13話:赤い糸2
その夜、いつものようにロウインした。
「いらっしゃいませ、今日で十日目ですね」
ログイン地点で眩しい笑顔でお姉さんが話しかけてきた。
「今日も楽しんでください」
軽くお辞儀すると消えていった。
「……消えるの早いよっ!」
トボトボと訓練に向かう。
「おう! 良く来たな! 今日も頑張りな!」
オッサンはもうお腹いっぱいです。なんて思いつつも拳銃の訓練を始めた。
拳銃の訓練の一通り一度はすべてクリアしていたので、ポインターなしでやるのは集中力が必要なぐらいだった。
この集中も、基本的にシューティングゲームで鍛えられていたので、特に問題にはならなかった。
といっても、何でもかんでもするのにあたって集中力があるわけではない。好きなことだからこそ集中力が人一倍に発揮されるのだ。
が、モグラ撃ちには苦労させられた。
音楽や音が集中力を削ってくる上、連射しなければいけないのでポインターの精度を保つのが難しかった。
しかし一度目84点、二度目92点。という中々の高得点となり、次は100点クリアできそうだったが、少し飽きたので後回しにすることにした。
横、縦移動は一発クリアの100点だった。しかし、円移動では五人目の空飛ぶ鉄人間の羽にも的が出ていて、少しずれて黄色部分にあたり100点にならなかったが、二度目で100点クリアを達成した。
そして空間移動の四人目までは難なく赤色部分にHITすることが出来た、しかし五人目の小さな羽根は非常にやっかいだった。
小さい上に的になっているのだ。赤色部分の直径は普段の半分の五センチぐらい。
ただでさえ当てるのも難しいのに、その上小さい。羽には当てることは出来たが、動いているので緑黄赤、どこに当たるかはもはや運だった。そして五度目の挑戦で何とか赤に当てれ、100点クリアーできた。
そして、三度目のモグラ撃ち、少し危ないところはあったが、何とか100点クリアーできた。
『CoCoCoCoCoCongratulation!!!!!!』
何故かいつもより盛大なコングラチュレーションだった。
ブウンッ
「おう! 新入りよ! よくやったな! 拳銃ALL100点達成だ! 称号を与える!」
「おおおお!? 称号!?!? なんだ、なんだー!?」
予想外のイベントに興奮した。
「称号『拳銃:見習い』を授与する」
「……ん? ……これは喜ぶべ……き……? どっちだ!? ……うぅ」
あまりに微妙な、曖昧な称号名に少し涙目になり、膝が崩れ手を地面についた。
「称号の付け外しはウィンドウで出来るぞ。そして称号には効果がある」
「お、おぉぉぉ!!!!」
復活した。自分で言うのもなんだが、人間とは現金なものである。
「『拳銃:見習い』の効果は拳銃使う時、補正がかかり、反動が小さくなったり、飛距離や威力が増えたりするぞ。まだ『見習い』だからそれ程高い効果は期待できないが、無いよりは全然いいぞ」
「ほほー、効果は中々いいじゃないか」
口ぶりからまだ先の称号があるようだった。
「さっそくつけて置いてやろう」
『称号、『拳銃:見習い』を装備しました』
「肩の所を見てみろ」
無地だった両肩の部分に拳銃のマークがついていた。
「おおー、いいよこれ!」
和手のセンスで良い物が、一般的に見て良い物とは限らないが、今回は一般的に見てもカッコイイマークだった。
「新入り、改め、見習いよ! まだまだ訓練はあるぞ! 日々精進しろよ!」
「オッケイ! おっちゃん!! それじゃあ……アサルトライフルいくぞー!!」
『AR:直立123』ボタンを押した。
具現化出来るので、勿論、設定はポインターはなしだ。
「『AR:直立123』を開始するぞ! 10m距離に的が3つ等間隔に並ぶ。右から順にに赤枠に一発、枠内に三発、どこでも十発撃ち込め。制限時間なし。スタート!」
ブウンッ
言った通り、3体出現した。
アサルトライフルを説明書や情報通り、銃尻を肩に当て、しっかりと構え、慎重に狙いを定め、まずは右端の的に一発。
ドンッ
ポインターの狙った場所よりほんの少しだけ上に当たった。それでも一応赤だったのでセーフ。
集中力不足かな? と思いつつ、次の真ん中の的へ狙いを付け、三発連続して撃つ。――三点バーストと呼ばれる撃ち方だ。
一発目より二発目が、二発目より三初目が銃口が上に行き、三発目が枠内から上に外れた。
銃口が上に行くのはわかるが、ポインターよりほんの少しだけ上に当たっているようなので、実験をかねて的から大きく後ろに下がり、中央の的の頭のてっぺんぎりぎりをポインターで狙って撃ってみた。
ドンッ
しかし、頭には当たらなかった。そこでわかった。拳銃とアサルトライフルでは飛距離が違うので、ポインターの位置がずれるのだ。
――もう一度あの特訓をすることになりそうだった。しかし赤糸はアクセサリー感覚で気に入っていたので特に問題はない。
とりあえず、真ん中の的の枠内に当て、そして左端の的にフルオートで撃った。
『Congratulation!!』
ブウンッ
そしてポインターありにして、もう一度
『AR:直立123』を押した
ブウンッ
やはりポインターの放物線の描き具合が拳銃とは違っていた。飛距離がかなり伸びていて、放物線もかなり滑らかになっていた。
脳裏に焼き付けるために、ひたすら眺め続けていると
『残り五分です』
時間になったってしまった。今日は時間ぎりぎりまで、ポインターと戯れることにした。また明日一日中思い描くためにはしっかり焼き付けておかないとならなかったのだ
『強制ログアウトします』
一日が始まった。
昨日、お土産を渡した後、あれだけフレンドリーになった朱利とは打って変って、居ない存在のように無視され続けた。赤い糸アクセサリーは好みじゃないようだ。
シュウとカケルに再び赤糸ファッションの訳を話すと、渋い顔をしていた。
そしてその日はまた一日中、赤い糸に思い焦がれた。
夜。
一週間覚悟していたが、一日でアサルトライフルのポインターを具現化することが出来た。
距離を伸ばすだけなので、楽にできたみたいだ。
拳銃とアサルトライフルのポインターの素早い切り替えには少し苦労したが、その日の三時間費やせば思ったとおりに切り替えできるようになった。
そして次の日の朝、赤い糸をどうするか迷った。――――付けて行くことにした。
「お、シュウ、カケル、おはよう!」
「お、おはよー…………」とカケル
「話しかけてくるな」
と露骨に態度に表すシュウ。2人の反応を見ると、カケルは結構良い奴なのかもしれない。
「う……なんだかカケルに対する反応になってきてない……?」
良い奴かもしれないが、同じに見られるのは避けたい。
「当然だ。お前もカケル化してきてるぞ。で、具現化出来るようになるまで話しかけるな。去れ」
「うっ……ああ、そうだった。具現化できたよ!!」
「俺って一体…………まあいいか! おめでとうー!」
と立ち直りの早いカケル
「ありがとうー!」
「…………それなら何故、まだ糸を付けている?」とシュウ
「ん? カッコよくない?」
二人係で取り押さえられ、赤い糸は問答無用で引っぺがされ、ゴミ箱に全て捨てられた。
――その後の二人の会話
「んー、なぁシュウ、もしかして、あれが今時のファッションなのかなー?」
「違う」
「言い切れるかー? お前も俺もどちらか言えばファッションには疎いほうだぞ……」
「……そういえば、そうだな……あれが今時なのかもしれない…………いや! あれは明らかに変だ! 変な事を言うな……危ない花が開花されかけたぞ……」
「そ、そうだよな、変な事言ってごめん……そういえば生徒達と教師達の対応だけ見てもあれは……違うよな。教師は順番に生徒に問題を当てていっていても、和手だけ飛ばす。どの先生も全て。そんなことは今まで一度もなかった……。それに情報によると、和手の対応について緊急会議が開かれたらしいしぞ……たぶん、暖かく見守ろうって事になったんだと……思う……」
「ふむ……」
「後、情報によると意外と和手、女子から人気あったんだが……地の底まで落ちたかもな……朱利ちゃんの反応なんて……シュウよりひどかった……」
「和手…………しょうがない。また今日も放課後、ケーキ屋ついて行ってやるか」
「そうだなー!」
その日、シュークリームを大量に買って来た和手に、朱利が物凄い優しく可愛い態度で接している姿が見られた。――その日だけ。
朱利に物を買い与えて、機嫌を取ってもその日の内で消化されるのだった。