一時間目【デス・アンケート】Ⅱ
午前9時20分
【デス・アンケート】の一問目での奥田啓の死……
この瞬間、生徒の9割は、嘘をついたら殺される……
なら、全て正直に書こうという結論に至った。
しかし、その結論は、愛斗の一言で全てひっくり返った。
なるべく秘密は、ばれたくない……
自分は、死にたくない……
自分以外の人が犠牲になれば……
自分以外の人が犠牲になれば自分は、助かるかもしれない……
人は、恐怖と死が間近に迫った時……
人は、人でなくなる。
隼牙は、知っていた……
知っていても、それは、とても悲しいものだった。
生徒全員で《そいつ》に立ち向かうという結論には、至らず……
最終的には、誰かを犠牲にするという醜い悪魔のような選択をした生徒たち。
この状況を作り出した《そいつ》。
醜い悪魔のような選択を誘導した、愛斗。
隼牙は、許せなかった。
隼牙は、拳を静かに握りしめ、モニターに目を向けた。
『ぷっふw 隼牙くんドンマイだね! どうやら、君は、犠牲者に選ばれたらしいよ……』
教室の生徒達は、犠牲者に選んでしまった事に対して申し訳なさそうな顔で隼牙をみていた。
「気にするな……」
隼牙は、普段見せることない笑顔を生徒たちに返した。
『隼牙くんが笑顔って…… 無口な君には、似合わないよー! そ、れ、に、その余裕な態度がムカつくなぁー! では、そろそろ【二問目】にいこうか……』
その合図を聞いて、一人の男が体をピクピク震わせながら小さく笑っていた。
(これで、隼牙は、死ぬ…… これにてゲーム終了だ……)
********
午前9時15分
奥田啓が倒れた事により教室は、より一層で恐怖で埋め尽くされていた。
倒れた奥田啓は、《使いの者》によって
教室から運び出された。
奥田啓が運び出されたことにより教室は、空席が6つになった。
進学校のこの学校では、休む=授業の遅れ だったため、空席が6つという状況は、かなり珍しかった。
誰にも必要とされていない6つの椅子と机は、そこにあるだけの置物同然だった。
(私の椅子や机も置物になるのかな……)
杉原紗耶香は、そう考えた。
紗耶香は、普段ポジティブで有名なクラスのムードメーカーだった。
「何事も前向きが大切よ!!」
それが、紗耶香の口癖だった。
その紗耶香もこの状況では、怯えるだけの子羊…… 小動物そのものだった。
生徒たちは窓や扉は、完全に閉まっている密室にも関わらず、風が吹いてるように感じられた。
人から人へと伝染していく、ウイルスのような恐怖の風が……
その恐怖の風を切り裂くように一人の男が、衝撃の言葉を言った。
「この【デス・アンケート】の攻略法を見つけた!!」
学級委員の愛斗だった。
「攻略法…… そんなものがあるの?」
同じ学級委員の花音は、尋ねた。
生徒たちは、愛斗の攻略法に賭けるしかなかった。
困った時は、愛斗が必ず助けてくれる……
普段の学校生活で愛斗は、生徒たちに絶対的な信頼を得ていた。
その、愛斗が言った言葉に生徒たちは、すがるしかなかった。
「簡単な事だよ? 誰かを犠牲にすれば良いんだよ! 」
「「!」」
クラスの約2割程度の生徒が、愛斗の発言に驚きを隠せなかった。
厚也もその1人だった。
『バンっ』
厚也は机を叩き、愛斗を睨みつけた。
「おい! ふざけんなよ…… 」
愛斗は、厚也の思わぬ反論に少し驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「いやいや、ふざけてないよ…… これは、本当に攻略法なんだって! 親友だろ? 信じてくれよ!!」
「愛斗ぉ!!! おまっ」
厚也は、様子がおかしい親友を殴って、目を覚まさせることにした。
生徒たちは、厚也の起こしている行動に、視線を向けた。
厚也が愛斗に殴りかかろうとした、瞬間……
「厚也くん! 落ち着いて!!」
後ろの方の席から声が聞こえた。
その声は、密室空間のこの教室では、少し大きいくらいの声だった。
生徒たちは、厚也に向けていた視線を声が聞こえてきた方に向けた。
眼鏡姿のいかにも優等生な…… 河下冷だった。
冷は、先程までは怯えるだけの、只の眼鏡だったが、愛斗と厚也の騒動の間に正気を取り戻したのだ。
「この、状況で殴ったら雰囲気がもっと悪くなるからさ…… やめようよ! 」
冷は、教室の雰囲気をこれ以上悪くしないために厚也を説得した。
厚也は愛斗を一度睨んで、立ち止まった。
厚也は、深く深呼吸をしていた。
「そうだな……」
厚也は、落ち着いた表情で席に戻った。
冷は、厚也の説得の後、愛斗に視線を向けた。
「愛斗くん…… その発言は、穏やかじゃないね……」
冷の普段は、無口で冷静に判断できる落ち着いた…… 言うならば、第二の隼牙と言っても良いくらいだった。
その冷も、愛斗の発言には、冷静で居られなかった。
「おいおい、冷までそんな事言うの? 軽くへこむよ…… 」
はぁ……
と溜め息をついた後、愛斗は、突然立ち上がった。
「この【デス・アンケート】は、全員参加の授業じゃないんだよ…… 希望者もしくは、指命された者だけが答えれば、他の奴らは、何もせず座ってればいいんだよ!」
冷も立ち上がり負けじと反論した。
「それは、納得できないよ…… もしかしたら、全員が指命されるかもしれないよ!」
冷のその反論に愛斗は、ニヤっとし、勝ち誇った顔をした。
「そうだよなぁ…… もしかしたら全員が…… だからだよ! だから誰か1人が希望者になれば犠牲者が少なくなるんだよ…… 」
(しまった…… 反論するつもりが、誰か1人が犠牲になれば大勢が助かるという結論を、結果的に証明する手伝いをしてしまった。)
冷は、頭を抱えながら席に座った。
冷は、この悪魔的な作戦を止めることが出来なかった。
愛斗は、冷の反論を論破した。
この事実が愛斗の言うことに、信憑性が増した。
8割の生徒たちは、愛斗の言うことは、絶対に正しいという錯覚に陥っていた。
「「いつもの様に……愛斗なら助けてくれる」」
この攻略法に、不信感を抱いていた約2割は、冷が論破された事により黙っておく他なかった。
『愛斗くん…… 君、面白いね!
その攻略法は、中々良いと思うよ!!
先程の、奥田啓くん死で希望者は、問題に答える事ができるって……気づいたのかな?
只、一つ欠点があるかな…… 進んで犠牲者になる人なんか…… はっきり言っていないよ?』
《そいつ》は、ようやく自分の出番がやってきた事に喜びを感じていた。
そのため、少しテンションが高かった。
そして、攻略法の欠点を的確に言い当てた。
「いやいや、そこについては、もう考えているから…… 隼牙くん? 君が犠牲者になってよ!!」
「・・・・」
隼牙は耳を傾けなかった。
特別な防音素材を無理やり取り付けられているため、窓は、外の景色が見えなくなっている。
おそらく、10分休憩で隼牙がトイレに行っている間に急いで付けられた物だろう。
愛斗には目を合わせず、何も見えないその窓を見ていた。
「ほらね…… また無視だ! みんな、隼牙をおかしいと思ったことない?」
愛斗は、無視された事にやや怒りながら生徒たちを説得し始めた。
「何故隼牙は、この異常な状況で常に冷静居られるのか……俺は、ずっと疑問だったよ」
「・・・・」
隼牙は、静かに愛斗の方に視線を向けた。
「そこで1つの答えを導いた…… 隼牙は、このふざけたゲームの関係者じゃないのか? 俺の推理が正しければ、隼牙は、この【デス・アンケート】では、死ぬはずがない!」
「ちょっと待って! その言い方だと隼牙くんは、どっちにしても不幸じゃない!」
隼牙が生き残れば、ゲーム関係者…… という事は、生徒たちに復讐される。
ゲーム関係者じゃない場合は、死ぬ。
花音は、愛斗の言い方だと、どちらにしても隼牙には、不幸しかない事を瞬時に見抜いた。
そして、花音は、愛斗のふいを突くように反論し始めた。
さすがの冷静ぶりだった。
「今の発言撤回しなさい! 無視しないで!!」
花音は、愛斗が無反応だったため、徐々に感情的になっていた。
「花咲ってさ、隼牙の事になると…… すぐ冷静じゃなくなるよね! もしかして、隼牙の事好きなの?」
「なっ!」
花音は、愛斗の発言に頬を赤らめた。
花音は反論する気力を無くし、机にうつ伏せになった。
どうやら、図星だったようだ。
「他に反論する人いるー?」
生徒たちは、少し申し訳なさそうに隼牙をみていた。
不信感を抱いている者も愛斗を論破する自信は、なかった。
「俺は、死なない…… 」
隼牙は、誰にも聞こえない程度に小声でそう言った。
********
午前9時22分
愛斗の策略により、隼牙は、犠牲者に選ばれた。
この事により、生徒たちに大きく変化が表れた。
愛斗に対して不信感を抱いている者たち。
愛斗を絶対的に信頼している者たち。
この2つでクラスは、分裂し始めていた。
密室状態で窮屈で息苦しく、空気が重い……今の教室は、そんな状態だった。
そんな中、犠牲者になった隼牙は、《そいつ》によって、【二問目】を出題された。
『犠牲者隼牙くんに問題です。 【二問目】 神風隼牙は、柊愛斗 を殺したいと思っている。さあ、早く答えてー!』
隼牙は、落ち着いた表情で紙に書いていた。
『ちぇ、書き終わったようだね! それでは、結果を見ましょう! 見ましょう! レッツGO!』
【二問目結果発表】
できる事なら、殺したい。
『正解でぇーす…… つまらないなぁ、正直過ぎるよ!』
隼牙は、愛斗を絶対的に信頼している者たちを、敵に回す事を恐れず正直に書いた。
愛斗派の生徒たちからは、批判の声が多少聞こえきた。
隼牙は、愛斗派の生徒たちを全く相手にしなかった。
「ふっ、少し秘密が分かったぞ……」
隼牙は、少し笑いながら立ち上がった。
そして、《そいつ》が映っているモニターに視線を向けた。
「これ、何だと思う……?」
「「!!!!」」
『!!!!』
生徒全員と《そいつ》は、驚きのあまり動けなかった。
隼牙が片手に持っていたのは、嘘発見機と毒針の役目をしている〈白い機械〉だった……
「借りにも先生を演じている《そいつ》が嘘つくのは、どうかと思うぞ?」
【デス・アンケート】……真の攻略法の前触れだった。
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