第60節-その行動に後悔なく-
その数分後……
来た道を戻ればいいだけなのだが、知らない町を駆け抜けたのだから
牡丹達がいた元の場所まで戻るのは難しい
しかし、その路地を曲がり少し歩いた所だったと楓は記憶しているが
夏戦は前の路地を曲がり、さらに曲がり……結果迷子になっていた
「夏戦……さん?」
「……わかっている、すまない」
「もしかして……方向音痴?」
「……まぁな」
夏戦は恥ずかしそうに両腕を組み、耳を真っ赤にしている
楓の予測だが、楓の前で良いところを見せたかったのか
それとも保護者として先導してくれたのか
どちらにしろ、楓を守ろうとしてくれた意志は伝わってくる
「夏戦さん、一緒に牡丹さん達を探しましょ」
「あ、ああ」
「大丈夫です、きっと見つかりますよ」
楓は笑顔で右手で戦浪季を抱え、左手で夏戦の手を取る
すると、夏戦は驚いた表情で楓に言う
「お、おい……俺は他の奴らに見えないんだぞ」
「え? 知ってますよ?」
しかし、楓は『何をいまさら?』と言った表情で
夏戦の顔を見ると歩き出す、その手を離す事なく夏戦も付いていく
『……こいつ』
夏戦の予想通り、傍から見た楓は刀を抱え、空いている手で何かを握っている
その行動をしっかりと見た者からすると明らかに可笑しな光景
だが、そんな事を気にせず楓は町の中を歩いている
「……おい、手を離してもいいぞ?」
「だめです、また迷子になっちゃいますから」
「……お前の後に付いていくから大丈夫だ」
「そうですか? じゃあしっかり付いてきてくださいね」
「ああ、そうする」
『これで……こいつの行動は可笑しく見られないだろ』
そう夏戦は思いながら楓の後ろを両腕を組み
歩いていると、突然、楓が後ろを振り向き笑顔で言う
「心配してくれてありがとうございます」
「……なんの事だ?」
「私が他の人に変な眼で見られないか心配してくれたんですよね?」
「……さぁな」
夏戦は楓の笑顔に眼を背ける
自分と話をしているのさえ、他の人から見たら独り言なのだから
普通ならば無視して歩いてくれればいいだけ
なのに……目の前の楓は当り前のように俺に話かける
「まったく……どいつもこいつも……」
「え? 何か言いました?」
「いいや、何も言ってない」
夏戦の言葉に楓はきょとんとした表情で無言で見ている
その視線に気になり、夏戦は楓に話かける
「どうした?」
「え、いえ……夏戦さんの笑顔初めて見たなぁって」
「……笑顔?」
「はい、今微笑んでましたよ」
「……気のせいだろ」
「ふふ、そうかもですね」
楓はそう言うと前を向き、歩き出す
その背中を見ながら夏戦は軽く息をはく
『……笑顔か、駿斗の前でも見せなかったというのに
こいつ……楓の前でそんな顔をしたのか……』
「楓」
「はい?」
「俺の名前にさんはいらない、呼び捨てで構わない」
「え、でも……」
「いいさ、俺も呼び捨てだ、気にするな」
「あ、はい、わかりました、か……夏戦」
「ああ、それでいい」
ただ呼び捨てにされただけで嬉しく思う
その感情は駿斗の時は起きなかった感情
だが、楓を好きと言う感情でもなく、まるで妹ができたような感覚
「……それも悪くない」
「え?」
「なんでもない、牡丹達を探すぞ、楓」
その顔は笑顔で楓に話かけていた
先程は気づいていない様子だったが、今の笑顔は自分でわかっているような笑顔
それに気づいたのか、楓は無言でその言葉に頷き笑顔を見せる
そしてしばらくして探しに走り回り息を切らしていた牡丹と遭遇する
すると牡丹は笑顔で楓を抱きしめ、夏戦を睨む
「よかったぁ……楓ちゃん無事で……こいつに何もされなかった?」
「あ、はい……夏戦は私のこれを盗んだ人を一緒に追いかけてくれたんです」
楓は牡丹に抱き付かれながらも空いている手で胸元をあさり紙を牡丹に見せる
「え?! 盗まれたの?!」
「気づかなかったのか? 楓の護衛なのに」
「わ、悪かったわね」
「夏戦、牡丹さんを怒らないでください、盗まれた私がいけないんですから」
「そうか? 護衛なのに気づかない方が悪いだろ」
「そんな事はないですよ」
「……そうだな、楓がそう言うならそう言う事にしておくよ」
そう言うと夏戦は楓の頭に軽く手を置く
その光景をきょとん、とした顔で見た牡丹は楓達に話かける
「ね、ねぇ……いつからそんなに仲良く?」
「え?」
「……お前には関係ない」
楓はきょとんした顔で牡丹に聴き返し
夏戦は牡丹から眼を反らしながら答える
「……何かあったわね?」
「何もない、さっさと駿斗達と合流するぞ」
「あ、それなんだけど……」
「なんだ?」
「私……迷っちゃった」
牡丹のその言葉に片手をこめかみに当て悩む夏戦
しかし、楓は笑顔で牡丹と夏戦に言う
「きっと見つかりますよ、さぁ……いきましょ」
「そうだね、楓ちゃんの言う通り」
「そうだな、探すとしよう、楓……前は頼んだぞ」
「はいっ」
楓は戦浪季を抱きかかえながら笑顔で夏戦の前を歩く
その後ろを守るように夏戦はゆっくりと歩く
その光景を楓の横で見ながら牡丹は楓に耳打ちをする
「ねぇ、あいつと何かあった?」
「え? 何もないですよ?」
「……そうなの?」
「はい」
楓の笑顔に牡丹は毒気が抜かれたのか『そうなんだ』と頷いてしまい
駿斗達を探すために楓の横に付き、歩いていく




