第49節-女将の正体-
「じゃあ、少し出かけてくるね」
牡丹は楓が出て行った後、しばらくして目を覚まし
2度寝した春菊を起こすと、布団の上でごろごろしている雪花に話かける
すると雪花は牡丹の顔を見ず、投げやりに答える
「はいはい、いってらっしゃい」
それに少し苦笑を浮かべた牡丹と春菊は一緒に部屋を出る
そして、しばらく歩いた後……春菊は牡丹に話かける
「どこに行くの?」
「女将さんの所」
「女将? どうして……?」
「ちょっと気になる事があってね」
そう言いながら楓達が朝ご飯を食べるためいなくなった道を通り
本館に入ると……女将の部屋を探し始める
すると、適当に歩いていた部屋の前で駿斗と夏戦と合う
「こんなところでどうしたの?」
「いや、夏戦が女将がきになるって言って
それで探しているんだが……」
「私達も女将を探してるのよ」
「……じゃあ一緒に探すか」
そう言い4人は女将を探すため、本館の中をうろついていると
白い羽織を着た男性と合う……すると男性は不思議な顔で駿斗に質問する
「どうしたんですか? 何か捜し物でも?」
「ちょっと女将を探していて」
「あ、それなら……」
すると男性は慣れた手付きで女将がいるであろう部屋の方向を案内してくれる
ただし……右行って左行って……そんなのが何度も続く
「この旅館は迷路か……」
「広いもんね」
駿斗と牡丹はそう言いながら女将がいるであろう部屋の前に来ると
駿斗が部屋の外から中に声をかける
「あのー、女将さん、いますかー?」
「あ、はい? なんでしょうか?」
すると、部屋の中から着物姿の女将が駆け足で障子戸を開け笑顔で話かけてくる
そんな女将に駿斗は真面目な顔で話をする
「すみません、少しでいいので部屋の中に入れて貰っても?」
「ええ、いいですけど……何かありました?」
駿斗と言う『男』、牡丹もいるのだが
それを警戒する事なく女将は部屋の中へと2人を案内する
そして4人が木のテーブルの前に来ると
女将が座布団を2つおき座らせるとお茶をだしてくれる
「どうも」
「ありがとうございます」
「いえいえ、それでお話とは?」
女将はその反対側に笑顔で座ろうとした時
2人が腰に刀を持っている場所を細めで見ながら正座で座る
「なるほど……やっぱり……只者じゃないな」
夏戦はそれに気づく、駿斗に耳打ちする
その言葉を聴いた駿斗は女将に夏戦に言われた事を直接言う
「あ、あの……女将さんは何者なんですか?」
「何者とは……?」
「たしか、俺が風呂に入る時『天井裏』にいましたよね?」
「……いませんよ、なんで私が天井裏に……」
「戦理さんが女将さんは……」
そこまで駿斗が言いかけた時、女将の顔が笑顔から真面目な細い眼戻る
その直後……部屋の空気が一気に冷め上がり……殺気に包まれる
「……まったく戦理様は人が良すぎなのよ」
「では一体……」
駿斗はその殺意に臆する事なく、女将に向かって質問すると
細い眼から元の笑顔に戻り優しい口調で言う
「……暗殺部隊筆頭・菊花」
「暗殺部隊?!」
「まぁ、『忍者』と言ったほうがあなた達にはわかりやすいかしらね」
その時の言葉に優しさはなく、まるで駿斗と牡丹を『敵』として
見ているようなそんな視線がピリピリと部屋の中に感じる
「……他の人は言わないので大丈夫です」
「他の人? ああ、楓って言った子の事かしら?
あの子以外、全員知ってるわよ」
「……なるほど」
牡丹が空気を読んで『他の人』と言ったが
それは、さほど意味はなく……女将に笑顔で返されてしまう
「…‥ちょっと気になっただけなので……これで」
駿斗はそれだけ言うと立ち上がろうと足を崩した時
女将は笑顔で駿斗に向け何かを投げる
それは駿斗の目の前を通り、壁に刺さる
その刺さった物を牡丹が取り言う
「……これ苦無?」
「……危ないと思うんですが」
「そうかしら?」
女将は笑顔で謝る事なく駿斗と牡丹の睨みに返す
そして立ち上がると駿斗を睨み言う
「戦理様の邪魔をするのなら……容赦はしないので」
「邪魔って居合の特訓なら邪魔をする気はない」
駿斗は牡丹とここに来る途中
牡丹から楓の話を聞き、理解していた
「……それもですが、後1つ……特訓が終わるまで『2人』に近づかないでください」
「……どうして?」
その言葉に牡丹が割り込むように質問すると
女将は睨みながら牡丹の質問に答える
「……理由は言いませんが、わかりましたか?」
その時の言葉は殺気と言うより殺意を感じた
その言葉に頷くか『はい』と答えない限り、その場で戦いが起きる
それを察知したのか春菊と夏戦は臨戦態勢に入る
しかし……駿斗は笑顔でそれを返す
「わかりました、ですが1つだけいいですか?」
「……いいですよ」
「この旅館の中を自由に使わせてください、もちろん牡丹も」
「……は、はぁ……いいですよ」
駿斗の内容に女将は驚いたのか、唖然とした表情で頷き言う
そして駿斗は立ち上がり、牡丹の苦無をテーブルの上に置き
立たせると2人は部屋の外に出て行く
その後、夏戦が出て行く中……春菊だけがそこにいた
「あれ? 春菊は?」
牡丹が部屋の外に出て障子戸を閉めると
周囲を見回すが、そこに春菊はいない
「……近くにいるだろ?」
駿斗の言葉に悩みながらその場で牡丹は頷く
その頃、部屋の中で女将は苦無を取り、腹を抱えて笑い出す
「ふふ……度胸があると言うかなんというか……面白い子ね」
『そうね、馬鹿に値するわ』
それを微笑みながら聴いた春菊は笑っている女将に言う
しかしその言葉は妖刀を持たない女将には届かす、春菊の独り言になってしまう
そして……誰もいないのに障子戸が静かに開いた事を女将は知らない




