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二人  作者: 佐々木 英治


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7・そして。二人から一人

7・そして。二人から一人


 


 彼との逢瀬を重ねて。

 素敵な夜を何夜も過ごし。

 互いの気持ちを確かめ合い。

 二人で市役所へ行ったあの時から、もう1週間が過ぎようとしていた。


 そう。アリア・ランドールは、今はアリア・フォーレンと名乗るようになったのだ。


 その日から数日、彼は仕事で忙しいらしく飛びまわっていたが、今日はようやくゆっくりできるようだ。アリアは、彼と一緒に街へ出た。

「やけに嬉しそうだな、アリア」

「だってケインさんと一緒なんですもの」

「そのうち飽きるようになるさ」

「そうかしら?」


 彼の左腕を取る。彼の左脇が、膨らんでいることが、アリアは気に入らなかった。そこには、ホルスターに拳銃が入っているのだ。

「ケインさん。ハンターの仕事…やめてくれませんか?」

「なんだい、急に」

「危ないこともあるのでしょう? この銃が使われるような時のこと…考えたくありませんわ」

「うん」

「家もあるし、お父様たちが遺してくれた遺産もあるから、贅沢をしなければ生活には困りません。だから…」

「…そうだな。これを機に、考えてみてもいいかな」

「嬉しい!」

 アリアは子供のように、ちょこんと飛び跳ねた。


 彼と並んで、喋りながら歩いた。話題は、もっぱら結婚式のこと。式場はどこにしようか。ウェディングドレスはどれにしようか。そう、入籍は済ませたものの、式はまだ挙げてないのだ。

「しかしいきなり結婚なんて言ったら、俺の友達は驚くだろうな」

 彼は少し、苦笑していた。


 その帰り。近道をと、横路へ入る。

「ケインさんは…子供、好きですか?」

「うん」

「良かった…。わたし、一人っ子だったし、小さい時からお父様が仕事で家を空けることが多かったんです。広い家ですのにね。だから寂しくて…」

「賑やかな家庭がいい?」

「ええ」

「じゃあ子供は…三人とか」

「四人がいいわ。男の子が二人に、女の子が二人」

「アリアも頑張らないとな」

「そんな…」

 誰も人通りのない裏道だったので、アリアは、彼と軽くキスをした。 


 幸せだった。一体感。満足感。

 この幸せが、ずっと続いて欲しい…。


 しかし、アリアが彼の左腕を取って、歩き始めた時だった。

 少し先の曲がり角から、一人の女性がやってきた。金髪の、素敵な女性。


 その瞬間。彼の腕が硬直した。

「!」

 彼は、大きく口を開けたまま、凍り付いていた。一方の、金髪の女性も、同じように驚愕の表情で凍り付いている。


「…どうしたのですか?」

 アリアの言葉が、引き金となった。

 彼は突然、アリアの腕を振りほどき、後ずさりを始める。


「お前…わああぁあっ!」

 金髪の女性は絶叫し…ハンドバッグから黒く光る物を取り出した。

 拳銃だった。


「ま、待て! やめろ、撃つな!」


 しかし。そして。

 轟音。


「っ…!?」

 彼が、胸を押さえ…血を吐き出した。


「ケインさん!」

 アリアの声に重なって、女の声。

「殺してやる、殺してやるっ!」

 暗黒の音が、続けて鳴り響いた。彼の身体が、何度も何度も、踊るように、弾ける。


「いやああぁあああっ!」

 絶叫。アリアは無我夢中で、彼と、金髪の女の間に割って入った。


 銃口が、こちらを向く。

「…ぁ」

 引き金が…引かれる。


 ガチッ…。


 沈黙。


 不発だったのか、弾切れだったのか。


 だが息つく間もなく、女が、突進してきた。アリアは跳ね飛ばされ、尻餅をつく。

「殺す、殺すっ!」

 女は、仰向けに倒れた彼の上に馬乗りになった。そのまま獣のように吼えながら、銃の台尻で、彼の顔面を殴りつけている。

 彼は弱々しく両腕で防いでいるが…


「やめ、やめてぇ! 誰か来て!」

 アリアが叫ぶ。

 女の動きが、一瞬止まる。しかし…


 女は、彼の胸をまさぐり、左脇のホルスターから彼の拳銃を引き抜いた。


 …安全装置が、解除される。


「死ねっ!」

「だめええええええっ!」


 女はそのまま至近距離から狙いをつけ、彼の顔面へ連射した。重い音が、何度も何度も鳴り響く。

 いくつもの空薬莢が、地面に跳ねた。


 …彼は、完全に、動かなくなった。


「いやあああああっ!」

 アリアの絶叫に、金髪の女は、自分の拳銃とハンドバッグを回収してその場から走り去って行った。


「ケインさん、ケインさんっ!」

 彼は動かない。血まみれだ。

「ケインさん! 返事をして、ケインさんっ!」


 その頃、騒ぎを聞きつけた人達が、集まり始めた。途端に人だかりができる。

「ケインさん! 死んじゃイヤ、ケインさんっ!」

 彼にすがりついて、泣き喚き続けた。


 誰かが通報してくれたらしい。しばらくすると、警察と、救急車が来た。

 救急隊員の人たちが彼を救急車へと運ぶ。

「わ、わたしも付き添います!」

「そんな状況じゃない! お嬢さんは…警察の車に乗って!」

 救急車はすぐに走り去って行った。アリアは警官に促されるままにパトカーに乗る。車内で、軽く質問を受ける。何があったのか、という問いに、アリアは「よくわからない」と答えるしかなかった。


 どうしたの? 夫が、突然撃たれました。何故? わかりません。犯人はどんな人物だった? 女でした。金髪の。…わかった。病院へ急ぎなさい。


 病院へは、パトカーが送ってくれた。運転する警官は、時折、無線で何か通信する以外には何も喋らなかった。

 救急病院へと到着。警官が病院のスタッフに事情を説明してくれたので、話は簡単に通った。


 混乱、絶望感、そして孤独感。アリアは祈った。彼の無事を、強く、強く祈った。


 だが。


 数分後。


 


 アリアは、夫が死亡したことを告げられた。


 


 


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