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9話:挫折と独自の信念


 ウィンドウを開く。


(んー、どこに入ろうかな……よし、ここだ)


 選んだのは『食うか食われるか』という題名の戦場。

 ソロ戦で、マップは『廃墟の市街地(外)』。

 右腰には拳銃、左腰にはナイフ、肩からアサルトライフル。しっかりと装備の確認を終え、決定を押しゲートを潜った。

 草原には何十人もの人間が居た。ほとんどが男だった。

 容姿はそれぞれにちゃんと個性が出て、尚且つ平均的に見て整っている。みんな調節してきたんだろう。髪はさまざまだった。

 そしてここに居る者のほとんどが戦闘狂なのだろう。時間的に訓練をしてきた者は居ないと思う。――楽しみになってきた。


 中には会話している者もいるが、ほとんどが黙って立っている。

 だんだんと体が強張ってき、心臓の音が良く聞こえる。


『三十秒後に戦場に移行します』


 深呼吸をしても、落ち着くどころかさらに心臓のテンポが早くなっていく。


『十秒前』


 自分は落ち着いていると言い聞かせ


『五秒前』


 アサルトライフルを肩から下ろし、


『四』


 手に持った。


『三』


『二』


『一』


『〇』


ブウンッ


 と音と同時に光景が変わった。

 転送された先は、夕暮れの狭い入り組んだ路地内だった。

 空の景色に少し見入ってると、すぐにどこからか静寂を掻き消す銃声が聞こえ、それにつられるようにあちらこちらで銃声が――銃撃戦が始まった。

 銃声とは生易しい物ではなかった。途端に膝が震えだし、手も震えだした。

 足が地面にくっついて動いてくれない。足が、体が鉛のように重い。


――パニックに陥った。


 そして、今にも逃げ出したい気分に包まれた。


(嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、逃げたい、早く逃げたい、どうしたらいいんだ!?)


 答えをくれる者はいなかった。仮想世界で死なないのはわかっている。しかしあまりにリアルすぎる。もう体が仮想世界とは思ってくれていない。

 体が震えるため、頭が、視線がガクガク震える。そんな時、視界に動く何かを捕らえた。

 家と家の間から人が出てきていた。必死に重たい手を上げて、アサルトライフルをそちらに向ける。まだこっちには気づいていない。

 震えて狙いが定まらないが、強迫観念のように頭の中で言葉が発せられる。

「撃たなければこちらがやられる」

「撃て! 早く撃て!」

「死にたいのか!?」

「相手は敵だ!!」

「撃て、撃て、撃つんだ!! 撃てええええええええええええ!!!!!!!!!」


 震える指で引き金を引いた。


 耳を塞ぎたくなる音が3発ほとんど同時に聞こえ、音の大きさに顔を歪めた。

 オートで三発撃ったが――一発も目標に当たっていない。ただ銃を持ち、ただ引き金を引いただけなので当然だった。


 銃の尻を肩に当てて撃たなければいけないのに、手に持って撃っただけだったので、1発目の反動で銃の尻は胸を叩いた。

 そして銃は2発目3発目の振動で、両手から飛び出すようにして地面に落ちた。

 急いで拾おうと体を屈めるが、前方からの銃声と共に、体の至る所に衝撃と痛みを感じた。

 すると前方に勝手に倒れて行く"自分"を後ろから見ることとなった。幽体離脱の様に体から自分は離れていたのだ。本当に死んで幽霊になった気分だった。

 倒れている体の上には『Dead』と赤文字が大きく表示されていた。


『一五秒後に再スタートとなります』


 イヤホンから流れてくるように、声が聞こえた。


(自分は死んだのか)


 それをやっと理解したところで、次のアナウンスが流れてきた。


『三、二、一、スタート』


 目の前の光景が変わり、さっきとは全く違う場所で広い道の端に居た。

 至る所で止まる事なく銃声が響き続けている。

 安全確認のため、まずは周りを確認しようと思った矢先。


カツンッ、カラカラカラ


 足元で音がしたので、条件反射で目を向けると黒い物体が転がってきていた。――手榴弾だ。しかし気づいたときには遅かった。

 逃げるよりも早くに爆発し、体に衝撃を感じる。そして自分の体が吹き飛びすぐさま幽霊状態になり、操縦者いない操り人形が崩れていく様を他人事のように見る。


『Dead』


――そして無情にもまた声が聞こえた。


『一五秒後に再スタートとなります』


 落ち着く間もなく死のカウントが始まった。


『三、二、一、スタート』


 そこは初めとは違う場所だが、また入り組んだ狭い路地の中だった。


(こうなれば腹をくくるしかない)


 と思いながらも体は正直で、手と足は震えていた。

 それでも少しずつ足を動かし、移動する。後方から激しい音と共に、裸でゴム鉄砲を浴びたような痛みを背中に何発も感じた。


(後ろだっ!)


 振り返り、銃で狙いをつけようとする前に頭を撃たれ、また倒れていく自分が見えた。


『Dead』


――頭の中では逃げる方法を、戦線から離脱する方法を必死で考えていた。


『一五秒後に再スタートとなります』


 焦りは和手から冷静な判断を奪っていた。時は過ぎていく。


『三、二、一、スタート』


 復帰したと同時に目に入ったのは小さな男の背中。距離にして15メートルぐらいだろうか。

 とても良い位置で再スタートとなったようだ。

 銃を構え、しっかり狙いを定めで撃った。弾が飛んでいく様子はスローモーションに見えた。

 一発目は小さな男の背中に収まる。しかし小さな男は一発目の音ですぐさま横に飛び、二発はかすっただけだった、そして残りは当たらなかった。

 そして横にずれた男へ狙い直す前に男はこちらに猛ダッシュで接近してきていた。

 焦ってうまくいかない。その一瞬が命取りになった。男の手に持ったナイフで喉を一突きされ、痛みが走った「痛っ!」声が条件反射で出したと思ったが、しかし声は出なかった。すでに自分が倒れていっており、自分は幽霊となっていた。


『一五秒後に再スタートとなります』


『三、二、一、スタート』


 次は長い通路の端に居た。まずはすばやく周りを確認し、誰も居ないことをしっかり確認した。

 そして通路を慎重に進んでいると、反対側から誰か来るのが見えた。手前にあった看板に身を隠し、心を落ち着けてから、一気に立ち上がり撃ち放った。

 途中、相手からの反撃が来て、自分の体に何発か当たったのを感じるが構わず撃ち続けた。

 弾切れなったところで、素早く看板を背に身を隠し、弾倉を入れ替える――説明書は読んでいたが、実際にやるのでは勝手が違った。

 もたつきながら弾倉の排出が終わり、新しく弾倉を入れようと思うが、手元に弾倉がない。

 どこかにもあったはずだと、体中を触ってると右足のももの外側にあった。マガジンを必死の思いでポケットから出し、装填する。

 看板から背を離し、振り返る――相手はすでに看板の前に立っていた――時間がかかりすぎた。こちらに銃口を向けている。こちらの様子をずっと見ていたようだ。 

 あたふたと弾倉を変える様子を見られていた。――感情が出るよりも先に目の前の銃口が火を噴いた。

 額に衝撃を受け、後ろにゆっくり体が倒れていった。


『Dead』

 

 相手の表情は見えない――というより、顔が見えない。髪形も分からない。ゴーグル、マスク、バンダナが戦場では強制着用させられている。戦場に置いては、相手の顔は一切分からない。しいて分かるなら身長と体系だけである。


『一五秒後に再スタートとなります』


『時間です! 帰還します』


 と大きな声が聞こえたと思うと、世界は草原に変わった。


『お疲れ様でした。規定の時間になりましたので帰還いたしました』


『3分後にまた戦場に戻ります』


 何が起きたか良く分からなく。へたり込んでいると、ウィンドウが開いた。今回の戦場での成績が出ている。


――『Wate』KILL 0 / Deth 5


 記録は何十人中、下から二番目。

 戦争が終わって安堵のため息を大きくし、体中から力が抜けた。

 しかし、さっきの言葉『3分後にまた戦場に戻ります』を思い出し、逃げるようにゲートから出た。



 現在の戦場はほとんどが戦争初めての者ばかりである。そんな戦場で人間は二種類に分かれていた。

――\"狩る側"と"狩られる側"である。

 人間、焦ってパニックになっている人間を見れば意外と落ち着くものである。――大人数で居る場合は例外だが。

 この戦場という殺し合いの状況ではそれは顕著に現れていた。相手が焦ってくれていればくれているだけ、その分だけ、それ以上に冷静に動けるのだ。

 そんな中、もちろん先程の和手は"狩られる側"であった。



 殺風景な部屋の安っぽいソファーにもたれかかった。


(何て無様な結果……あの場に居た連中達も初心者のはずなのに……ははは……)


 戦場での自分の行動を全て思い返すと、自然と目から涙が出てきた。


「くそっくそっくそっ!!!!!! 悔しい!!!!!!! 何て無様なんだ!! 何で足が震えた!! あああああああああああああああああああ!!!!!」


――数分間自分を罵倒しては叫び、罵倒しては叫びを繰り返した。



「――甘かった、自分が甘かった……何故こうなったんだ? 笑いながら楽しくゲームをするはずだったのに。そうだ、その笑いながら楽しくゲームをするにはどうしたらいい? 考えろ、考えて考えるんだ!」


 和手は頭を抱え、ただひたすら考えた。


「……今までは何でも楽しく出来てきていた、シューティングゲームのハイスコアだって楽しく遊んで居たらいつの間にかすぐに取れた。勉強だって朱利やカケルやシュウと一緒にやれば楽しく、高校も同じ所に受かった。しかし、今回は駄目だった。どうしたらいいんだ…………」


 どのくらい時間経ったか、行き成り和手はッパと顔を上げ、立ち上がった。


「そうか!! 楽しくやるためには、ただ単純に、楽しくやればいいんだ!! それだけのことだ!! よくわからないけど、本能がそう告げる! とにかく楽しくやろう。そのためにも笑いながら出来る程強くなればいいんだ。まずは楽しく訓練をしよう。訓練を楽しみきったら、そこでやっと戦場に来よう。そして戦場を楽しもう。うん、これでいこう!」


 さっきまで絶望を抱えていたオーラとは打って変わって、希望に満ちたオーラをまとい、笑顔の和手はゲートを潜った。


「よーし!! 楽しむぞー!! まってろ、訓練!!」


 こうして和手は、"楽しくやるために、楽しくやる"という独自の信念の元、動き出した。



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