第37節-一進一退-
「雪花!」
誰からも捕まる事のない楓はその場で両手を組み、雪花に向かって叫ぶ
雪花はその言葉に笑顔を見せる……しかし、楓の姿を見てそれは変わる
『花月がない……? まさか……』
「ん? お前が探してるのはこいつか?」
大男の男性の右手には鞘の入った花月がある
それを持ちながら雪花に向かって嫌な笑顔を浮かべてくる
『……いざとなったら刺し違えるか……』
「なんだよ、何もいわねぇのかよ……こんな塵みたいな脇差を
大事そうに持ってたからてっきり高価な物だと思ったのによ」
男性は花月を投げ捨て、花月は地面に音をたてて落ちる
それを黙って見ていた雪花に大男は落ちた花月を踏みつける
「なんだぁ? やっぱり大事だったんじゃねぇか?」
「……そのままいると死ぬわよ」
「その割には動けないでいるじゃないか」
『ゲスが……』
『男の風上にも置けない奴だな』
刀達の言葉を耳で聴きながらも雪花が動けないでいると
大男の後ろから楓が体当たりをする
しかし、楓の軽い体重で男性を動かす事はできない
しかも……それに気づいた男性はイラついた表情で右手を払う
楓の顔を右手の甲で払うと楓は後ろに吹き飛ばされる
「……ねぇ、葛霧、千払」
『……なんだ?』
『どうした?』
「……私に命を頂戴、あいつをぶっ殺す」
『……了解した』
『我の力を存分に使うがいい』
その刀達の言葉と同時に雪花は地面を駆ける
その速さは先程の突撃よりも速い
「あん? 何度こようが……結果は同じなんだよ!」
男性は左手の大太刀を思いっきり横に払う
それを体を屈め避ける雪花に男性は大太刀を縦に構え直し振り下ろす
しかし、それを横にかわすと……右手の脇差を振る
だが……かわした位置からの斬撃は浅く
男性に取ってかすり傷程度にしかならない
「へっ……その程度、かよっ!」
男性は雪花が切りつけたと同時に右足を出し、雪花を狙う
その足を両手の刀を前に構え、防ぐが後ろに飛ばされる
「ごめん……浅かった」
『……次は当たる』
『ああ、今がだめでも次がある』
「そうだね……あいつは許さない」
『……俺も同じ』
『我もだ、女子を叩く奴など……男ではない』
その言葉と同時に雪花は刀を構え直す
その瞬間……雪花の頭の中に……何かが流れ込む
「……聖破……一身流……?」
『ん? 我の持ち主の剣技を知っているのか?』
「……千払?」
そんな話をしている雪花にその場から動かずに雪花を睨んでいた大男は
武器を構えたまま雪花に突撃していく
『聖破一身流は死んだ我の持ち主の剣技だ……かなり昔の話だがな』
「……そうなの」
『ああ、使う者もいなくなった剣技だ、知っているのなら見せてくれ』
「……いいわよ、壱から五まで見せてあげる」
雪花の頭の中に流れ込んだ『聖破一身流』その全ての技が頭の中で
自分に動きを教えてくれる、そしてその一つ一つの技名も鮮明に……
その教えてくれる言葉は優しく、師匠が弟子に教えるように
ゆっくりと正確に、間違えないように……
「独り言をグダグダと……さっさと死ね!」
「死ぬのはあなたよ……聖波・壱式・隼」
『キンッ』と言う音と共に雪花は男性の横を通りすぎる
しかし男性に切り傷はない……だが、鉄と鉄がぶつかる音だけが周囲に響く
「……何をしたのかしらんが……ふんっ!」
男性は大太刀を雪花に向けて払う
それを左手で持っていた葛霧で防ぐ
「ごめん……守りに使って……」
『問題ない……脇差より耐久はある』
その直後、男性は右足で雪花の足を払おうとする
それを雪花は後ろに飛び退き回避する
「何度も何度も……足癖の悪い攻撃、当たらないわよ」
「……ほぅ」
そう雪花が言うと男性は空いている手で顎を触りながら微笑み
しかし、そんな事をお構いなしに雪花は千払を構える
だが……その持ち方は可笑しい
居合の持ち方なのだが……左手持っている葛霧を持ったまま
千払の鞘を握っている
「その鞘どこで……」
「落ちてたのよ……」
雪花は何度も何度も吹き飛ばされながら千払の鞘を探していた
『わざと』と言う訳ではないが……吹き飛ばされたお蔭で見つかったのだ
「弐式……南雲」
雪花のその言葉と同時に男性の前に飛ぶ
しかし……それを目で覆う男性を他所に雪花は鞘から手を離さない
男性は雪花が空中から攻撃してくると予測し刀を振らなかった
それを考え、雪花、自分に両足をつくと、男性の目の前で千払を抜く
だが、攻撃を男性が大太刀で受け止めた
「……あめぇと言ってるだろう……!」
「そうね」
しかし……男性が防いでいるのは千払ではなく、打刀・葛霧
左手で葛霧を構え、男性の振るうと右手で器用にも鞘から刀を抜くと
そのまま男性を斬りつける……それを男性は体を後ろに下げ斬るのを避ける
そこで男性は微笑んだ、瞬間、雪花は右足を一歩踏み込む、そのまま右足を
前に出し男性の腹を思いっきり蹴り飛ばす
「がっ……」
それに合わせ、少しぐらついた男性の隙を付き
雪花は左手の葛霧で切りつける
「もらったっ」
だが……それは男性の大太刀により防がれた直後
葛霧は『パキン』と言う音と共に刃が折れる
「葛……霧」
『……申し訳ない、打刀じゃ……ここが限界だ』
それに合わせ、雪花は折れた葛霧を持ったまま、後ろに飛び退く
『……だが、これで……千払の力がだせる……後は頼む』
『……ああ、お前に託された思い、この千払が受け持つ』
『……俺を地面に落とせ、後は……仲間と共に見てる……』
葛霧の最後の言葉と同時に雪花は葛霧を優しく地面に置く
そして空いてしまった左手を右手で持っている千払の柄を掴む
「……いくよ」
『ああ』
その少ない言葉と共に雪花は男性に突撃する




