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トオル  作者: にっき
第一章
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世界統合軍第3都市部南支部


目の前にそびえる、大きな建物に思わず息をのむ。

やっと憧れていた軍人になれるのだ。期待と緊張が渦を巻く。


ずっと昔、300年くらい前。この世界は様々な国が争っていた。人々は傷つき、森は枯れ、海はけがれていった。しかし、ある国が戦争に勝ちすべての国をつまり世界を領土にした。世界は1つになった。

そして、現在。世界の政治は世界政府が、世界の治安の維持は世界統合軍が行っている。


僕は、今日から正式に世界統合軍に入隊する。それも自分の出身地である、第3都市東杏の南地区に。


「よし…行こうか。」

誰に言うわけでもなく呟く。

目の前の建物、世界統合軍第3都市部南支部に入るため歩き始める。茶色を基調とし少し古風な外見がいかにも東杏らしい。

門を通り、石畳の通路を歩く。


入ったらまずは、挨拶だ。自己紹介をしなくちゃ。真新しい肩掛けのカバンを汗がにじむ手で握りしめる。同じく新しい軍服のせいか肩が凝ってきた。

昨日練習した自己紹介を頭の中で繰り返す。


―初めまして透です。18です。男です。好きなものは甘いものと辛いもの。苦手なものは苦いものです。よろしくお願いしま


ゴン!!


「いった!」


額をさする。頭で復唱するのに夢中で入口の柱に激突してしまった。通り過ぎる人の小さな笑い声が聞こえる。


やっちゃったな…

気を取り直し、建物に入る。


「広い…」


玄関フロアを見渡すと思ったより広く、人も多かった。軍人だけではなく、一般の人もいる。

フロアの真ん中にある受付へ歩みを進める。

受付に座っている、女性に声を掛ける。


「は、初めまして!今日から第2部隊に配属された透です!18です。男です。好きなものは甘いものと辛いもの。苦手なものは苦いものです。よろしくお願いします!!


言い終わり、勢いよく一礼する。


「ふふ。丁寧な挨拶ありがとう。私は里奈といいます。よろしくね。」


さわやかな笑みを浮かべながら里奈は言った。さすが受付嬢、黒髪の似合う美人だ。


「はい!」


「透君の働く第2部隊は3階よ。支部長に会うのは明日のはずだから、まずは部隊長に挨拶するのよね?」


正式な入隊式は明日なのが、前日に配属された部隊へ出勤するのが軍の決まりである。

なので、南支部の支部長に会うのは明日なのである。


「そうです!!」


「じゃあ、君からみて右側の階段を上ってすぐのところが第2部隊長室よ。」


「わかりました!ありがとうございます。」


「いえいえ。がんばってね。」


里奈に一礼し、言われたとおり右側の階段をのぼり、部隊長室を目指した。

「ここかあ…」


第2部隊長室と書かれた扉を見つめる。

深呼吸をし、扉をノックする。


「どうぞー」


間の抜けた若い男性の声が返ってきた。

部隊長は南地区で最年少って聞いたけど、もっと重々しい声を想像していたからちょっとおどろいたな。


「し、失礼します!」


ゆっくりとドアを開ける。部屋を見渡すと、真ん中には応接用のソファとテーブル。

右側が様々な資料が入っている本棚。そして奥には大きめのデスクと黒い椅子、そこに男性が座っていた。デスクの左側には女性が立っていた。

ドアを閉め、一礼する。


「本日から、第2部隊に配属された透です!!よろしくお願いします!!」


「ようこそ透くーん。俺は第2部隊長の理久。よろしくねー。ま、座って座って。」


と言い椅子に座っていた男性、理久は自分の目の前にあるソファに座るように促す。

茶色の髪は流行の髪型、人懐っこそうな顔、体はそれほど筋肉質ではなく、すらっとしている。25歳と聞いていたが、自分と同い年と言われたら納得してしまいそうである。想像していた部隊長像とあまりにもかけ離れている。


「は、はい!」


言われた通りソファに座る。そのあと、理久、立っていた女性が向かい側に座った。

ふと女性と目が合う。黒い長めの髪を上に一つに結んでいる。美人だが真面目そうな顔が印象に残る。化粧が薄めなのか、彼女も若く見える。


「自己紹介が遅れました。副部隊長の水蓮です。よろしく。」


落ち着いた声で水蓮はいった。

「水蓮は相変わらず、かたいなあ!スリーサイズくらい教えてあげればいいのにー!!」


理久が水蓮の肩をたたきながら言った。


―パン!


直後に音がする。


「いてー!」


頭をさすりながら、理久が言う。速すぎてよくわからなかったが、どうやら水蓮が理久の頭をはたいたらしい。


「くだらないこと言ってないで、はじめてください。」


なんか、正反対なふたりだな。組織ってこういう方が上手くいくのだろうか。


「ったくー。はいはい。まあ、堅苦しい挨拶とか、この支部の教訓とか歴史とかは明日嫌になるくらい聞くだろうから今日は話さないよ。まずは質問だけど、この第2部隊の担当する場所はわかる?」


はたかれた所をさすりながら理久は言う。さすがにそれはわかる。


「はい!東杏の南地区の北部ですよね!」


「そう。第1部隊は南、第3部隊は西、第4部隊は東、第5部隊は医療を担当してる。ちなみにこの建物は南地区のど真ん中、全部の部隊が集合している。」


「私たちの仕事は北部の治安の維持です。主に警備、罪人の逮捕、魔獣の駆除などですね。警備は住居区や森などを含む町全体を行います。罪人はこの地域は比較的少ないのですが、窃盗や殺人など法律違反をした人間のことです。私たちは罪人を発見次第確保しなければなりません。

魔獣とは300年前の戦争で使われた洗脳薬によって凶暴化した動物たちのことです。魔獣がほかの生物を攻撃するとその生物も魔獣になってしまいます。300年たった今でも魔獣がいるのは防ぐ手段が予防接種しかないからですね。

まあ、この辺のことは研修で習いましたよね。」


水蓮が淡々と話す。


当然のごとく軍での仕事内容は理解している。入隊試験でも勉強したし、研修期間でも教えられた。


「はい。」


「一応規則だから、つまんないと思うけど聞いてね?」


ウインクしながら理久は言う。


「私たちは、自身に流れている魔力や体術、武器などを使用し魔獣を駆除します。駆除をしないと民に被害が及びますからね。後は必要書類の作成など、細かい事務作業はありますが軍の仕事内容は以上になります。」


言い終わると、水蓮は書類のようなものとペンを差し出してきた。


「とりあえずこの書類を読んでサインを。私は透君の指導係を呼んできます。」


立ち上がると水蓮は部屋を出た。


「わかんないことあったら言ってねー」


残った理久は大きく伸びをしながら言う。

書類に書いてあったのは勤務や保険などについての同意書だった。一通り目を通すと、サインを書く。


「まあ、最初は緊張すると思うけど頑張って。」


サインが書き終わったのを見たのか理久が口を開く。新人の軍人に緊張しすぎないように気を使ってくれているのだろう。僕の体は先ほどよりもリラックスしてる。


「はい!ありがとうございます。」


「うちの地区は比較的治安はいいよ。まあ、透君は東杏の出身者だしわかるよね?」


「はい、もちろんです!」


僕は東杏の西部出身だが、大体のことは知っている。東杏の北部の三分の一以上は杏林という東杏最大の森が広がりほかの地区に比べて人口は少ない。そのためか治安は良いと評判である。


「魔獣もすくないのですか?」


「まあ、海のある南地区に比べれば少ないかなー。森があるからね、そこそこはいるよ。」


そこそこってどれくらい…?

研修でしか魔獣を駆除したことがない。一番不安なとこなんだよなあ。


「そんな顔こわばらせないでー、最初は何人かで魔獣の駆除はするから!」


自然と不安が顔に出てたのだろう。理久は少し慌てたように言った。


「それに最初の何か月かは指導係の子と一緒に行動してもらうから。そんなに不安がることないよー。」


「は、はい。」


―コンコン。


ドアのノック音が聞こえた。恐らく水蓮が僕の指導係を連れてきてくれたのだろう。


「はーい」


理久が答える。すぐにドアは開いた。

入ってきたのは、水蓮と若い女性だった。理久よりも明るい茶色のショートカットの髪。

顔はいかにも活発そうな顔をしている。歳は僕と同じくらいか、少し上くらいだろうか。


「初めまして、真昼です。君の指導係よ。よろしくね。」


真昼は、はきはきとした声で自己紹介をする。


「真昼ちゃんスリーサイズはあー?」


理久が茶化す。この人女性に対してはみんなそうなのか?


「隊長!ふざけたこと言わないでください!副隊長に教えたいですが、隊長には絶対に教えません!!」


腰に手を当てて、真昼は言い返す。副隊長には教えたいってどういうことだよ?


「えー!真昼ちゃん、水蓮ばっかりー!」


「気色悪いです!セクハラで訴えますよ!?」


仮にも上司に対して、さげすんだ目で真昼は理久を見る。


「はぁ…、隊長その辺にしてください。真昼、打ち合わせ通り透君に隊員室に案内して。そのあとのことはあなたに任せるから。」


ため息交じりに水蓮が二人をなだめる。まだ3人しか会ってない第2部隊のメンバーだが、水蓮の気苦労が絶えないことが分かった気がする。


「はい!!了解しました!!私にお任せを!!!


元気よく真昼は答える。理久と話していたときとは大違いだ。


「じゃあ、行こうか!透君!」


「は、はい!!!」


僕は勢いよく立ち上がり、部屋を出てく真昼について行った。



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