完璧王子に推されてます
「みんなー! お待たせー!」
キラキラと光が交差するステージの上。
私は思いっきり笑顔を作って今日ここにきてくれたファンの人達に手を振った。
念願のアリーナライブ。それが叶った記念すべき日。
登場の後、観客席にウインクをすると、黄色の小光石を持った色々な種族の人がわぁっと歓声を上げてくれる。
私と同じ金色の髪の女性に猫耳の男の子、エルフの男性まで様々だ。
種族の垣根を超えて、私を応援するという目的で集まってくれた人達。
大勢のファンを目の前に自覚が芽生える。
(遂に! 遂に来たんだ!)
ここまで来れたという達成感が気持ちを高揚させ、ドキドキと心臓は高鳴りを見せた。
頭の中に今までの記憶が一気に駆け巡り、ぎゅっと拡張石を握りしめた。
(絶対、成功させてみせる!)
「最初の曲、いっくよー!」
手を高く上げ、曲の合図を出すとズンッと鼓膜を突き破るような振動が起こる。
この曲特有の重低音が響き渡ると、一瞬の間の後で観客席から熱狂的な声が空気を切り裂いた。
一気に盛り上がりを見せた会場に私の頬も自然と色づく。
『楽しい』で心の中が埋め尽くされて、リズムが心地よく耳に、頭に流れてくる。
(たん、たん、たん、321……)
「——」
曲に合わせて音を出すと、拡張石は綺麗に声を拾って遠くまで届けてくれる。
(流石お兄様が作った拡張石。性能が段違いだよ。)
「はい!」
「L・U・C・E! ルーチェ!」
曲の途中で拡張石を観客席に向けると、コールが返ってくる。
(どうしよう。すっごく楽しい!)
今まででは考えられないほどのキャパ。
当然ながら観客数は一目では数えられないほど多い。
大光石に照らされて、大きな舞台でダンスを踊る。
一体どれだけの人が目指して、憧れた場所か。
(やっとここまで来れたんだ!)
うちわに書かれたポーズをこなしながら歌い終えると、拍手が巻き起こった。
会場を揺らす大きな音が耳に届いて、息なんて忘れてしまうほど幸せな時が流れる。
私が認められた瞬間だ。
「みんな今日は来てくれてありがとー! 楽しめたかな?」
私の問いかけに「最高だった」「楽しかった」とあちこちで声が上がる。
「次がラスト! 最後まで盛り上げちゃうよ!」
最後の曲を無事に終えて、名残惜しさ万歳でまだ熱った体のまま舞台を降りる。
いつまでも鳴り止まない歓声が今日のライブの成功を示しているかのようだった。
(やばい、ニヤニヤが止まらない。)
頬の筋肉は使い過ぎて変な方向に働くし、顔は信じられないほど暑い。
(余韻が、すごい)
パタパタと熱を冷ましていると、横に座っていたお兄様に笑顔を向けられた。
「お疲れ様、ルーチェ。最高のライブだったよ。」
差し出されたタオルを有り難く頂戴しながら、私も笑顔を返した。
「えへへ。お兄様、私のライブを最高のものにしてくれてありがとう!」
お兄様は今まで私を支えてくれた。
スキルを使って拡張石を作ってくれるだけでなく、スケジュールの管理や会場を抑える交渉、それから身の回りのお世話まで。
マネージャーのような業務を勝手出てくれて、見事にこなしてくれた。
(本当に頭が上がらないな。)
今日のライブだってお兄様無しでは来れなかったと言っても過言ではないほど、一杯助けてもらった。
「じゃあ、行こうか。みんなルーチェを待ってるよ。」
お兄様に手を引かれ、連れられたのは少しお高めのレストランだ。
ドアを開けると見覚えしかない関係者の方が大勢居て、私を見ると笑顔になってくれる。
「わっ、こんなに……!?」
打ち上げをするとは聞いていたが、ここまで人数が多いとは思わず、驚いてお兄様を見ると、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
「今日は念願だった舞台の成功を記念して、今までお世話になった人は全員呼んでるよ。せっかくならびっくりさせようと思って、内緒にしてたんだ。」
粋なサプライズに私はお兄様の手をぎゅっと握る。
「ありがとう! すっごく嬉しい!」
私がアイドルとしてライブをできるのは色々な人の協力があってこそ。
いつかちゃんとお礼を言いたいと思っていたから、この場は私のとって最高の機会だった。
それに、私の為にここまで多くの人が足を運んでくれるのは、やっぱり嬉しい。
「主役も来たことだし、始めようか。」
お兄様は近くにあったコップを私に持たせてくれる。
「ほら、挨拶。」
小声で促され、私は大きく息を吸った。
「今日こうして舞台を成功させられたのは、今までお世話になった皆様がいてこそです。本当にありがとうございました! えっと、ライブの成功を祝して乾杯!」
「乾杯!」
和やかにスタートした打ち上げは挨拶回りから始まった。
「ルーチェちゃん、今日はお疲れ様。いやぁ、私も見させてもらったんだけどね、ライブ楽しかったよ。つい音楽に合わせて踊っちゃったくらいだ。」
「ふふ、ありがとうございます。楽しんでいただけたならなによりです。」
「私も、楽しかった。特に最後の曲なんて感動して、年甲斐もなく涙ぐんでしまったよ。」
「そうなんですか!? 私も最後の方は終わってしまうんだって寂しくなってしまって……それが伝わったのかもしれませんね。」
「本当、“アイドル”なんて初めて聞く職業、最初はどうなることかと思っていたけど、杞憂だったようだね。」
「あはは、成功させられて良かったです。」
引っ切り無しに声をかけられたのに対して、1つ1つ丁寧に答えていく。
みんな“アイドル”という言葉が存在しないこの世界で私を信じて協力をしてくれた人。
誰1人として無碍に扱うことなんてできない。
「皆さんすみません、ルーチェは明日学校なので、この辺で……」
終わらない人の列にお兄様がストップをかけてくれる。
私ももう少し話したい気持ちを抑えて、笑顔で手を振った。
明日は学園の入学式。
流石に初っ端から遅刻するわけにはいかないのだ。
「お兄様ありがとう。」
自分では切り上げる自信のなかった私は、こっそりお兄様にお礼を伝える。
「いいよ。これもマネージャーの仕事だからね。」
ニッコリと笑顔を作る兄の姿はとても頼もしかった。
「それにしてもマリアがここまで大きくなるなんてね。」
馬車に揺られながらお兄様は思い出すように目を細めた。
マリアは私の本名だ。
ルーチェはアイドルを志した私がつけた芸名。
そこには誰もを照らす光のような存在になりたいという意味が込められている。
「初めてアイドルになりたいと言われた日が懐かしいよ。」
そう言って息を吐くお兄様につられて私もその日のことを思い出した。
私がアイドルを目指したのは12歳の時。
その日はよく晴れた青空が広がる教会で、私はスキル認定の儀式を行なっていた。
12歳になった子供は誰もがこの儀式を行い、神様からスキル授かる。
スキルは1人につき1つ与えられ、様々なことができる可能性を秘めている。
何を授かるのかによってこの後の人生を大きく左右する重大な儀式だ。
そこで私が授かったスキルは『幻影』。
要は人に幻を見せることのできるスキルだ。
私の魔法の適切は光属性だったので、攻撃力皆無な組み合わせに普通なら落ち込む所だろう。
だけど、私は普通とは違った反応を見せた。
「人に幻を見せられるなんて最高じゃない!」
家に帰った私は大喜びで部屋中をクルクル回った。
今にも踊り出しそうな勢いではしゃぐ私に、両親は苦笑いを浮かべていた。
当の私はそんなことをお構いなしに飛び回り、仕舞いには転んだ先にあった机の角に思いっきり頭をぶつけて倒れ込んでしまったのだった。
「マリア! マリア大丈夫?」
慌てて駆け寄って、心配そうに私を見つめるお母様。
「すぐに医者を呼ぶんだ!」
こんな時でも冷静に状況を判断して、適切に指示を出すお父様。
その2人に見守られながら、私は静かに目を閉じた。
……寝ている間、夢を見た。
遠い昔の前世の記憶。
こことは全く違う世界で別の人生を歩んだ記憶。
夢のおかげで歌うことが踊ることが大好きだったもう一つの人生を思い出した。
目が覚めた私がアイドルを目指したのは自然の流れだろう。
「いやー、あの時は驚いたよ。目を覚ました妹の第一声が『お兄様のスキルレベルは3に達してましたよね?』だったんだから。」
「あははは……すみません。」
スキルには5段階のレベルが存在する。
お兄様のスキル『拡張』で例えると、
レベル1:自分を大きくする
レベル2:自分の魔法を増幅させる
レベル3:任意の物を大きくする
レベル4:他者を大きくする
レベル5:他者の魔法を増幅させる
この5つの段階に分けられる。
スキルは魔力により行使されるので、他者の魔力への干渉が1番難しいとされるのだ。
アイドルになりたい私が注目したのは3つ目の任意のものを大きくするという特性。
これを使って声を大きくできるのではないかと考えたからだ。
音声を記録する魔石は存在する。
録音が一度きりという使い切りのものだが、CDの代替品として機能させるには十分。
音を大きくさせる魔石もあるにはあるが、音を大きくするほどノイズが入ってしまうという欠点がある。
歌を届ける者としては痛いところ。
そこでお兄様のスキルに目をつけたという理由だ。
寝ている間にそのことに気づいた私は、目を開けて最初にお兄様に声をかけた、というのがことの真相になる。
「ツッコミどころは満載だったよ。敬語だったことにも驚きだし、僕のスキルの話を急に出したのも不思議だったしね。」
記憶が混乱して、お兄様に敬語になってしまったことを思い出した私は曖昧に笑う他ない。
「そこにいきなりのアイドル宣言。本当、頭をぶつけておかしくなったんじゃないかって本気で心配したくらいだよ。」
「その節はご迷惑をおかけしました。」
ペコリと頭を下げると、お兄様は「迷惑だなんて思ってないよ」とヒラヒラと手を振ってくれた。
「それも今となっては良い思い出だ。」
口角を上げて優しい目をしているお兄様の言葉は本心なのだろう。
お兄様が気にしていないことにほっと胸を撫で下ろしていると、チラリと鋭い視線を向けられる。
「それよりも問題は、明日からの学園生活、だね。」
恨めしそうにため息を吐くお兄様に私は苦笑いを浮かべた。
(お兄様ってば、心配性なんだから。)
「大丈夫! 私が通うのは国内屈指の名門校なんだし、警備は万全。下手したらお家より安全なくらいじゃないかな?」
安心させるように不安の種を取り除く言葉を投げかけると、お兄様は眉間に皺を寄せた。
「……警戒心がないんだよなぁ。」
ボソッと呟いた一言が聞こえてしまった私は肩をすくめる。
警戒心が足りない自覚はあったからだ。
「良い? マリアは今や有名人なんだから、その自覚を持つこと! 身バレなんてしたら、大変なことになるからね。」
私は正体不明のアイドルとして活動している。
アイドルは歌って踊るだけが売りじゃない。
パフォーマンスとして多少の露出もすることだってある。
アイドルの衣装を可愛く動きやすくするためにはミニスカートが最適だ。
だけど肌を見せることは、貴族としてはあまり好まれないこと。
両親に迷惑をかけない為に、私の正体はバレてはいけないのだ。
身分がバレたら、嫁ぎ先がなくなってしまう可能性だってある。
そのことを懸念して少し厳しい口調で諭してくれるお兄様に私は笑顔を作った。
「それこそ心配ないと思う。だってアイドルルーチェは——」
そこで区切ってお兄様を真っ直ぐに見つめた。
「幻の存在なんだから。」
スキル『幻影』を使って理想の姿で活動できる。
……これが私——マリア・フローレンスが今世でアイドルを目指すことになった1番の理由なのだから。
(うわぁ、豪華!)
校門の前で校舎に圧倒された私は思わず立ち止まった。
白を基調とした校舎はお城を彷彿とさせ、ここに入ると思うだけで緊張を煽る。
「頑張れ、私。」
自分だけに聞こえる小さな声で気合いを入れて、一歩を踏み出した。
その瞬間——
「……ルーチェさん?」
背後から聞こえた言葉に私は反射的に振り返った。
「はーい! みんなの心を明るく灯す光のアイドルルーチェです!」
そしてほぼ無意識のうちに体に染み付いた挨拶をしてしまう。
(……しまった!)
数秒経って自分の過ちに気づいた時には時すでに遅し。
目の前で頬を染めたイケメンとバッチリ目が合ってしまったのだから。
更に言えば、同じ制服を見に纏っているので、同じ学校の生徒なのは一目瞭然だ。
「い、いやっ、あの、違くてですね……」
慌てて弁解しようと口を開いたものの、上手い言い訳が見つからない。
どうしようと冷や汗を流す私を他所に、顔立ちの良い男の人は目を輝かせた。
「大ファンです! 路上時代から追ってて……ずっと応援してました。こんな所で会えるなんて光栄です!」
興奮を抑えきれない様子の男性を見て、冷静さを取り戻した私は首を傾げた。
(どうしてこの人は私がルーチェだってわかったの?)
ルーチェとして活動している時は必ずスキルを使っている。
それは今の私とは似ても似つかない美少女の姿で、一目で……ひいては後ろ姿だけで判断することなんて不可能なのだ。
「ねぇ、あの人今ルーチェって言わなかった?」
「え? 本物のルーチェが来てるの!? どこどこ?」
重大な事実を思い出した私は、騒がしくなってきたこの場所から脱する為に男の人の手を引いた。
「着いて来てください!」
突然のことでわけもわからないはずなのに、たった一言で男の人は私に従ってくれる。
「この学園で人が来ない場所ってどこですか?」
急いで校内に入った私は足を止めずに男の人に質問をする。
私のリボンの色は赤色。一方で男の人のネクタイの色は青色だ。
この学園の制服はネクタイやリボンの色で学年を判別できるようになっているので、上級生だとすぐにわかる。
それでこの学園に詳しいだろうと訊ねると、男の人は紺色の髪をサラサラと落として少し考えた後、真っ直ぐに指を刺した。
「え? あ、えっと、あそこ……第2校舎の3階です。」
「わかりました。そこまで行ったら、貴方にお話があります。」
何も伝えずに連れ出すのも失礼かと思い、最低限のことだけ話した私は歩くスピードを早めた。
「……本当に人が居ないんだ。」
彼に教えてもらった場所まで辿り着くと、人っこ1人見かけなくなる。
窓の外を見ると、新入生が大勢出入りしているので、本当にここだけ人が来ないようだ。
「ルーチェさん、私に話とは……?」
目的地に着いたことで喋っても大丈夫だと判断したのか、男の人が口を開く。
「まず、貴方。どうして私がルーチェだと思ったんですか?」
動揺を悟られないように声に抑揚をなくして問いかけると、男の人はキョトンとして固まった。
「何故って見たままじゃ……あっ、変装しなくて大丈夫なんですか? ルーチェさんがこの学園にいるって知れたら、大混乱になりますよ。良ければ、誤認識メガネをお貸ししましょうか?」
サッと鞄からメガネを取り出した男の人に大丈夫だと首を振ると、行き場の無くしたメガネを持ったまま悲しそうに立ち尽くしてしまった。
役に立てると思ったのに、拒否されてしまい凹んでいるようだった。
「き、気持ちは嬉しいんですけど、そもそも私には変装なんて必要なくてですね、」
そこまで言ってからハッとする。
「あの、見たままって、ルーチェは髪は金色ですよね? 私のは見ての通り水色です。それに見た目も全然違うでしょう?」
髪を一束掬って見せても男の人は目を見開いたまま、動かない。
「あのー……?」
もう一度声をかけると、ピクリと肩を跳ねさせた。
「か、かわっ……いえ、もしかしてルーチェさんは普段、幻想形のスキルを使っていらっしゃるんですか?」
突然百点満点の回答を出され、ドキリと胸が跳ねる。
「どうしてわかったんですか!?」
身を乗り出すように一歩近づくと、男の人の顔が少し強張った。
(……ん? 待って、今のって肯定したことにならない?)
またもや失敗してしまったことを悟った私の顔から血の気が引いていく。
「あ、ええっと、今のは何と言いますか……」
「大丈夫です。ルーチェさんのスキルのことは誰にも言いませんから。」
私の不安を察した男の子は優しい笑顔を浮かべて、秘密にすると約束してくれる。
その気持ちは嬉しかった。
だけど、すぐに信用して良いのかわからず、戸惑っていると、男の人はふっと真剣な瞳へ表情を変える。
「……一方的に知られるのは、不安ですよね?」
まるで心を見透かしたような言葉に、息を呑む。
「どうしてスキルを見破ったのか不思議そうだったので、正直にお話します。……実は、私のスキルは『真実の瞳』というもので、真実を見ることができます。基本的にオートなので、それでスキルが効かなかったんでしょうね。」
つまり、私の幻はこの人には通用しないと、そう言うことなのだろう。
(ってことは、この人にはそのままの姿であの衣装を着てたように見えたってこと?)
「うわぁ、恥ずかしい……」
顔を隠すように手を持ってくると、男の人に「どうしたんですか?」と焦ったように聞かれてしまう。
「その、この格好でライブしてたのを見られるのが、恥ずかしいな、と……」
正直に答えると、男の人は訳がわからないと言ったように瞬きを繰り返した。
その反応に私はこの人なら話しても笑われないだろうと、なんとなく思ってしまった。
「……自分の姿に、自信がないんです。」
転生したのに、私は前世と全く同じ姿だった。
もちろん髪と目の色は異世界仕様だが。
私が歌もダンスも好きで、熱心に打ち込んでいたのに、前世でアイドル……芸能人を目指さなかった理由はそこにある。
だから、姿を自由に変えられると知った時の喜びは凄まじかった。
私でもアイドルになれる、そんな夢を見せてくれたのだから。
「こんなに可愛いのにですか?」
「……えっ?」
俯いていた私は男の人の声で顔を上げた。
その瞳は真剣そのもので、嘘をついているようには見えない。
「私が貴女を推したのは、歌やダンスに惹かれたのもあります。ですが、1番は貴女の笑顔に魅力されたからなんですよ。」
「う、嘘……」
「嘘じゃないです。貴女の踊っている時の姿がとても輝いて見えて、勇気をもらえたんです。私にとっては女神様よりも綺麗に見えますよ。」
大真面目に返され、褒められ慣れていない私の顔は信じられないほど真っ赤になっているだろう。
「……それは、褒めすぎです。」
女神様は絶世の美女だったと有名な人だ。
その人を抜いているなんて、お世辞が過ぎる。
それでも嬉しいと思ってしまったのだから、私も単純だろう。
「えっと、貴方が私の正体を言い当てた理由はわかりました。でも、良かったんですか? スキルは秘匿する人が多いのに、私に教えてしまっても。」
恥ずかしさに耐えきれなかった私は、咳払いの後話題を変える。
いくら私を安心させる為とはいえ、安易に話して良かったのかと気になっていたことを聞くと、男の人はその顔に笑顔を宿した。
「はい! ルーチェさんを不安にさせる方が嫌ですから。」
迷いのないその返事にもう疑う余地はなかった。
「ふふ、ありがとうございます。」
「笑っ……!」
完全に落ち着きを取り戻した私はじっと男の人を観察する。
路上でライブをしている時から追いかけてくれてると言っていた。
それなら私も彼のことを知っているだろうと、頭のてっぺんからつま先まで見てみる。
紺色の艶やかな髪にルビーのような赤い瞳。
鼻筋は通っていて、まつ毛は驚くほど長い。
等身は高くて、細身な体からスラッと足が伸びている。
褒めるところしかないようなルックスだ。
(こんな綺麗な人、一度見たら忘れないはずなんだけどな……)
最後に手に持っていたメガネに目を止めて、私は記憶を辿ってみる。
(紺色、同い年くらいの子、それから誤認識メガネ……あっ!)
「もしかして、リアムさん……?」
当たっているか不安になりながら聞くと、男の人の目が驚くほど丸くなる。
「どっ、どうして……!?」
「そりゃあ応援してくれてる人は覚えてますよ。」
予想以上の反応に笑顔で答えると、リアムさんは膝をついて顔を手で覆い隠す。
「に、認知……!」
どうやら喜びを噛み締めているようだった。
「当たり前じゃないですか。握手会にも参加してくれてましたよね。その時もまた来てくれたんですか? って聞いたんですけど、覚えてませんか?」
「もちろん覚えてます! ですが、メガネをしていないのに気づいてもらえると思わなくて! このメガネは見た目を誤認識させるものですから。」
殆ど勘とアイドルとしてのプライドで思い出したようなものだが、ここまで喜んでもらえるとこちらとしても嬉しい限りだ。
「リアムさん、良ければ本名を教えていただけませんか?」
さっきまで見上げていたのに今は私の顔よりも低くなったリアムさんに視線を合わせると、彼の顔がブワッと赤く染まった。
リアムはこの国で1番メジャーな名前だ。
日本で言うところのペンネームに太郎と付けているようなもの。
十中八九偽名だと推測できる。
もう正体もバレてしまっているし、こうなったらお友達になろうと決めた私はリアムさんに名前を尋ねることにした、というわけだ。
(これも何かの縁だよね。)
ニコリと笑顔を作ると、リアムさんは立ち上がって礼を取る。
「改めまして、リアムール王国が第一王子、レオナルド・ディ・リアムールです。」
「………………へ?」
私の聞き間違えかと思い、「第一王子?」と繰り返すと、ゆっくりと頷かれてしまった。
「はい、一応この国の王太子をやらせて貰ってます。」
肯定の言葉に私の頭はショートする。
第一王子といえば、眉目秀麗で才色兼備な完璧王子と名高いこの国最高の権力者。
思えば、私のスキルまで貫通すると言うことは、スキルレベルは紛うことなき5に達しているのだろう。
レベル5は国内でも片手で数えられる人数しか存在しない。
しかもこの国の次期トップ。
(私、凄い人に推されてない……?)
これが事実なのか、夢だと言われてしまったら一瞬で信じてしまうような出来事に眩暈がしてくる。
「ルーチェさん」
「はい!」
突然呼ばれた名前に姿勢を正す。
王子だとわかった今、友達になるなんて烏滸がましい夢はとうに薙ぎ払った。
「もしかしたら、これから学園生活を送る上で貴女の正体に気づく人が出てくるかも知れません。」
「そ、そうかもしれないですね……?」
何を言われるのか予想できず、恐る恐る同意すると、綺麗な笑みを向けられた。
「そうならない為に私が全力で貴女を護衛いたします! よろしいですか?」
「は、はい。………………はい?」
王子の言葉を簡単に否定なんてできない。
それで反射で返事をしてしまった私はその意味を理解した瞬間、すっとんきょうな声を上げた。
「良かった。これからよろしくお願いしますね。」
かくして私の学園生活は最強の護衛と共に幕を開けたのだった。
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