第52節-高速の剣技-
それを追撃するため楓は刀を構え臨戦態勢入る
しかし……それを予測して菊花は左に軽く飛ぶ
それに楓の目線が動いた直後
飛んだ勢いを利用して右側に飛び、楓めがけて斬りかかる
その一撃を間一髪避ける事に成功した楓だがほっぺにかすり傷を負う
そして……楓の後ろ側に斬りぬけた菊花はまた勢いを付け
楓の背後から斬りかかる……その速度はまるで風のように速い
だが、それに合わせ楓は右方向に振り向く
「遅いっ」
菊花の言葉と共に苦無が構えられ
楓に斬りかかろうとした直後……菊花の前にだした苦無が弾き飛ばされる
「……なっ」
楓が右に振り向いた時、刀は右にある
しかも、右手で抜くとするのならその刀は左方向に向いている
それなら……菊花に苦無が弾けるのは可笑しな光景
『何をしたの……?!』
目の前で起こったそれが納得できずにいる菊花を余所に
戦理は驚きながらも、その光景に納得していた
『なるほど……居合は利き手に依存する
それならば、右腰にある刀を左腰で構えれば……だが、あの一瞬で……』
右手で持ち、左手で抜刀する
それは普段の楓の居合
だが、左手で持ち、右手で抜刀する
言葉だけなら容易い事でも、それをやるのは至難の業に等しい
しかも、菊花がそれに驚き後ろに飛び退き
楓を見ると……楓の右手に刀の鞘、そして刀が収まっている
『……極限まで研ぎ澄まされたその集中力
それこそが、先生の力……いや、才能なのか?』
戦理の考えを余所に今度は楓が攻撃に入る
菊花の飛び退いた位置に刀を構えたまま走り込む
しかし、その構えは隙だらけ、菊花はそれを鼻で少し笑うと構える
『……さっきのは驚いただけ、攻撃はお子様……ね』
だが、菊花の横を通り過ぎただけの楓
菊花はそんな楓に横眼で見ながら笑う
その時、菊花の服が少しずつ切れていく
本人に傷はなく……服だけなのだが、その刃は明らかに菊花を捉えている
「……え」
「もう一度っ!」
楓は振り向き直し、また同じ構えで菊花に突撃すると
菊花はそんな楓に驚いたまま、苦無を両手で前に構える
しかし、また楓は何事もなく、菊花の反対側に通り抜ける
『防いだ……?』
菊花がそう思った直後
先程切れた服の部分から軽い斬り傷ができ血がでる
その数は楓は最初に菊花の服を斬った部分と同じ
「……斬り抜け?」
戦理は声をあげる
その声はただ、楓は菊花を交互に通り抜けるだけで何事もない
普通に考えれば楓が菊花に怯え、攻撃できずに通りすぎただけに見える
もちろん、2人の戦いを目を前で見ていた戦理さえ、楓の行動がわからない
「……はい、たしかに斬り抜けです」
楓は戦理の独り言のような言葉に言う
だが、『斬り抜け』と言うだけなら、その切った数は1つ
楓が一度に通りすぎ菊花を切った回数は2つある
「……ま、まさか」
戦理は気づいた先程の戦いで楓が放った『隼』と言う技
それを走りながら行っていたら……
しかも、それを通り抜けながら2度放っている
「……理由はわかるが」
理由だけなら納得はできる
だが、その光景を見た2人は納得できず
可笑しな光景を見たようなそんな顔をしている
もちろん、この2人が『居合』と言う剣技を知っていないからこそ……
その光景が可笑しいと思ってしまう
「……まだよっ、これならどう?!」
菊花は楓にめがけ、持っている苦無1つ投げる
だが、その苦無は空しく……楓の居合によって弾かれる
その直後、菊花はその場に座り込り、両手をあげる
使える武器、全てを弾かれ素手では無理と悟った
菊花は負けを認め楓に話かける
「ねぇ……1つ教えてくれないかしら?」
「なんですか?」
「最後の剣技……あれは?」
「あれは……」
楓の言葉に戦理と菊花、2人が唾をのみ込み楓の言葉を待つ
しかし楓は首を傾げ舌を軽く出すと笑顔で言う
「すみません、まだ未完成なので秘密です」
『み……未完成?!』
2人同時に楓に向け叫び、お互いの顔を見る
だが、そんな2人に驚く事なく楓は話を続ける
「そうなんです、まだ未完成で完成にはまだ足りないんです
慈心流の四つ目の剣技には……まだ届かない」
「そ、それなら……最初に言ってた隼? って技の追撃は……」
「追のことですか? あれは『初めて』やりました」
「は、初めて……?」
「はい、隼からの追撃なので追って……」
「あははは」
突然座り込んだ菊花が涙を少し流しながら笑う
その顔は微笑んでいる
それを見ながら戦理は笑顔で楓に話かける
「……本当に初めてやったのか?」
「はい、できるかな? って思ってやってみました」
「……なるほど」
『できるかなってものじゃないな、実戦で初めてやった技
それなのに相手をしっかりと捉えている
あの技は……『元々存在している』、ただそれを楓が知らなかっただけ』
戦理は心の中でそう思いながら楓の話を聴いた後
座りこんで笑っている菊花に手を伸ばす




