第41節-重守・攻信隊再び-
「すみませんー」
楓達は駿斗を無視し中に入り、入口で叫ぶ
すると奥の方から若い着物姿の女性が小走りで楓達の前に現れると
その女性に牡丹が質問する
「あの、部屋空いてますか?」
「申し訳ありません、ここは重守攻信隊専用の旅館となっています」
「……重守……攻信隊? どこかで聴いたような……」
深々と頭を下げる女性に牡丹は首を傾げ考える
そんな牡丹に楓が話かける
「牡丹さん……ほら、一番最初に牡丹さんと会った時に……」
「……あーなんかいたわね、むさ苦しい連中が……」
そう牡丹が楓の顔を見て言った時、楓の顔は驚いた表情で
女性の方を見ている、それに気づき牡丹もその方向を見ると……
「なんで……お前らがここにいる?」
「……誰だっけ?」
そんな空気の中、牡丹はあっけらかんとした言葉を言う
その言葉に呆れながら女性の隣立っていた男性が喋る
「重守・攻信隊、隊長……硬葉・戦理」
「あー……髪下ろしてたからわからなかった」
最初、戦理と会った時は後ろ髪を束ね
侍のような髪型をしていたが、現在はお風呂に入ったのか髪は降ろされ
首付近まで伸びた黒い髪、そして前髪はその髪で片目が隠れているが
細い眼でまるで睨んでいるようにも見える
「ふん、牡丹……ここではなかったら殺していた所だ」
「それはどうも」
そんな殺伐したやり取りの中、楓は牡丹の前にでて戦理に質問する
「あの……硬葉さん」
「戦理でいい、なんだ?」
「戦理さん、この旅館にまだ空いている部屋はありますか?」
「ん? まぁ……全員が来てるわけじゃないから空いてる部屋はあると思うが」
「でしたら私達をここに泊めてくれませんか?」
その言葉に牡丹は慌てて楓の両肩に両手を置くと叫ぶ
「だ、だめよ?! 明らかにここは敵地、殺されちゃうよ?!」
「だ、だって……さっき戦理さんが『ここじゃなかったら』って言ってたので」
「ははは、たしかに言ったな……良いだろ、泊めてやる」
「本当ですか?」
「ただし、一つだけ条件がある」
「条件?」
「なんですか?」
「酒を……注いでくれないか?」
戦理は恥ずかしそうに楓の顔を見ながらそう話かける
その目線、意味を知った牡丹は微笑みながら戦理に言う
「いいわよ、『楓』ちゃんを貸してあげる
ただし、楓ちゃんには怖い怖い霊が憑いてるから気を付けてね」
「……霊? 亡霊か何かか?」
「そんなとこっ」
牡丹は横目で楓の方を見ると
楓の真後ろで明らかに殺気全開の雪花が戦理を睨んでいる
それを見ないように楓に話かける
「楓ちゃん、それでいいかな……?
私も一応護衛でついてくから」
「あ、はい……それなら大丈夫です」
「そうか、それなら後で部屋に来てくれ
女将、後は任せたぞ」
「は、はぁ……戦理様がよければ」
それだけ言うと戦理は嬉しそうに自分の部屋に戻っていく
その光景に気づいている春菊は呆れた声で牡丹に言う
「楓を利用したわね」
「え? だって楓ちゃんが良いって」
「……まぁ、私を一緒に行くからいざとなったら守りなさいよ」
「はいはい、まぁ……楓の後ろの守護霊様が全力で守りそうだけどね」
牡丹の言葉に春菊は楓の方を見ると……その正体に気づき溜息を付くと
牡丹の顔を見ながら『そうね』と言う
その正体こそ、雪花……しかも楓の後ろから抱きしめ楓の右肩に顔を置いている
「せ、雪花?」
「私が楓を守るから、何がこようとも絶対に」
「う、うん……頼りにしてる」
そのやり取りが終わり、女将が楓達を案内しようとした時
腹を抑えた駿斗が旅館の中に入ってくる
そんな駿斗に女将は先程と同じように断りをいれるため
笑顔で駿斗に近づこうとすると牡丹が説明する
「あの人も連れなので」
「あら、そうだったんですか……でも女性と同じ部屋と言うわけには」
「じゃあ別でいいですよ、私とこの子、あの人1人で」
「わかりました、ではお部屋にご案内しますね」
「と言うわけだから駿斗と夏戦は2人で一緒ね
楓と雪花は私達と一緒に」
「はい」
「りょうーかい」
「わかったわ」
「え?」
何を知らない駿斗は1人、その場で首を傾げると
先についていた夏戦が両目を閉じながら先程の話をする
「なるほど……って、お前は何も言ってくれなかったのか?」
「言うわけないだろ……今のあいつらには逆らえない」
「夏戦がそこまで言うなら……しかたない、今回は我慢しよう」
「我慢……?」
「え? いや、なんでもない、気にしないでくれ」
「ああ、わかった」
駿斗と夏戦も女将の後に続き、歩いていくと
手前の部屋に駿斗達は案内される
そこは2人には丁度良い和風の部屋
木の長いテーブルに緑の座布団
庭が見えるように奥に障子がある
「まぁ、ここならいっか」
「……俺は布団はいらない、その辺に寄りかかって寝る」
「……一応、布団は2つあるから大丈夫だぞ?」
駿斗は当り前のように布団が入っている場所であろう障子を開ける
そこは木の枠に障子が2枚、そこを開けると布団が2つ綺麗に畳まれて入っている
「……いや、問題ない、俺は……」
「せっかくだから使おうぜ、女将は部屋の中覗かないだろうし
もし見られたら俺が2つ使う事にするから」
駿斗はあたり前のように夏戦の顔を見、笑顔でそう言う
その言葉に微笑んだ夏戦は『わかったよ』と言い、座布団の上に座る
その頃……楓達は駿斗達とは離れた場所に案内される
そこは旅館の離れの部屋
と言うより、1つの家みたいな場所である
「……えっと、ここは……」
「ここは特別なお客様、お偉い様などに泊まって貰う部屋です
お二人様なら快適に使えると思いますよ」
「い、いえ……そうじゃなくて……私達も普通の部屋で……」
「戦理様の大切なお客様です、なので丁重におもてなしさせていただきます」
「で、でも……」
「楓ちゃん、せっかくなんだし、ここは甘えようよ」
「牡丹さん」
牡丹の言葉に笑顔で頷き、部屋の中を案内する
そこは一部屋だけなのだが、露天風呂……そして庭付き
さらに中に閉まってある布団と浴衣は高級そうな生地使っているのがわかる
「では、何かあったら遠慮なく呼んでくださいね
あ、ご飯の時はこちらにお持ちしますので」
「あ、はい……」
楓は周囲を見回しながら驚ろき頷きと女将は笑顔で一礼しその場を離れる
それを確認すると牡丹と雪花は障子を開け、縁側に両足を伸ばし座る
その光景に微笑んでいると春菊が楓に話かける
「ねぇ、楓」
「春菊さん、どうしたんですか?」
「……駿斗達は大切なお客じゃないってことよね」
「……そ、そんな事ないんじゃないですか?」
「多分だけど、私達は楓のついで、駿斗達はそのおまけって感じね」
「……そんなことは」
「まぁ、楓のお陰でこんな良いところに泊まれるわけだから、ありがと」
春菊は微笑みながら右手で楓の頭を撫でると楓は嬉しそうな顔をする
それを嬉しそうに見たあと春菊は『縁側いきましょうか』と楓に言い
楓もそれに『はいっ』と笑顔で答え、部屋の端に花月を置く




