14話:銀行員との戯れ
夜。
「おう、よく来たな見習い! 今日も頑張れや!」
元気なオッサンの声で今日も訓練が始まった。
まずは初めに『AR:直立123』を腕慣らしにもう一度やることにした。
ブウンッ
ドンッ、ドドドンッ、ドドドドドドドドドドドドドッ!!
『Congratulation!!』
ブウンッ
単発はかなり良い命中率をしている。三点バーストはまぁ良い命中率をしている。フルオートの集弾率をコントロールするのは中々難しかった。
ARを持ち始めて、日が浅いのだ。慣れたら集弾率も上がるだろう。
「よし、さくさくいくぞー!」
「『AR:横移動』の説明するぞ! 拳銃の横移動と同じだ。頭を狙え。五体目はどこに当てても良い。制限時間なしスタート!」
四体目までの行動パターンは『拳銃:横移動』同じであっさり倒せた。五体目は姿が見えなかった。正確には大きな盾で体全体をガードしていて見えない。
とりあえず。単発で何発か撃つが、カーンッ! と良い音がするだけで反応がなかった。
なのでフルオートでとにかく撃ちまくった。弾倉を三個消費した。肩に衝撃は来るが、痛みは感じない。弾倉は自動でポケットに蘇ってくる。そしてフルオートで撃つのはカーンッ! という金属音も合わさり、とても気持ちよかった。いくらでも撃っていられそうだった。それだけフルオートの魅力に取り付かれていた。
そして一〇個目の弾倉の時、盾が潰れて行くのが視認でき、ほんの少しの隙間に見えた体に弾を正確に撃ちこんだ。
『Congratulation!!』
「まだまだいくぞー!」
「『AR:大モグラ撃ち』の説明をするぞ! モグラ撃ちは一発当てればよかったが、大モグラ撃ちでは枠内に三発当てろ! 枠内なら点数は同じだ! 三点バーストの練習だ! それではスタート!」
ブウンッ
大モグラといっても大きさは変わらず、そして相変らずな音楽が流れ、ピコピコハンマー音は三点バースト撃ちにより、三連続でピコピコピコンッと音がする。多少集中力が散漫になるが、支障はなかった。
横移動の初めは、弾倉を変えるのはまだぎこちなかったが、一〇回も弾倉を入れ替えをしたので、滑らかに行えるようになっていた。そして三点バーストは枠外に外すことなく100点が取れた。
『Congratulation!!』
ブウンッ
次は『AR:空間移動』だ。ARでは縦と円移動はなかった。
「『AR:空間移動』を始めるぞ! 見極めろ! 今までを思い出せ! 撃て! 硬いぞ! 頑張れ! 制限時間なしスタート!」
気合が入るのか、入らないのか良く分からない切れ切れの説明、応援をいただいた。
ブウンッ
現れたのは5匹の鉄の人間で、動物の動きをしていた。いや、"超"動物と言った方がいいのか、動きのポテンシャルが半端なかった。姿は人間だが、動きは人間じゃない。
まず犬っぽい動きの黒人間
ただ、ただ早かった。初めは何かが高速で居る。というのが分かっただけだったが、それだけだったので目が慣れれば難なく当たり、足に当てればこけたので、そこにフルオートで撃ち込む。が、立ち上がるとすぐに高速移動に戻った。
足に当て、こけさせ、フルオート、繰り返しで難なく撃破。消えていった。
フルオートの集弾率がだいぶ上がっているのを感じれた。
次に蛇っぽい動きの黒人間
体をクネクネして高速で地面を這い移動している。撃つが、骨がないのか? と言わせんばかりの体のくねりようだった。
動きを見極めようとするがランダムっぽく、弾倉五本撃ったが一発も当たらなかった。当たってそうなのに当たらない。不可思議な現象だった。
なので一旦座って考えることにした。特に案は思い浮かばず、なんとなく蛇を見ていた。――すると思いついた。
伏せて、撃った。すると面白いように当たった。蛇は平面の地面に這って移動しているので、伏せて狙えば物凄い簡単だったのである。
なるほど伏せの訓練か! と関心させられてしまった。
どうやら訓練をこなしていくだけで基本動作は全て習得できそうだ。
次に猿っぽい動きの黒人間
とりあえず伏せたままで撃つが、ジャンプして避けられる。伏せで駄目なら、座りだ。とさらに新しい撃ち方を試してみた。
すると、立っている状態よりは安定し、当たるようになった。
勿論、伏せの方が安定感はあるが、どうやら座り撃ちでしか倒せない設定になっているようだった。
変な設定だが、そんな設定を作る技術者が凄いと思わされた。
次に鳥っぽい動きの黒人間
飛んでいた。とりあえず撃っていみるが、当たらなかった。撃ち続けた。
一〇弾倉程撃った所で光明が見えた。
鳥の右手だけをひたすら狙い撃つと、避けるために右手だけうまく羽ばたけなく、バランスを崩し地面に落ちたのだ。そしてそのまま消えていった。
……何か得る物があったのだろうか? ……いや、きっと何か得る物があったはずだ。何かはきっと得れたのだ。信じるんだ俺。信じるんだ。……このゲームは所々おかしな点が出てくるから信じきれなかった。
最後にUFOっぽい動きの白人間
5人目は例によって違っていた。人間がヨガのように体をUFOの形に無理やりして、それで浮いている。
単発撃つと、意外に当たった。――が消えて、そして違う所に瞬間移動していた。
次に三点バーストで撃つが、当たった音がするのは一度だけだ。
つまり一発当たると瞬間移動するようだ。
反射神経を鍛えるような訓練だった。ひたすら単発で撃って、狙って、撃って、狙って、撃って。繰り返すこと二弾倉分で撃破できた。
初めはカーンッカーンッカーンッカーンッと音に間隔があいていたが、二弾倉目ぐらいからはカカカカカーンッ、カカカカカカーンッとテンポ良く撃つことが出来た。どんどん上達していくのが分かって楽しかった。
『Congratulation!!』
ブウンッ
次は『AR:おまけ1』だ。おまけ、何が出てくるか楽しみだ。
「『AR:おまけ1』よくここまで来たな! 銀行員の車を発見した! 許す! 潰せ! 弾無限モードだ! 楽しめ! 制限時間五分スタート!」
「うほい! まじですか! いいぞオッチャン!!! ついにこの時がやってきたああああ!!!!!!!」
ブウンッ
どこかの立体駐車場。周りに人は居ない。そして目の前に『エンテォ・フェレーリ』があった。
「こ、これ見たことあるぞ、確か1億越えの車……目の前にあるってことは……そうだよな? ――間違っててもいいや」
銃を構え、即撃ち始めた。
ドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!
ピカピカの赤い車は風穴をどんどん開けていった
「これ、気持ちよすぎる!!!!!!!!! 俺ってば1億を潰しているぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!!!
赤い車のタイヤからは空気が漏れ、ガラスは砕け散っている。
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「あ、あはー!! これ楽しいぃ……気持ちいいぃ……」
止まることなく銃口が火を噴く。辺りを銃声が支配する。
とにかく打ち続ける。3〜4分経ったであろう。すでに赤い車ではなく、スクラップと成り果てていた。その時
「お、おい! お前!!! 俺の車に何している!!!!!」
銀行員が声を荒げて現れた。
とりあえず、撃つのをやめた。
「なんて事をしやがるんだ! このクソ野朗!!!!」
ドンッ ガシャーン!!
バックミラーを撃った。ぼろぼろバックミラーは地面に落ちた。
「お、お前ええええええええ!!!!!!!!!」
そろそろ五分が経ちそうで、それに今にも殴りかかってこようと近づいてきたので、エンジンのありそうな所を重点に撃ち始めた
ドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!! ボッ!!
狙い通り、車から火の手が上がった。
「や、やめろおおおおおおおおおおお……や、やめてええぇぇぇ……やめてくださいいいいい……」
さっきまで顔を真っ赤にしていた銀行員が、火の手が上がると途端、顔を真っ青にし、土下座をして懇願を始めた。
「止めてほしい?」
「はいいぃぃい、やめてくださいぃぃぃ」
「お金は?」
「ど、どうかこれを受け取ってくださいうぅぅぃぃぃぃ」
アタッシュケースを前に出してきた。
ドンッ
――が、それを撃った。
アタッシュケースは爆発し、銀行員は派手に吹っ飛んだ。
銀行員の両手がアタッシュケースに近かったので、両手が吹き飛ぶかと思ったが、そんなグロイシーンはなくて安心した。
これは『おまけ1』。賞品を入手でない――そう、アタッシュケースは銀行員の罠。
「あ、あぁあああああ、この貧民風情がああああああぁぁぁぁぁ」
無視してエンジン部分をさらに撃ち始めた。
ドッカーン!!!!!!!!!!!!!!!
車は大爆発して、みるも無残な黒焦げ姿になった。そして爆風と共にタイヤが転がってきて、銀行員の前で止まった。せめてもと、銀行員が手を伸ばす――がそのタイヤも撃ち、粉々に砕いた。
「あっぁっぁぁあああぁぁぁぁ、エンテぉちゃーんーーーーーーうわーんーーーーーーーーーーひどいよぉーーーーー」
泣き出してしまった。
『Congratulation!!』
ブウンッ
訓練に回数制限はない。ストレス発散方法を見つけ小躍りした。
≪エン○ォ・フェ○ーリが嫌いなのではありません。あの形大好きです。名前を聞いたことある1億越えの車だったので採用しました。好きな方が居たら申し訳ありません≫
「さて、次もこの分だと楽しみだ」
『AR:おまけ2』押した
「『AR:おまけ2』は中世、船で旅行中のお前は、海賊に襲われた。迎え撃て! 船を潰せ! 制限時間なしスタート!」
「……中世に来ちゃったよ」
ブウンッ
視界は地平線まで続く大海原。鼻には海の香りが香り、風は向かい風。髪がたなびく。――船先に自分は立っていた。
しばし、その光景に見とれていた。とても仮想世界とは思えない。都会暮らしで、船なんか乗ったことなかったのだ。
しかし邪魔をするかのように法螺貝の音が響いた。
さらに悲鳴と歓喜の声が混じり合わさり、騒音となる。
自分の世界に入っていたのに、邪魔されたことにムカッと来た。
船先から船中央あたりまで行くと、後ろから海賊船が迫ってきてるのが見て取れた。
……とりあえず、ぶっ放すことにした。
ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!!
船体を撃つが、あまりダメージが無いように見えた。どこが効果的か考えた。――マストだ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
斧で木を伐るように、同じ部分をずっと撃った。弾倉八個程で、海賊船が横に来る前にマストがメキメキと音を立ててへし折れた。
そして、マストが折れた海賊船はこちらの船の速度に追いつけず、後方へ下がっていく……
「あれ!? 俺の出番は!? ねぇ、ちょっとー!?」
先ほど聞いたような声が海賊船から聞こえてきた。
『Congratulation!!』
ブウンッ
「…………え? 終わった?」
苦笑いするしかなかった。
的確に弱点を撃ったようだった。それにフルオートで外さずに撃ったので、開発側の予想以上のスピードで潰してしまったのだろう。
海賊船というからには、たぶん横に来て海賊たちが乗り込んでくるのだろう。それを船上で交戦すると予想される。そんな様子も見てみたい感じもするので、もう一度やり横に来るまで待つか、先に進むかどうするか迷ってると――
『残り五分でログアウトです。』
『AR:おまけ3』のボタンを押した。
「『AR:おまけ3』だぞ! 銃装備綱渡りだ! 早ければ早いほど商品が良くなるからな! 制限時間なしスタート!」
「この開発陣の考えることは予想がつかない……それが面白い!」
ブウンッ
眼下に広がったのは街だ。自分が居たのはビルの屋上だった。そして足元からは前方のビルへ縄がつながっている。ビルの高さは尋常じゃない。家々が点にみえるほどだった。そして向かい側のビルはこちらより小さいが、それでもとてつもなく大きい。
そして、なんだか重いなと思い、自分の体を見ると――重装備をしていた。
黄金の甲冑をしているのだ。たぶん、重装備と銃装備をかけたのだろう……。
そして銃の、アサルトライフルの先は異様に長くなっていた。超ロングライフのようだ。良く綱渡りでよく見る棒に見立てろということらしい。重さもそれなりにだった。
すぐに渡り始めず、まずは状況を考えた。
そして閃き――行動に移した。
縄の上を慎重に歩いていった。そしてある程度わたったところで、後ろを向き、しゃがんで銃を体で支え、片手は縄を掴み、片手で引き金を引き、縄を撃った。――が、縄が太く丈夫だったようで、一発では千切れなかった。何度か落ちないように慎重に撃つとちぎれた。そして銃をすぐに手放し、両手で縄を掴む。
「あああああああああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
"超"ターザンに挑戦したのだ。
そして向かいのビルのガラスにぶつかる直前、縄から手を離し、体を丸め勢い良くぶつかった――がガラスは割れず、さらにはひび一つはいっていない。
「ギョッェッ」
蛙が潰されるような声が自然と出た。全身打撲にでもなってそうだ。
弾かれたので、後は落ちていくしかなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
一分ぐらい空中を飛んでいると
ブウンッ
見慣れた砂地に変わった。
ターザンは8割型無理だろうと思っていた――が、好奇心に負けたのだ。
しかし落ちるのに一分かかったのは予想外だった。
急いで『AR:おまけ3』のボタンを押した。
ブウンッ
そしてもう一つ考えていた作戦を実行することにした。
すぐに伏せて、縄の上に銃を置く。そして銃を両手で縄の下からしっかり持ち、地面を蹴りビルの屋上から飛び出した。
アスレッチックによくある遊具のように、両腕の間、頭の上を縄が流れていく。どんどんビルが近づいてくるが
『残り一分です』
距離と速度的に時間が足りないと判断し。そこで最終手段に出ることにした。
縄にクロスする形だった銃をギリギリまで斜めにする。指器用に引き金の所へ持って行き、引いた。
ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!
弾は彼方へ飛んでいく。そしてその反動でどんどん速度が上がっていく。
無茶な体制で撃ったので、腕にかなりの負担がかかったが、そんなことは言ってられない。かまわずにずっと引き金を引き、予想より早くビルについた。しかし画面が変わるまで油断できないので、急いでビルに移り、ゴールと書かれた円の中に立つと
『CoCoCoCoCoCongratulation!!!!!!』
ブウンッ
「おお! よくやったな! 凄いぞ! Sランクだ! なので、D、C、B、A、Sランクの商品一気に授与だ!」
「おお!? なんだか得した気分だ」
普通は何度も挑戦して、順番に得ていくのだろう。
「Dは500ゼニー、Cは1000ゼニー、Bは1500ゼニ、Aは4000ゼニー、Sはスコープ!」
「お、レアアイテムゲットか!?」
「このスコープはAR専用だ。筒を通して見れば、遠くがより見えるぞ。まだ実装されていないがスナイパーには敵わないし、それにポインターと併用は出来ないからな!」
デメリットの方が高いように思うが、自分にとってはかなりのメリットの高いレアアイテムだった。広くて視界が良好なステージでは活躍するだろう。
…………涎が出てくる。
「おお! これでアサルトライフルALL100点クリアーだ! 称号を授与するぞ!」
「そうだった!!」
「称号『重:見習い』を授与する!」
「……え? ……ネタ称号?」
「…………ああ、すまない間違えた。称号『銃:見習い』を授与する!」
「ちょっと! おっさん!!!!」
聞く耳など持ってくれないとは分かってるが、それでも抗議したくはなる。
「『銃:見習い』の効果はアサルトライフル使う時、補正がかかり、反動が小さくなったり、飛距離や威力が増えたりするぞ。まだ『見習い』だからそれ程高い効果は期待できないが、無いよりは全然いいぞ」
拳銃見習いと同じのようだ。
「さっそくつけて置いてやろう」
『称号、『銃:見習い』を装備しました』
「肩を見てみろ」
拳銃のマークだったのが、アサルトライフルのマークになっていた。拳銃マークもいいが、こちらも中々カッコイイ。
「うーぬ、これは一個ずつしか装備できないのか……今後幅広く称号が出てきたら迷いそうだ……」
「まだまだ俺から見たら見習いだ! しかしよくやったな! 後は、応用以外は楽だと思うぞ! まあ頑張りな!」
『強制ログアウトします』
オッサンが言い終わると同時に聞こえてきた。オッサンのイベントが終わるまで待っててくれたんだろう。
深い眠りについた。