第58節-夏戦の憂鬱-
「で、どこに向かうんだ?」
夏戦の言葉にお互いの顔を見合わせている面々に呆れ顔をし溜息を付く
その時、楓がモジモジしながら夏戦に話かける
「あ、あの……」
「どうした?」
「町を探したいんです」
「町? 何かようでもあるのか?」
夏戦は普段とかわらない口調で楓に話かけているが
楓は少しずつ後ろに下がってしまう
それに見かねた駿斗が楓の前にでて苦笑をしながら言う
「な、なぁ……夏戦」
「ん?」
「怒ってるのか?」
「いや?」
「怒ってるように見えるぞ」
「……そうか?」
元々愛想が良くない夏戦、駿斗はそれを気にしないが
駿斗以外に見えている現状では、夏戦のそう態度がより目立ってしまう
だからこそ、夏戦と話をした楓も苦笑を浮かべている
「まぁ、慣れろとは言わないけど少しは……」
「……駿斗、ならお前が決めろ」
「……わかった、皆と決める」
駿斗は夏戦にそう言うと楓達の元へ行き話を始める
その中に混ざる事なく、1人腕を組み遠くを見ている夏戦に春菊が話かける
「……機嫌悪いの?」
「さぁな」
「楓が嫌いとか?」
「女が苦手なだけだ」
「そうだったの?」
「まぁな」
夏戦は春菊の顔を見ず話す
旅をしている連中に男は駿斗と夏戦のみ
それ以外は女と言う珍しい光景
しかも、女性が苦手な夏戦に取ってそれはさらに窮屈になる
「……無理はしないことね」
「わかっている」
「そ、まぁ……気が向いたら混ざりなさい」
そう言うと春菊はゆっくりと話をしている連中に混ざる
それを横目で見送りながら夏戦はある事を思い出す
『……楓は昔の知り合いに似てる気がする
俺が生きていた時の記憶……それとも刀の記憶なのか?』
「おい、夏戦、そろそろ出発するぞ?」
「ん? ああ、了解した」
駿斗の呼びかけに夏戦は駿斗の後ろを歩く
そしてしばらく歩いた所に町があるが
そこの入口には警備をしているか槍を構えた黒服の男2人が立っており
入ろうとする者を止めている
「何かあったのか?」
「知らないけど、なんか物騒ね」
駿斗が牡丹と話ながら入口に近づくと男2人がこちらを睨み言う
「ここは現在通行止めだ」
「町の入口なのに?」
「そうだ、反対側に回っても無駄だぞ」
「どうしたら入れてくれるの?」
「入れるわけないだろ」
牡丹の質問に睨み、口悪く説明している後ろで雪花は楓に話かける
「何あれ……入れさせないんだから説明ぐらいしてもいいよね?」
「そうだね……どうやったら入れてくれるんだろ」
牡丹の横に他の人が来ても同じように対応している中
似たような服の人達は何かを見せて中に入って行く
それを見た楓は戦理に貰ったある物を思い出し、胸元から出す
「もしかしてこれ?」
「何それ?」
「戦理さんから貰ったの」
「そうなんだ、もしかしてがあるかもだし、見せてみたら?」
「うん」
雪花に言われた通り、楓は牡丹と話をしてない方の男の1人に話かける
「あ、あの……」
「なんだ?」
「これで中に入らせてもらえますか?」
「ん? ……! こ、これは……どうぞお通りください」
「え、えっと……向かうの人達も私と旅をしてる仲間なんですけど」
「そうなのですか?! それは失礼しました」
急に態度を変えた男は反対側で牡丹と言い合いを続けていたが
耳元で何かを話すと慌てて楓に近づき一礼し言う
「申し訳ありません、こちらの不手際で……お通りください」
「あ、ありがとうございます」
それに驚きながら楓も慌てて一礼すると
楓を先頭に中に入って行く、それを見送りながら男達は話始める
「まさか天皇様直々の人達とは……」
「お忍びか何かか?」
「それにしても……服に統一感がないな」
「それも何か理由があるんだろ? 俺達下っ端が知るよしはないな」
「それもそうだな」
そしてしばらく町の中を見ていた最中
牡丹が笑顔で楓に話かける
「楓ちゃん、凄いね! 一体何を見せたの?」
「えっと……これです」
「ん?」
楓が紙を受け取った牡丹はそれを見て驚き慌てだす
「楓ちゃんがどうしてこんな物を?!」
「え? 戦理さんから貰いました」
その言葉に口を開き唖然としている牡丹に気づいた
駿斗は楓達に近づき話かける
「どうしたんだ?」
「これ」
「ん? なんだ? この紙は……」
牡丹に渡された紙を見始めた駿斗は
しばらくして牡丹と同じように驚き楓を両手で掴む
「これをどこで?!」
「っ……戦理さんに貰いました」
「こんな大切な物を……あいつ一体何を考えて」
「は、駿斗さん……痛いです」
「……ごめん」
楓の痛そうな顔を見て慌てて手を離すと真面目な顔で楓に言う
「これは、この国で一番偉い『天皇』直々に手紙
これを持つ者は如何なる場所への通行、武力を許す
そう書いてあるんだ」
「え……?」
「ようはその天皇から直接許可を貰っていろいろ自由に動いていいよってこと」
駿斗の質問に首を傾げていると隣にいた牡丹がわかりやすく説明する
それにしばらくきょとんとした顔の楓だったが……少しして驚く
「え?! そんな物をどうして私に!?」
「……あいつ絶対、楓ちゃんに良い顔見せようとしてこれ挙げたわね」
「ああ……しかし、あいつもここまで馬鹿だったとは……」
「うん、流石にこれをあげるってことは
楓ちゃんを信頼してるって事なんだけど私達もいるのよね……」
「俺達は眼中にないってことなんじゃ……」
駿斗と牡丹が楓の目の前でヒソヒソと会話されている中
その紙は駿斗の腰に引っ掛けられている
それを通りすがりの一人がばれないようにように取るのを気づいた夏戦は叫ぶ
「ちっ……追いかけるぞ!」
「は、はい」
それに逸早く気づいた楓だが、他の人物はそれに気づかない
それに舌打ちしながら楓の懐の花月を駿斗の顔に叩きつけ
駿斗の腰の戦浪季を楓に投げ渡す
「え? え?」
「追うぞ! 見失ったらおしまいだ!」
「は、はい!」
夏戦と楓は町の路地裏を走り抜ける
しかし、駿斗は顔に花月を叩きつけられたまま、きょとんとしている
牡丹も何があったのか気づかず……『どうしたの?』と言っているが
前を歩いていた春菊と雪花はそれに気づいていない




