第50節-揺れる三角-
「っと……ちょっと先に行っててくれないか?」
「どうしました? 忘れ物ですか?」
「まぁ、そんなところだ」
「わかりました、先に行ってますね」
戦理は忘れ物をしたと言い
楓と別れると旅館の厨房へと足を伸ばす
そして厨房の中に入ると1人の女性が立っている
その女性に戦理は話かける
「ちょっといいか?」
「え? あっ……戦理様、どうしました?」
女性は朝ご飯の後片付けをしているのかお椀などを洗っている手を止め
戦理に向き直ると笑顔で質問すると戦理は睨むように言う
「朝ご飯、味噌汁に何か入れたか?」
「い、いえ……何もいれてませんよ? いつも通りです」
「かえ……1人の客人の味噌汁が薄すぎたと文句を言われてな」
「文句ですか……戦理様のご厚意で御泊めになったというのに……」
女性は戦理の言葉に苦笑った後、微笑み直し洗い物を始める
そんな女性の背中に戦理は話かける
「まぁ、これは憶測だが……俺の客人に『嫌がらせ』をするようなら
俺は容赦しない……それをわかってて繰り返すなのなら……わかっているな?」
「いやですねぇ……私達がそんな事するわけないじゃないですか」
「そうか、ならいい……邪魔したな」
戦理はそれだけ言うと厨房を後にし、楓が待つ中庭へと向かう
その足元が聴こえなくなった後、厨房の女性は地面に腰を付ける
『こ……怖かった……筆頭の命令だからわざとあの子の食べ物を
全て『薄味』にしたけど……まさか気づかれてるなのて』
そして楓が1人に中庭に付いた時、自分の部屋に向かっている
牡丹と春菊を見つけ、小走りで近寄ると笑顔で話かける
「あれ? 牡丹さん、どうしたんですか?」
「楓ちゃんこそ、どうしてこんな所に?」
「私はここで戦理さんと特訓をしてるんです」
「なるほど……ところで朝ご飯はもう食べた?」
「はい、今さっき頂きました」
「……私はまだなのよね」
「え、そうなんですか?」
この旅館の優先度は戦理と楓、その部下、その後に牡丹達
そうなっているのが、それを楓達が知っている訳がない
「……まぁ、お腹さほど空いてないから大丈夫だけど
で、さ……楓ちゃんはあいつに教えられそう?」
「なんというか……癖がでちゃって……」
「癖?」
楓の苦笑に牡丹はきょとんとした顔で質問する
すると楓は恥ずかしそうに牡丹に言う
「そ、その……前に教えた事があって
それと同じように教えちゃうんですよ」
「いいんじゃないの?」
「……いいんですか?」
「ぷ……あははは」
牡丹の言葉に楓は前かがみになりながら牡丹の顔を見る
その顔に少し吹き出し笑いだした牡丹に楓は首を傾げる
「え?」
「だ、だって……教えてるの楓ちゃんでしょ?
それならどんな風に教えてもいいと思うよ」
「……そんな物なんですか?」
「そんな物って言うか、楓ちゃんに教えを請いたのは向こうなんだし
楓ちゃんが教える内容に従うのは弟子としての当り前じゃないかしら?」
「で、でも……戦理さんだって強い人なのに
私みたいなのに威張られても……」
「いいんじゃない? というか教えて欲しいって言ってるのに
威張る人はろくでもない人なのは、私がよーく知ってるし
あいつはそんな奴じゃないと思うから、大丈夫よ」
牡丹は軽い口調で楓に笑顔で言いながら楓の頭を撫でる
それをくすぐったそうにしてる所に戦理が現れる
「……何してるんだ?」
「頭撫でてるの」
「それは見ればわかるが……」
「何? あんたも楓ちゃんの頭撫でたいの?」
「……楓は俺の先生だ」
「あ、なら……逆に撫でられたいって事ね」
「……違う」
戦理がこめかみを動かしイラついているのを余所に
牡丹は笑いながら自分の部屋の方に逃げて行く
それを見送った楓は戦理に話かける
「撫でられたいんですか?」
「え……いや、違うぞ?」
「そうですか、なら……特訓を始めましょうか」
「……わかった」
『ん? ちょっと待て、今撫でられたいって言えば
撫でてくれたんじゃないですか? いや……まさかな』
「戦理さん?」
「……ん? いや、なんでもない」
戦理は軽く首を振ると、朝ご飯を食べる時に立てかけておいた刀を
2つ手に取り、1つを楓に渡すと戦理に構える
「あと30本だった……よな?」
「え? 後70本では?」
「……え」
「ふふ、冗談ですよ、あと30本ですね」
戦理の質問に楓がからかうように言った後、口を押え笑う
普通なら呆れたり怒る場面なのだが、戦理はそんな楓を見て微笑んでしまう
「ふぅ……じゃあ後、30本……始めます」
そこから一気に集中力を高めた戦理は1本1本ゆっくりであるが
正確に丁寧に振りを続け、見事に100本を終えた
そんな戦理に笑顔で近づき楓は言う
「じゃあ、今日はここまでしましょう」
「ん? 俺はまだまだできるぞ?」
「だめです、慣れない動作をすると体が言う事聴かなくなるので
明日、次の特訓をしましょう、あ……私いない所で練習はだめですよ?」
そう言うと楓は自分の部屋の方向へ歩いていくが
暫くすると恥ずかしそうに戻り、壁に刀を立てかけまた戻って行く
それに少し吹き出しそうになるが、戦理は楓の背中に大声で言う
「了解した、また明日、よろしく頼む!」
楓は見えなくなるまで見送った後、戦理は刀から手を離さず
居合の構えをすると……1回、何もない場所に振る
するとどこからか女将が笑顔で姿を現す
「あら、ばれちゃいました?」
「ずっと見てたな」
戦理は女将を睨みながら言う
しかし、女将は笑顔のまま戦理に近づき戦理を抱きしめる
「あんな子より、私のほうがいいですよ?」




