表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春夏秋冬・季節刀とその物語  作者: てぃあべる
47/61

第47節-楓の教え-

「刀? わかった、少し待っててくれ」


「すみません……」


楓が戦理に頭を下げると戦理は片手を挙げ、旅館の中に入って行く

それを見送った後、楓はまた木刀を持ち両手で構えると両目を瞑る


『私が人に教える……あの時はつい言っちゃったけど

 門下生じゃない人に教えるのは初めて……』


「でもっ、やるしかないよね!」


楓は独り言のように叫ぶと木刀を頭上にあげ、素振りを始める

その頃、戦理は部下の部屋に向かい、部屋の中に入っていた


「起きたばかりで悪い、昨日……女将から聴いたと思うが

 しばらくはここにいる、それと……だれか刀を1本貸してくれ」


「別にいいですけど……これでいいんですよね?」


部下の1人が戦理に刀を差し出す

その刀は戦理が持っている『軍刀』ではなく、一般的な刀


『これで大丈夫か……?』


と思ったとしても、これ以外のを持っている部下を知らない

女将に頼もうかと思った戦理だが、合えてそれをやめた


『……頼むと後で倍返しされそうだから、やめとくか』


「ん、悪いな、これを借りるぞ」


「はい、どうぞ」


それだけ言うと戦理は部下の部屋から出て楓のいる場所に向かう

それを入口の障子戸からこっそりと確認した部下達は話、始める


「なぁ、女将さんの話だとあの女の子から教えを乞う見たいだよな?」


「そうだな、でも……あの戦理さんが人に教えて貰う事なんてあるのか?

 それも何日もここにいて……なんというか戦理さんらしくないよな」


「まぁ……俺達は黙って戦理さんに付いてくだけだ」


「それもそうだな」


部下達の話を廊下の外で聴いていた女将は微笑みながらどこかへ歩いていく

そして戦理が楓の所に戻り刀を手渡す


「これで大丈夫そうか?」


「あ、えっと……大丈夫そうです、ちょっと試してみますね」


「ああ、頼む」


戦理が楓から離れると

刀を腰に持って行き『居合』の構えに入り眼を閉じる

その瞬間、まるで空気が楓に支配されたように無音の空間になり

近くに合った木の葉っぱが3枚落ちてくる


「せっ」


楓の言葉と同時に刀が鞘に収まる音が無音の空間に響く

その直後、地面に落ちた3枚の葉っぱは綺麗に横に切れていた

それを確認した楓は笑顔で戦理に言う


「ふぅ……大丈夫そうです」


「今のが『いあい』か……ちゃんと見たのは始めてだが

 なんというか洗礼された動きだな……」


「そんな事はないですよ、ただ抜刀から納刀までを速くしてるだけなので」


その楓の一言は楓に取って当り前であり、日頃から居合をしてるから言える言葉

まったく居合を知らない戦理がその言葉を聴き、驚きながら言う


「抜刀から納刀までか……教えて貰う事は多そうだな」


「そうですか? とりあえず、居合の型から練習してみましょう」


「ああ、よろしく頼む、楓」


楓は戦理の横に立つと、居合の構えをする

それは楓の伯父に当たる慈心賢護が楓に教えたのと同じやり方

腰に刀の鞘を構え、鞘の先端、刀の柄を右手で持つ

それを見様見真似で戦理が構えるが、どこかぎこちない


「……なるほど、これが構えか」


「そうですね、これが基本となります」


「この構えのまま、戦う事になるのか……難しいな」


「大丈夫、戦理さんならできますよ」


楓は悩んでいる戦理の顔を見ると微笑みながら優しく話かける

その楓の顔を見た戦理は思いもよらない言葉を発する


「……妻にしたい」


「え?」

「……ん?」


戦理の言葉に言った本人と楓がきょとんとした顔をし

2人とも何も言わずに無言になる

それに慌て、戦理は鞘から手を離し、両手を自分の体を前に持ってくると言う


「いや、その……なんだ、可愛くてつい……」


「可愛い? 私がですか? ありがとうございます」


楓は戦理の言葉に笑顔で返す

しかも、先程の言葉に慌てる事無く冷静に対処している


『門下生さんにこんな人いたなぁ、なんか思い出しちゃう』


それは楓が道場で教えていた門下生

その何人かは楓を目的として通ってた者がおり

戦理とは違うが、彼女なり恋人にした人がいた

しかし……楓自体があまりにも鈍感な事から『鉄壁』と呼ばれ

それを崩せる者こそ、免許皆伝だと賢護は笑いながら言っていた

もちろん、この内容は楓が知るわけもなく、当の本人は笑顔で話をしていた


「さて、続きをしましょうか」


「あ、ああ……よろしく……頼む」


一方、動揺したままの戦理は楓に言われ、慌てて居合の構えをする


『……楓は俺に興味がないのか? ああ……もしかして俺が牡丹にしているのと

 同じ対応なのか? ……まさか牡丹が楓にこうやれと言ったんじゃ……』


「戦理さん?」


『いや……楓があいつの言い分に簡単に納得するとは思えない』


「戦理さん!」


「え?」


考え込んでいた戦理の目の前に楓の顔がある

しかも、ほっぺを膨らませ、両手を腰に当て前かがみになっている

それに少し鼻を伸ばしながら戦理は楓の声に反応する


「戦理さん、話聞いてました?」


「え……あ、悪い」


「戦理さんが教えて欲しいって言うから教えてるのに……

 聴いてくれなっちゃ教える意味ないかもですね」


楓は軽く溜息を付くと、体を元に戻し刀を戦理に渡そうとする

その刀を受け取らず、戦理はその場で頭を下げる


「すまなかった、少し雑念があった……もう大丈夫だ」


「本当ですか?」


楓の睨むような顔に少し動揺しながらも戦理は真面目な顔で言う


「ああ、大丈夫だ」


「じゃあ、続きをしましょうか」


楓は何か悟っていたかのように戦理の隣に戻るとまた居合の構えをする

それを見ながら戦理も同じように構える


『……もう気にするのはやめた、考えるのは休憩の時ぐらいにしよう』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ