8・ケインと墓標
8・ケインと墓標
昨日も一昨日も、ケインは帰宅していないようだった。フィニアの部屋に泊まり込んだロアリーとレニーは、何度もその話題を口にしていた。
夜が明けて、次の日のお昼前。チャイムの音。
「あら? 誰かしら」
フィニアがドアスコープから確認すると、見知らぬ二人の男だった。
「警察の者です。ちょっとお話を聞きたいのですが」
手前の一人が、手帳についているバッジを見せてくる。フィニアは首を傾げながらも、ドアを開けた。
「失礼します。フィニア・スレッドさんですか?」
「はい」
「ケイン・フォーレンさんが殺害されたことは、ご存知ですか?」
その言葉を、三人が受け入れるまでには、数秒の時間を必要とした。ロアリーが、手前の男に食いつく。
「ちょ、ちょっと、どういうこと!? ケインが殺された!? …アナタたち、本当に警察の人? もう一回バッジ見せて」
食い入るように、二人の警察のバッジを凝視するロアリー。
「…え、中央警察? なんで!?」
「大きな事件だと言うことで、我々が担当することになりました」
「ケインが殺されたって、本当なの? 詳しく教えてよ!」
「一昨日の昼間…街で突然、暴漢に襲われ射殺されました。物盗りの犯行ではないことから、顔見知りの線で捜査しています。それでケインさんのご友人に、いろいろとお話しを伺っている途中です」
「嘘でしょ…!?」
「いいえ…残念ながら。ところで、失礼ですが貴方は?」
「あ。ケインの友人で、ロアリーです。ロアリー・アンダーソン」
その途端、二人の刑事たちが緊張するのが、わかった。
「ロアリー・アンダーソン? 貴方が?」
「そうですけど…?」
「貴方は昨日の夜、ご自分の部屋に戻りませんでしたね?」
「ええ…」
「それは、どうしてですか?」
「どうして、って…。ここに泊まったんだもの」
「貴方は一昨日の昼間、どこで何をしていましたか?」
「…どういうこと?」
沈黙。
「ちょっと、それ、どういうこと! ねえ! 貴方達、何なの!?」
「いえ。ケインさんを射殺した犯人は、金髪の女性だったということで、該当する人には全員、事情を聞いています。…お話しでは、ロアリーさんは拳銃の腕前もなかなかだったとか」
「ふ、ふざけないでよ! 嘘でしょ? バカ! 何よそれ! いい加減なこと言わないでよ! ケインが殺されたなんて、信じられるはずないじゃない!」
慌ててレニーが止めに入る。
「ロアリー、落ちつけって!」
「だってこいつら、適当なこと言って! そんであたしを捜してた? バカ! なんで私がケインを殺さなきゃならないの? なんでケインが死んじゃうの? 答えなさいよ!」
「だから落ちつけってば!」
そこでフィニアが、凛とした声を出した。
「刑事さん。私達はケインが死んだということを初めて聞きました。とても信じられません。彼に…会うことはできますか?」
「すいません。ご気分を害されたのなら謝ります。ケインさんの遺体は一昨日と昨日で司法解剖が終わって、昨夜、身内の方へと引き渡しました。通夜は終わったはずです。早く埋葬してあげたいと言ってたけど…まだ間に合うかもしれない」
「もう埋葬!? 早過ぎませんか?」
「遺体の状態が状態ですからね…」
そして刑事は、遺体が埋葬される予定の墓地を教えてくれた。
「フィニアさん、ロアリーさん。今日は突然ですいませんでした。明日以降、改めてお話を伺いたいのですが、連絡がつく場所にいてくださいませんか? 旅行などは控えていただきたい」
「わかりました。ほら、ロアリー、レニー、行くわよ!」
……。
タクシーを急がせ、教えてもらった墓地へと到着した。敷地内を探す。遠いところに、数人の集団がいた。どうやら今まさに葬儀中のようである。
小走りに、彼らに近づく。遺体が入っているらしい棺はもう地中に降ろされ、土が被せられていく途中だった。
「お、おい、あれ見ろよ!」
レニーの指差すところには、まだ固定されていない墓石があった。その墓碑には「ケイン・フォーレン」の名前が記されている。
「冗談でしょ…。もうやめてよぅ…」
ロアリーは呆然と立ちすくんでいる。一方のフィニアは、必死に冷静を装って、声を出した。
「すいません、ここの責任者の方…喪主はどなたでしょうか!?」
すると、一人の女性が前に出てきた。軽く頭を下げ、お辞儀をする。
「なんでしょう。私、アリア・フォーレンです」
ケインと名字が同じだ。年齢からして、彼のお姉さんだろうか、とフィニアは推察した。
「私たちはケインの友人です。彼が、殺されたと聞いたんですが…本当なんですか?」
「ええ。彼は私の目の前で、殺されました」
「そんな…! 信じられない…」
後ろで黙っていたロアリーが、前に出てきた。
「ケインと…会わせてもらえますか?」
アリアは少し顔をしかめる。
「それは…ご遠慮下さい」
「どうして!? 顔見ないと、死んだなんて、信じられないよ!」
「…遺体の状態が良くありません。その上、司法解剖で切り刻まれました。もう、彼を早く眠らせてあげたいのです。埋葬が普段より早いのもそのためです」
ロアリーは目を大きくして、食い下がる。
「なんで勝手なことするの!? 違うかもしれないじゃん! 人違いかもしれないじゃん! 確かめないと、ダメ、なの、にっ! なんで勝手に埋めちゃうのよ!」
「遺体は…私が確認しました。間違いありません」
「そんなの、わかんないよ! 間違えてるかもしれないでしょ!?」
するとアリアが、今までで一番、大きな声を出した。
「私が彼の身体を見間違うはずないでしょう!? だいたい、貴方はケインの何なんですか?」
「…と、友達、です。あ、貴方こそ何なの!?」
「私は彼の妻です」
一瞬の沈黙。
「妻…?」
「ええ。式は挙げてませんけど、入籍は一週間前に済ませました」
今度は、長い、長い沈黙。
「嘘よ…」
「嘘をついてどうなりますか? 役所で調べてもらっても結構ですよ!?」
「そんな…」
「司法解剖の結果を言いますわ。全身に5発、それとは別に、顔面に大口径の7発の弾丸が撃ち込まれました。だから頭部の損傷が激しく、原型を留めてない状態になっています」
アリアは抑揚のない声で喋っている。いや、敢えて抑えているだけだ。
「嘘、だよ、そんな、酷いこと…」
「これが夫の、身分証明書です。…残念ながら人違いじゃありません」
アリアは、一枚の証明書を出した。レニーと、フィニアも覗き込む。それは見慣れた、バウンティ・ハンターの証明書だった。
「これ! 俺、ケインに何度も見せてもらったぜ! 間違いない、これケインのだよ!」
「うん。それにここの筆跡…ケインのだよね」
そして、ロアリーは。濡れた瞳でその証明書を見つめ続けていたが…震える声で、言葉を紡ぎ出した。
「ごめ…なさい…。アリアさん、その、ごめんなさい。私、無神経なこと言っちゃったみたいで…」
「いえ、私こそ気が動転してしまいました。申し訳ありません」
ロアリーはその場に崩れ落ちた。うずくまって嗚咽し、身体を震わせていたが…限界にきたようだ。
絶叫に近い声を迸らせ、泣きはじめた。
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