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春夏秋冬・季節刀とその物語  作者: てぃあべる
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第1節-プロローグ-

ここ、京都には古くから伝わる剣術道場がある

その名前は『慈心道場』

(いつく)しむに(こころ)合わせて慈心(いつしん)と読む


その道場の師範を務めているのが『慈心賢護』

年齢は60代後半で賢護(けんご)は居合の免許皆伝を持つ人物

居合をやる人間の中に置いてその名前を知らない者はいないとまで言わせた人物ある

何より、賢護は厳しく……やめる人も多くない……はずなのだが

どう言う訳か、門下生は日に日に増えていく、その理由は目に見えてわかってしまう

それは……


「はい、お疲れ様です、今さっきの練習試合良かったと思いますよ」


先程賢護との練習試合を終わらせ道場の床に座り込み、息をきらしている男性に

高校生らしき女性が両膝を曲げ、白いタオルを渡すと笑顔で言う

するとタオルの受け取った男性はタオルで顔を拭き、笑顔で立ち上がり、女性に言う


「ありがとう、楓ちゃんはやっぱり優しいね……師範代と違って……」


「……聴こえてるぞ?」


「……すみません」


「お爺ちゃんもあんまり厳しくしないようにね」


「は、はい……」


門下生に怒っているはずの賢護が何故か楓と呼ばれている女性に怒られ、タジタジになっている

その姿を他の門下生は笑顔で笑っている中、2人の門下生が話を始める


「やっぱり楓ちゃんは可愛いよな……これを見るために、この道場をやめないんだ」


「そうだよなぁ……ここ師範代が厳しい代わりに楓ちゃんが優しいからな」


「……ほぅ、では楓ちゃんがいなくなったらやめると?」


「そうそう、師範代が厳しすぎで門下生0に……って師範代!?」


話をしていた門下生2人の背後から賢護は笑顔で話かける

それに気付かず返事をしてしまった門下生の一人は慌てて弁解しようするが

賢護は笑顔で門下生2人に言う


「そうかそうか……では『厳しい』ワシが2人の相手をしてやろう」


「え、いや……俺達はまだ弱いから楓ちゃんに相手を……」


「ワシじゃ不安と?」


「そんなわけじゃないんですけど……」


「なら、さっさと立て!」


「はい!」


2人の門下生は立たされ、1人目の門下生が竹刀を持たされる道場の真ん中に立つと

賢護から少し離れた位置に高校の制服……黒と白色そして、髪は黒のロング

その子が竹刀を持ち、笑顔で両端に正座している門下生に話かける


「私とやるのは誰ですかー?」


しかし、その言葉に手を挙げる門下生はいない、その……理由は簡単だった


慈心(いつしん)(かえで)

賢護の孫に当たる女の子であと1日で高校2年生になる

そのため、現在の春休み最終日まで道場の朝と夜の稽古に混ざっている

身長は153cmほどで、体重は秘密それだけならどこにでも女子高校生なのだが……


「楓……ちゃん? は強いんですか?」


まだこの道場に来て日の浅い門下生の男性が隣の門下生の男性に質問すると苦笑で答えてくれる


「……強い、師範代並みに強い」


「え?! そうなんですか?!」


「ああ、というか普段は凄く優しいだけど、練習試合になると怖いんだ……」


「怖い?」


「……笑顔で『竹刀だけ』を只管、叩いてくるんだぜ」


「竹刀だけなら……怖くないんじゃ?」


「馬鹿言え……どこに竹刀があっても正確に狙ってくるんだぞ……

 それも笑顔で……あんなの1回やれば十分だ」


「たしかに……」


門下生2人が話をしている目の前で楓がしゃがみ、両膝に両肘を置き

笑顔で2人の会話を聴いている、その光景は傍から見れば『可愛い』のかもしれない

だが……2人の門下生が楓の顔を見ると怯えている


「……お話は楽しいですか?」


「……えっと、何時からそこに?」


「練習試合になると怖いんだ、って言った時」


「ははは、なるほど……」


先輩の門下生が周囲を見回すと、先程まで話をしていた門下生は距離を置き、目を合わせない

そして他の門下生は笑顔でこちらを見ながら『どんまい』と言った表情で見ているのがわかる


「さて、暇そうにしている見たいだし、私が相手になってあげる!」


「え? そんな、俺なんかより、ほら……もっと練習したほうが良い人が……」


そう言いかけた時、楓は笑顔だが……どこか威圧を含めたような声で言う


「早く立ってください」


「はい!」


結果……案の定門下生の竹刀をただひたすらに高速で狙い、それを叩いた

その光景はやっていた者ならず、見ていた門下生にも恐怖を植え付けたと言う

だが、そのギャップを見たいがために門下生はこの道場をやめることはない……


そして朝の稽古が終わり、門下生が全員帰った後

楓はタオルで髪を拭いていると、笑顔で賢護が楓に話かける


「お疲れ様、さすがはワシの楓ちゃんだ」


「そんな事はないよ、お爺ちゃん」


「そうかい? でも……試験を受けてみたらどうかな?」


「試験って剣道の試験?」


「うむ、それと居合のほう両方じゃな」


「両方って……お爺ちゃんそれは無茶だよ」


「そんな事はないと思うぞ? 楓ちゃんなら余裕じゃ」


堅護は笑顔でそして笑いながら楓の頭を右手で撫でる

楓はその手を払う事なく、髪にかかっているタオルの上から撫でられている

その時……


『聴こえる? 私の声が』


「え?」


「ん? 楓ちゃん、何かあったかい?」


『もしも聴こえるなら……私の声が聴こえる所に来て』


「ね、ねぇ……お爺ちゃん」


「ん?」


「声聴こえない?」


「声? はて……楓ちゃんのお母さんの声かい?」


「……違うと思うけど」


『……待ってるから』


「ほら、今!」


「?」


楓が賢護に言うが賢護は首を傾げ、何も聴こえていない様子である

普通ならそこで『不気味』とか『幽霊』とかで片づけて仕舞えば終わりなのだが

楓はその声に興味を持った、何故ならその声の最後に寂しそうな声で『待ってるから』と聴こえたから


「お爺ちゃん、ちょっと行ってくるね、朝ご飯遅れるってお母さんによろしく!」


「楓ちゃん?!」


賢護の声に耳を傾ける事なく、声が聴こえたであろう方向に走り

楓は道場の裏にある大きな倉庫の前に立っている


「……鍵開いてる」


楓はゆっくりと倉庫の2枚扉の右側を開け……中を見るが誰もいない


『もしかして……泥棒? それともお母さんかお父さんの鍵閉め忘れ?』


そう思いながらも楓は中に入っていき

周囲を見ると……3段階に置いてある左右の物と上の物を取るための木の脚立

それ以外には得に何もないように見えたのだが……


楓の目の前で1人の女性がパイプ椅子に座り、何かの本を読んでいる

その人物を楓は知らない


『やっぱり……泥棒? でも……泥棒にしては落ち着いているというか……』


そう楓が考えた時、椅子に座っていた女性がこちらに気付き

本を椅子の上に置くと立ち上がり楓に近寄って来る

楓は身構え……その女性が自分の目の前に来るのを待った

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