にやけた顔で口をパクパクさせていた。何か喋っていたようだが、耳を塞いでいたので聞こえなかった。
そして、煙が収まる前に、音が先ほど聞こえた音に対しては、余りに小さいが、しっかりと響き渡る。
『CoCoCoCoCoCongratulation!!!!』
ブウンッ
「おう! よくやったな! ランクはSでクリアだ! 魔王銀行マンを倒すとは、お前は人外の者か!? まぁとりあえず、賞品授与だ!」
「まってましたー!」
「Dランク500ゼニー、Cランク1000ゼニー、Bランク、1500ゼニー、A4000ゼニー、S手榴弾+1」
「おおー!?」
「手榴弾+1とは、手榴弾の所持数が一個増えるということだ。基本が三個なので四個になる。永続だ」
「おおぅ……かなりいいっぽい」
永続や上限UPは貴重なはずだ。かなり良い物を手に入れたと思う。スコープといい、これといい訓練最高ー!!
「おう! 手榴弾ALL100点クリアーだ! お前やるな! お前のことはこれから爆弾狂と呼ぼう」
「……」
「冗談だ、ごめん。そんな目で俺を見るな。それでは称号をやろう『テロリスト:見習い』を授与する。勿論冗談だ。銃を向けないでね。『手榴弾:見習い』を授与する」
「…………これがお姉さんだったら許しちゃうぜ! とか思うんだろうか…………訓練中手が滑っても事故で済まされるよな。うん」
『『手榴弾:見習い』を装備しました』
「今まで通り、肩のマークが変わったからな」
「……お? いいかも」
マークは手榴弾が三つ並んで真ん中に棒が突き刺さっている。――三兄弟。
「効果は、飛距離、威力の増大と、手榴弾+1だ」
「おおお!? 効果かなりいい! しかし、計五個の手榴弾とか本当に爆弾狂に見られそうだ……。ん……? 見習いで五個、上位称号になるといくつになるんだ……!?」
まだ見ぬ称号に期待を寄せた。
――
それと同刻、和手の今までの訓練の様子を10倍速で見る一人の人物が居た。
「…………これは…………異常だ……。シュトレーに伝えろ。シュトレーにこいつの記録全て見るのを許可する。後、"あいつ"にも動いてもらおう」
「し、しかし、プライバシーの観点から、訓練風景を見るのは基本的に禁止されてますが…………貴方が見るのでも、許可が下りるための書類を私がどれだけ書いたと……」
「かまわん、僕が許可を出す」
「だからぁ……書類を書くのはぁ……私だって言ってるでしょ!!!!」
それは和手の知らないある一室での会話。何かが動き出したことを意味していた。