嵐の前
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「ううむ……」
呻いて、軽くストレッチをするように足を前後させ、腱を伸ばす。ついでに腕も。
回復した、と判断し保健室を抜け出したのが十分前。
一足先にジャージに着替えた俺は、体育館の入口付近で待機中。視界の端にある大きな扉からは、子供たちが着替えるのを待ってから先導して来る世那が入ってくる予定である。
子供たちと体育館、と言っても、普通に体育をするわけでは、もちろんない。ここは霊校だ。ここで行われる授業は、少々特殊なものとなる。その名も、
「霊術実技訓練、か」
実技教科は、本来俺の管轄ではないため、ここにいる義務はない。が、本来あのクラスの担任である教師から、後学のために見学しておくよう厳命されていたため、渋々ここに立っている訳だ。
まあ。とはいえ、どうやら俺の教授法はどうやら小学生向きではないらしく、参考までに子供らに人気のあるらしい彼女のそれを見ておきたい、との意思があるのも事実なのだが。
「好きじゃないんだよなあ、これ」
ひとりごちながら、過去、何をやっても上手くいかなかったこの授業時間を思い出す。
俺の実技の成績はお世辞にもよろしくない。というかほぼ無能の域に入るといっても過言ではない。
火を灯せず、水を呼べず、あげくの果てには支給品の霊術具を壊してしまうなどなど、嫌な思い出をあげつらえば、つらつらと止めどなくあふれ出てくる勢いだ。思い出すたびに舌の根がざらつく様に苦い失敗、ひとつでも苦手教科のある人間なら、この感覚には覚えがあるはずだ。器械運動とか、出来ない奴にはどう頑張っても出来ないだろう?
そんなことを考えていると、ふと、はしゃぐような声が聞こえた。それは最初は遠かったが、時間と共に近づき、同時にどこか聞き覚えのある幼い声達の集まりであることが解る。
「おでましか……」
こきこきと、痛みの消えた首を鳴らし、子鬼どもの襲来に備える。十分なストレッチも既に終え、体もほどほどに温まっている。
準備は万全、体調は上々。これ以上は何も求めまい。
ぐるり、と首を回して、意気込む。
──さあ。
楽しい勉強の時間の、始まりだ。