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Crossover ~君ヲ想フ~  作者: つづれ しういち
第六章 そして
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◇4◇かの王と



 夏季休暇はあっというまに終わった。

 そして、九月がやってきた。

 九月と言えば、俺たちにとっては初めての大学の前期試験が行なわれる月だ。

 洋介は洋介で、運動会なんかもあって何かとせわしい季節でもある。


 ともかくも、その九月の一日、つまり朔日さくじつ、俺と佐竹はその夜に、二人で出かけることになった。

 誘いは佐竹の方から掛かった。

 いつもなら、夜に俺の部屋で行なうあの通信を、今夜は珍しく外で受けないかというのがその内容だった。


 通信。

 それはつまり、あの世界の王たちが、俺たちに事後処理その他のために例の《鎧》を使ってしてくれる、時空を越えたテレビ電話による連絡みたいなもんだ。

 ただし、姿が見えるのは向こう側からだけのことで、俺たちから向こうの王たちの姿が見えることはほとんどない。あちらから姿を現してくれたことも何度かはあるんだけど、それは例の、俺の自動車事故に関わってくれたときだけのことだった。

 彼らはその《鎧》の機能を使って、自在にこちらにそのチャンネルをつなすべを持っている。どうしてこういうことになったのかと言えば、本来、あちらの王のものだったこの体に何か不具合でも起きた場合のための、つまりはアフターケアとしての意味が強いんだろうと思う。


 今の俺の体は、もともとはあちらの王の一人、ナイトさんのものだった。当時二十四歳になってしまっていた俺の体は、今ではそのナイトさんのものになっている。俺の耳のところにある手術痕は、もとの体とほんの少しだけ違っていたその部分を「修正」したあとなんだ。

 今では、単に距離があるっていうだけでなく、あちらの世界は俺たちよりもかなり未来なんだということが分かっている。佐竹によれば、タイム・パラドックスに引っかかるようなことはなるべく避けなくてはならないので、向こうもかなり慎重にこちらに関わっているということだった。



 ともかくも。

 俺は約束していた九時ごろに、外出する用意をしてうちの玄関先で待っていた。

 いつもなら駅で待ち合わせが多いんだけど、とにかく今回はあいつから「そこで待っていろ」っていうお達しだったからだ。


「……え!?」


 てっきり、佐竹は歩いて来るもんだと思い込んでいた俺は、家の前に現れた見覚えのある車を見て度肝を抜かれた。それは、佐竹のお母さんである馨子さんが、いつも帰国したときに使っているあのシルバーグレーのセダンだった。


 そう。

 いつもなら、その運転席にいるのは馨子さんだった。

 だけど、今そこにいるのは佐竹だったんだ。


「乗れ」


 助手席のドアを開いて、いつもとまったく変わらない表情で佐竹が言う。相変わらずの大人っぽい出で立ち。そんな様子で車なんか運転してたら、本当にもう、三十手前ぐらいだって言われても信じる人の方が多そうだ。

 対する俺はというと、今夜は蛍光グリーンのパーカー。実はこれも、やっぱり馨子さんからのいただき物だ。って言っても、まあ正確には馨子さんから、佐竹本人に押し付けられた物なんだけど。

「ほらっ。祐哉きゅんとのおそろよん。嬉しいでしょ、嬉しいでしょ? ね? あきちゃん!」

 って、あのねえ、馨子さん……。

 そしてそれは至極当然のように、ほとんど「右から左」状態で俺のところにスライドされてきたっていう訳だ。いや、「もう少しでダストボックス行きだったのを、俺がなんとか救出した」っていうのがより正確。

 ほんっともう、無茶だから! 馨子さん!

 ピンクでさえなきゃ佐竹が着るだろうと考える、その思考回路をどうにかしてよ。


「……どうした。早くしろ」

「あっ、あ……うん――」

 怪訝な顔で促されて、俺は慌てて掛けていたワンショルダーバッグを前に回し、言われるまま彼の隣に滑り込んだ。すぐにシートベルトを締める。


「さ、佐竹……あの。車の免許、取ったの……?」

「ああ。少し、時間が掛かってしまったがな」

「って何、しれっと言ってんだよ――」


 衝撃だった。

 大体、何が「時間が掛かった」だ。春先から教習所に通ってたとしたって、十分早いだろ。剣道とかバイトとか、めちゃくちゃ予定が詰まってるはずの佐竹が、そんな中で免許まで取ってるとは思わなかった。

 なんか、高校のころから付き合いのある奴がいきなり車に乗って現れたらびっくりするじゃないか。そうだろう?

 ああ、俺、なんかほんとにどんどん置いてかれてるみたいな気分だ。


 ちょっと凹んで自分の膝の辺りに視線を落とした俺には気づかない風で、佐竹はごく慣れた様子で静かに車を出したのだった。




◇◇◇




 佐竹はそのまま、受験前に二人で歩いたことのある、あの海岸へと俺を連れて行った。

 真冬だったその頃はとても寒かったその場所は、夏の大騒ぎの余韻を残したように、半分だけの姿で光っている月の下でまだぬるさの残る風に吹かれていた。

 そういえば、今月はお月見だ。あの月がまんまるになった日には、また洋介にお団子を作ってやらなきゃな。


 海辺には、ほかに人の姿はなかった。

 俺たちは、前みたいにぶらぶらと、海岸沿いの車道から離れた場所をずうっと歩いた。


 かの王から連絡が入るのは、いつも夜の十時と決まっている。

 このところ、多忙にしていてそんな時間に帰宅するのが難しかった佐竹は、基本的にその定期連絡を俺に任せることが多くなっている。要は俺の体調に問題さえなければ、多くを話し合う必要はないってことなのかもしれない。

 最近では、あちらへの技術協力なんかも落ち着いてきて、向こうでは佐竹が提供した蒸気機関だとかなんとかの開発にも着手しているんだそうだ。


 と、いきなり頭の中で聞き覚えのある声がした。


《……ほう。今回は随分と、開けた場所にいるらしいな》


「陛下……!」


 俺はぱっと、目を上げた。



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