第57節-旅の再開始-
そんなやり取りをしながら楓達が布団で横になった後
牡丹はこっそりと起き上り、一人縁側に向かい座ると外を眺めながら溜息を付く
「……ふぅ」
「何溜息ついてるのよ」
「はぇ?!」
「何その驚き方」
「あんたのせいでしょ……雪花」
牡丹は嫌な顔をしながら後ろを振り向くとそこには雪花が立っていた
しかも、真面目な顔で見下ろすその顔はまるで幽霊のように見える
「……何の用?」
「眠れないのよ」
「楓ちゃんの横で寝れば?」
「それでも眠れない時はあるのよ……」
「そっ、……一つ聴きたいんだけど」
「何?」
牡丹の言葉に雪花は牡丹の隣に座ると顔を見る
すると牡丹は真面目な顔で雪花に言う
「雪花と楓ちゃんはどこから来たの?」
「どこからって東方から旅をしてたのよ」
「あんな村に?」
「そっ、楓は自然が好きだからね」
「ふーん……でもさ、楓ちゃんのあの服はこの辺で見た事ないんだけど」
「……そうなの? 私もこの辺に詳しくないけど、東方じゃ有名よ」
「本当に『東方』って場所はあるの?」
「ええ、あるわよ」
その時の雪花の顔は至って真面目で茶化してるような様子はない
それを確認した牡丹は外を見ながら次の質問をする
「……雪花は何者?」
「私? 私は花月に憑りついた霊よ」
「でも……春夏秋冬には含まれてない」
「ええ、そうね」
「それならどうして……4本を探してるの?」
「さぁ?」
「……は?」
「とりあえず、探せば私の記憶が戻るかなって」
「……そんな理由で楓ちゃんを巻き込んだの?」
「……ええ」
その時、牡丹は雪花を怒鳴ろうとした
楓を自分の目的のために巻き込み、いろいろとやらせた雪花に
しかし、その言葉に返事をした雪花の顔は今にも泣きだしそうな顔をしている
それを見ると……雪花の気持ちを聴かなくても牡丹にも理解できてしまう
「……まぁ、そういう事もあるわね」
「ないと思うよ?」
「あるわよ……さぁて……話疲れちゃったから私は寝るわね」
そう言うと牡丹は立ち上がり布団の中に戻る
それを微笑みながら見た後、小さな声で雪花は『ありがと』と言う
そして布団に向かう途中、鞘に入った花月が目に入る
『……本当のこの刀は花月って名前だったけ
あれ……でも急になんでそう思ったんだろ……』
雪花は首を傾げながら楓の横に入り、横になる
そして、朝になり全員が起きるとタイミング良く、女将が朝ご飯を持ってくる
「おはようございます、出発前の朝ご飯をどうぞ
そ・れ・と……布団畳ませてもらいますね」
女将は笑顔で布団から牡丹を退かすと布団を畳み
テーブルを用意すると、その上に料理を置く
「さぁ、どうぞ……食べ終わったらそのままで結構ですので」
そういうと女将はそそくさとその場を後にする
そして、牡丹が料理に口にすると……
「ね、ねぇ……楓ちゃん」
「どうしました?」
「これ……味薄くない?」
「え?……あ、本当ですね」
しかし、楓は驚かない
この薄い味に覚えがあるから……
それは戦理の所で一緒に料理を食べた時の味
「楓ちゃんは大丈夫なの?」
「あっ、はい……薄くても大丈夫ですよ?」
「そうなんだ……私は濃い方が好きかな……」
「じゃあ私が貰ってあげる」
「そうね、貰いましょ」
「え?! あ……」
牡丹が油断した隙に雪花と春菊は料理を手づかみする
その勢いは速く、牡丹が驚いている間にそのほとんどは空になった
「なんてこと……」
「私の分あげますから……」
「ありがとう、楓ちゃん」
楓は空いたお皿に料理を乗せ、牡丹に渡そうとした直後
それを雪花が笑顔で受け取り、全部食べ空になった皿を楓に返す
「ありがとっ、楓」
結果的に牡丹が朝食べた物は薄い味噌汁と白いご飯のみ
それ以外は雪花と春菊が食べ尽した
「……酷くない?」
「あはは……」
楓はその光景にただただ苦笑を浮かべるしかなかった
そして食べ終わり、旅の準備を整え……旅館の入口に向かうと
夏戦と駿斗が笑顔で迎えてくる
「俺も今来たところだから、丁度よかった」
「そうなんですか?」
「ああ」
しかし、壁に寄りかかっていた夏戦に春菊が小さな声で話かける
「本当なの?」
「ん? いや……けっこうな時間過ぎてるな
駿斗曰く、女性の準備は長いから待てと言われたな」
「へぇ」
春菊が少しだけ感心し、駿斗の方を見ると
駿斗は来た戦理と何やらにらみ合っている
それを微笑みながら見ている牡丹と止めようと慌てている楓
まるで興味がないような雪花が見える
「……あれも?」
「知らん……俺を巻き込むな」
「はぁ……この先大丈夫かしら?」
「さぁな、なるようになるだろ」
その玄関でも会話が終わるまで2時間ほどあり
その間、春菊と夏戦は無言でイラつきながら壁に寄りかかっていた




