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絶望楽園タソガレ島~俺は星、君は月~(4)

 スカートめくりをするのは、どうやら夜中に現れるやつらしい。それもまたお化けらしい。当人でなんとかしようとはしたみたいだが、お化けのスカートめくる物好きはなかなか捕まらないらしい。と、いうか、お化けのスカートめくるなら犯人もお化けなんじゃね? と思うし、そうなると、俺らはお化けを捕まえることになるのか? ともなると、わざわざお化けに会いに行くということだ。これ、幽霊部員でなんとかならんのか?


 辺りがすっかり暗くなって、俺らは校舎に集まった。天体観測という名目で。校舎には文字通り浸入ということになるのだが。だが、俺が不満なのは、明日も学校あるのに夜中に呼び出されて貴重な睡眠時間を削ることでも、行動を共にするのがもう既に上の世界にいっちゃってるメンバーであることでもない。問題はーー。


「なんで女装なんだよ!」


なぜ今着ている衣服が女子の制服であらねばならないのか。今まで生きてきて初めて女装したし、なんか今この瞬間何かを失っているような気がしてならない。スカートなんて履いたことないから、足元スースーして気持ち悪いし、恥ずかしいし。似合ってないからまた割り増しで恥ずかしい。


「なんか祐、似合ってないね」


と、いう俺の目の前には、あまりにも可愛らしいヤサが立っている。


「ヤサ、似合ってるな」


元々が小柄で肌も白く、両性的な顔つきだから、尚更だろう。パッと見ただけでは男女の区別がつかない。見事な着こなし具合いだった。


「おいらはどうっすか?」


そう言われて振り返った俺の前にいたのは、お堅い委員長を思わせるおさげでスカートの長い女子生徒。ただ、普通の女子生徒と違うのは、頭に銀の角がついているというところだ。


「何でお前は三つ編みおさげのウィッグまで装備しちゃってんだよ。何一人はしゃいじゃってんだよ! そっちか? そっち系の趣味か?」


「いや、せっかくなんでおさげ女子になりきってーーって、だめっすよ! そんなに乱暴したら取れちゃいやすよ!」


桜橋のウィッグを無理矢理とろうとするが、桜橋は必死でウィッグを押さえる。


「せっかくじゃねーよ! 何教育に悪いもの見せてくれちゃってんだよ!」


 こうなったのは、今日の放課後の会議が原因だ。女子幽霊部員ばかりを、狙う悪質な犯行を、現行犯逮捕するため、女性陣が男装、男性陣が女装することになったのだ。


 もちろん俺は反対したが、とにかく女子幽霊部員を守るためにと、俺の少数派意見は無視された。犯人も恐らくお化けだ。捕まえられないと言ってみると、桜橋は俺にゴムボールを渡してきた。その表面にはミミズがのたうち回ったような文字がびっしりと書かれていて、どうやらこのボールを当てることで動きを封じられるらしい。俺らがするのは、女装して全力でそのゴムボールをスカートめくりする犯人に投げつけて捕らえるか、無理なら男装したお化けガールズが、いる屋上まで誘導し、最後めったうちにするという野蛮なものだった。お化けのスカートをめくって何が楽しいのか、そもそも、めくったところで見えるものがあるのかと思う。


 俺にははっきり言って理解不能だ。軽く流されるように会議は進み、夜中に学校に行くことになり、もうどうしたらいいんだろう。





 俺、ヤサ、桜橋、倉池の4人は真っ暗な廊下を歩いていた。つも賑やかということもあり、静まり返った学校は不気味に感じる。廊下には赤い消火ホース入れについたランプが光っているだけ。真っ直ぐ伸びる真っ暗な廊下に所々光る赤いランプは、それだけで雰囲気をだしていた。


「なんか、不気味で、怖いね。今にもお化け出そうじゃない?」


と、俺の後ろにいるヤサ。


「え? 最初全然怖がってなかったのに? 俺はてっきり似た者同士だから恐くないのかと」


「失礼な! 僕をお化け扱いしないでよ。こんなこと言ってる時に、急にお化けがいきなり出てきたらどうするんだよ。僕心臓止まるかも」


待てよ。いるだろ目の前に。


「暗い毛君、ヤサには君がお化けには見えないらしいよ」


「倉池です」


もちろん倉池も女装している。現在俺らは1階廊下にいる。ここで誰かがスカートめくりに遭った瞬間作戦開始だ。


 俺達は大体等間隔に散らばってじっとその場に立つことにした。廊下の両端にヤサと桜橋。俺が真ん中に立って、倉池は女子トイレになった。もちろん倉池は女性陣の許可を得ている。まぁ、仮に夜中女子生徒に出会ったとしても、見えないだろうが。人間おかしなもので、ずっと一緒にいると、どうやら慣れが生じるらしい。あれだけびびっていた俺が、今では暗い毛いじりをしているわけだし、本当にすごい生き物だと心から思う。


 ふとヤサを見てみると、微動だにせず、声も発していないため僕は


「ヤサ、大丈夫?」


と、声を掛けてみると、暗い中でもヤサは笑っていた。


「大丈夫。暗いのは慣れてるよ。にしても、今日は月が綺麗だね。こんなに月が綺麗で、静かな夜は本当にいいよね」


さすが赤黒い空見続けてきただけあって、まるで意見が違う。この状況で月に見とれていたらしい。なんだか、自分の心が汚れているような気がして複雑な気持ちになる。


「祐は、どんな月が好き? 僕はね、三日月が好きなんだ」


ヤサは窓の方を見つめたまま静かに続ける。


「三日月はね、これから新月に向かっていくから、もっと光がなくなっちゃうけど、真っ暗な新月を過ぎたら次は本当に細長い光になって現れて、少しずつ光を増やしていくんだ。最後には満月になってとても明るくなる。それって、これから希望すら見えない闇にいくことになっても、必ず希望が現れる。それから、眩しいくらいの輝くような未来が訪れる。そう言ってるみたいじゃない? 新月を知らない人は満月の眩しさを知らないよ。新月、それも長い長い新月を知っている人だけが、三日月の明るさも、満月の眩しさも知ることができる。そう思うんだ。だから、僕はそんな闇と光のどっちももった三日月が好きなんだ」


自分がしてきたこと、苦しみも辛さも、無駄じゃなかった、そう自分の境遇と重ねているのだろう。あの頃があるから、今があるんだと。このなんでもない日々が素晴らしく思えるんだと。本当に、ヤサって凄いと思う。誰が、月にそこまで何かを感じるだろうか。この話を聞いて、何人が共感できるだろうか。


「祐はどの月が好き? 」


そう聞かれて、深く考えずに言った。


「俺は、月があるならなんでもいいかな」


ヤサは


「なにそれ」


って笑ったけど、俺はいたって大真面目だ。だって、それがどんなに弱ってしまっても、いてくれるだけで俺は道に迷わなくて済むから。迷いかけた俺を正しい道に導いてくれるから。

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