表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ  -D.E.Q.-  作者: 雨木あめ
序幕Ⅰ 日常という名の
8/10

闘争中

 「ばれちまったら、しょうがない」

 ブリーフィングを終え、芝居が掛かった口調と共に少年がこちらに向き直る。

 「小細工は終わりか?」

 「「んー、きりかえってだいじだしねー」」

 双子の声がステレオで響く。

 「切り替えて、どうする? このまま行ったらどっかで隙ついて俺の勝ちだ」

 それはハッタリではなく、確信だ。パターンを読まれたスイッチ作戦に意味は無く、どこかで破綻する。新しい作戦に切り替えたとしても、付け焼刃が完成する前に俺は割り込める。

 「生半可な策じゃ、俺には勝てないからな?」

 「はっ、そいつは──どうかなっ!」

 ひゅおん、と竹刀を振り払うと同時。

 淡い緑の燐光を伴った幾何学模様が、少年の足元に出現した。

 暴風が、吹き荒れる。

 けれどこれは少年の術式では、ない。

 『カゼよ、キたりて、そのカネをウちナらさん──』

 ここまで一言も発さずにひたすらにサポートに徹していたはずの少女の幼い声が、しかしある種の威厳を持って反響を伴って耳に届く。

 少女の言葉が進むに合わせ、風は少年の腕に収束し、模様と同じ光を放つ。

 『『イカズチよ、キたりて、そのカネをウちクダかん──』』

 双子の少女は向き合って手を繋ぎ、空いた手を少年へと向ける。少年が手にする竹刀に幾何学の紋様が走り、青の光が宿る。

 『──フきすさべ!』

 『『──ホトバシれ!』』

 重なる三つの声。二つの叫び。

 一際強い輝きが放たれて、消えて。少年の体と刃は、超常の力を得た。

 「霊陣と、詠唱……」

 額の汗もそのままに。目の前で起きたその現象を、改めて反芻する。

 単に念じるシングルアクションだけでは起動しない、複雑な術式を編み出すための、二つの鍵。

 詠唱そのものは、それこそ小学校で習うようなテンプレート。霊陣だって似た様なものだ。

 けれど、有るか無いかでは、雲泥の差だ。

 二つとも、揃っている。その事実。

 それはつまり、こういうことだ。


 ──その威力は次元が違う、と。


 「テメエら……やってくれるじゃないか。それ全部、固有術式系統の最大術式か?」

 「そうさ。ばらばらにうってもかてないなら、おれたちのもってるなかでいちばんつよいのを、ぜんぶまとめてぶちこむことにしたんだ」

 おれらのがどんなこゆうじゅつしきかは、わかってるんだろ? と。

 少年は、その刃を最早目に捉えられない速度で試し振りしながら、言う。雷が、遅れて撒き散らされる。

 「ああ。最初のが風の加護による身体加速、双子が使ったのは霊装の雷化、そして」

 けれど、その先の言葉は、必要無かった。

 なぜならば、ひとつのまばたきの後、説明の言葉など凌駕する、現象が存在したから。

 『ホムラよ、キたりて、そのカネをウちホロぼさん──』

 火柱が高く、渦を巻いて顕現する。

 その赤の向こう、少年が、最後の一節を、叫ぶ。


 『──モえチらせ!』


 刃が、火を纏う。数メートル級の火柱を全て集めて。

 さあ、と。

 幼い声が、聞こえる。 

 「こっからはぜんりょく、ぜんかいだ」

 好戦的、を通り越して、獰猛。

 獣の笑みを浮かべ、本能のまま、自らの持つ最強の力を暴力として発現させる。

 耳鳴りがする。 

 あまりの強烈なプレッシャーに、本能が警鐘を鳴らす。

 逃げろ、と。

 逃げてしまえ、と。

 『術式を理解できても、使えない』弱きその身では、防ぎようがないだろう、と。

 死んでしまう、と。

 けれど、それは。

 「しんじまっても、うらむなよ、まさご──」

 「は。ほざけ餓鬼共。お前ら程度の力じゃ俺は、どうあっても死ねないよ」

 許されないことだろう。立場としても、俺自身の過去からしても。

 そう思って、言って。笑う。そんな、俺のせめてもの強がりは果たして少年に届いたのだろうか。

 「うおおおおおおおおおおお!」

 幼い獣の絶叫。瞬きの間すら、無かった。


 その赤く燃える牙が、風雷の速度で、襲い来る。

 俺の命を、食い潰す為に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ