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春夏秋冬・季節刀とその物語  作者: てぃあべる
44/61

第44節-楓の頼み事

「まず1つ目は牡丹さんをこれ以上追いかけない事」


楓は、はっきりとした口調で戦理の眼を見て言う

すると、戦理は一度……牡丹の方を見た後、楓の眼を見て言う


「わかった、これ以上牡丹を追いかけるのはやめよう」


「ありがとうございます」


「……まだあるのか?」


「はい」


「そうか、言ってみてくれ」


戦理はまるで楓が言いたい事を理解しているのか

微笑みながら話かける


「じゃあ2つ目は……教えた物を他の人に教えないでください」


「他言無用と言う事だな、了解した」


「3つ目は……その……」


「ん? どうした?」


3つ目の頼み事をする前に楓は下を向き、恥ずかしそうにしている

それに首を傾げながら戦理は楓に話かける

すると楓は顔を上げ、戦理に言う


「み、3つ目は……私達の旅に協力してください」


「協力……? 一体何をすればいいんだ?」


「その……重守・攻信隊の名前を貸して欲しいんです」


「……貸すのはいいが、何に使うんだ?」


「この先の村や町で戦理さんの重守・攻信隊の名前を出せば

 協力してくれたりとか……こういう旅館泊められたりとか」


「ああ……なるほど、そういう事か

 たしかに重守・攻信隊は少しだけなら融通は通る」


「……だめですか?」


「いや、問題ない、その変わり

 それを証明する物が必要だな……この羽織でいいか?」


戦理は自分の横に置いといた白い羽織を持ち、楓に渡そうとするが

楓はそれを苦笑しながら両手を前に出し『それは……ちょっと』と言う

すると戦理は懐から一枚の紙を出し、それを楓に渡す


「これは?」


そこには、筆で何か書かれており……さらに右端には赤い判子が押されている


「それは……まぁ、通行書みたいな物だ、それをあげよう

 俺の分はあるから使ってくれ」


「わかりました」


楓はそれを受け取り、胸元に入れる

その紙の判子の上に『天皇』と赤筆で書かれていたが達筆のため

楓はそれを読めないでいた


「後は何かあるか?」


「い、いえ……他はないです」


「そうか、俺にできる事でよかった

 あと、これは俺からの御礼なのだが、ここに泊まる間に金はいらない

 全て俺が持つから、先生『は』自由に飲み食いしてくれて構わない」


「え?! いいの?!」


牡丹はその部分が聴こえていたのか立ち上がり大声をあげる

それを睨みながら戦理はため息交じりに言う


「はぁ……お前じゃない、楓先生だけだ

 まぁ……楓先生のおまけで宿代は取らないでおいてやる」


「……それはどうも」


牡丹が首を横に背け、嫌そうな顔をしたのを

楓は苦笑をしながら見ている、そんな楓に戦理が話かける


「……今日は遅いから明日から頼む

 それと1つ質問なのだが」


「あ、はい、なんですか?」


「修練までどれくらいかかる?」


「……えっと、居合だけなら人によると思いますけど

 戦理さんなら早いと思いますよ?」


「そうか……まぁ、先生の教え通り頑張るとする」


「あの、戦理さん」


「ん? なんだ? 先生」


「やっぱり先生はやめてください……普通に楓でいいですよ」


「そ、そうか? わかった、では……楓、よろしく頼む」


「わかりました、戦理さん」


楓が笑顔でそう答えると頭の後ろを右手でかきながら

照れくさいように戦理が言う


「なら、俺の事も呼び捨てで構わない、年齢とかは気にしないでくれ」


「わかったわ、戦理」


「……牡丹、いい加減にしろ」


「え? だって今いいって言ったじゃん」


「お前じゃない、楓だけだ」


「楓だけ楓だけって戦理、あんたもしかして楓に惚れてるの?」


「……」


「え……嘘? 本当に?」


牡丹のその言葉に逸早く反応したのは雪花

その場から立ち上がり、戦理に詰め寄ると怒鳴る


「元敵の癖に何言っての?! ふざけんな!」


だが、その言葉が戦理に届く事はない

それを知っている春菊は雪花の右肩を掴み言う


「あんたは少し落ち着け

 それと牡丹、その話を楓本人の前ですることじゃないわよ」


「……そうね」


春菊に言われた牡丹は右親指で廊下の外を指さすと

戦理は頷き、一緒に外に出ると部屋の入口の障子戸を閉める

それを心配そうに見ていた楓に春菊が目の前に座ると話かける


「まぁ、楓は良くしてくれたわよ」


「そうですか? それならよかったです」


「……ねぇ、楓、あなたはあの人の事、どう思っているの?」


「え? 戦理さんの事ですか?」


「え、ええ……今さっきの事……どう思ったのかなって」


「えっと、惚れてるとかですか?」


「そう、それ」


「えっと……居合とか剣技を見て、その居合に惚れてるって事ですよね?

 それなら『慈心流』が好かれてうれしいと思いますよ?」


「ぁ……そうね」


春菊は肩を落とし、下向いた後

1人……心の中で思う


『……この子は異性に興味ないのかしら?

 と言うか目の前でああ言われて……そう取る子は少ないわよ……』


そんな話を楓の横に座り聴いていた雪花が笑い出す


「あははは、さすが楓、なんていうか流石だよ」


「雪花、なにいってるの?」


「え? いや……ふふ、なんでもない」


「え? え?」


雪花は首を傾げている楓を余所に腹を抱え笑っている

それに溜息を付きながら春菊は顔をあげると、また楓に話かける


「で、楓……居合と剣技、どうやって教えるの?」


「あ、それは……」


そんな話が部屋の中で始まっている中

外の静まりかえった廊下で2人が立ち話をし始める


「……で、どうなのよ?」


「たしかに惚れているのかもしれない」


「しれない?」


「最初に合った時……あの時の眼、そして気迫

 女子(おなご)なのにと少し畏怖をしたと思ったが……実際は違っていた」


「どういう事?」


「俺はあの剣技、そして楓と言う女性が気になったんだ」


「だから旅館にも泊めたし、お願いも聴いたって事?」


「まぁ……そうかもな」


「惚れた弱みってやつね」


「どうかな? 純粋にいあいと言う物も教えて欲しかったのは事実だ」


その時の戦理の顔は微笑んでおり

牡丹はそれを見ながら呆れ顔で言う


「でも、私達がいる事も忘れないようにね」


「……わかっている」


牡丹の言葉に戦理は部屋の入口の障子戸を少し開け

牡丹に聴こえないよう小さな声で言う


「……お前には何も期待してない

 期待しているのは楓だけだ」


そう言うと戦理は部屋の中に入って行く

その言葉が聴こえていたのか牡丹は少し微笑むと独り言を言う


「まったく、私も一応女なんだけど

 私には興味ないのね、あの男は……」


それだけと言うと牡丹も部屋に戻る


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