天人の住処
ヒュウウ、と冷たい風が吹き抜ける。
辺りは瓦礫の山だった。
かろうじて、それらに豪華な装飾がされていたことがわかる。
そして、瓦礫の合間に、色とりどりの豪奢な服を着て羽衣をまとった天人たちが倒れている。
そんな異様な景色の中に、少女が1人立っていた。
瓦礫の山に登り、辺りを見回している。
長い髪とぶかぶかのパーカーの裾が風になびいていた。
「お前は…お前は一体何者なんだ…!!」
苦しげに、倒れていた天人の1人が叫ぶ。
少女は天人の方を一瞥すると、無表情のままそこへ飛び降りた。
しゃがむと、天人の髪を鷲掴みにして無理やり上を向かせた。
「ぐっ…」
呻いた天人の顔を覗き込むと、淡々と告げる。
「お前らのボスが起きたら伝えろ。これ以上下界に手を出すな。これ以上下界に手を出し、罪を重ねたなら…どうなるかわかっているな?と。」
天人は消え入りそうな声で、はい、と返事をする。
少女はパッと髪を離した。
頭を思い切り打ちつけて小さく叫ぶ天人など気にもとめず、少女は立ち上がる。
「おい!さっさと出てこい!」
少女が虚空へ向かって叫ぶと、
「さっさと出てこいもなにも…ってなにしてたの!?」
瓦礫の山をかき分けて、1人の少年が顔を出した。
「なにをしてたもなにも、ただの警告だ。なにをしてたって言うならお前の方だろう。」
「君が瀕死にした天人の脈確かめてたんだよ!」
「別に殺しはしてない。手加減してる。」
「虫の息の人いっぱいたよ!?確かに死んではなかったけども!!」
ギャーギャー叫び合う2人は、瓦礫の山を背にして歩き始めた。
「この辺でいいだろ。」
少女は呟くと、ウエストポーチの中からなにやらペンのような機械を取り出した。
ポチ、とボタンを押しながら空中に大きく円を描く。
すると、小さなノイズのような音と共に、円を描いた場所に虹色の膜が現れた。
「ほら、行くぞ。」
「はいはい…あーあ、また報告書書くの俺なんだろうな…」
少年のぼやきを残して、2人の姿は膜の中へ消えた。