6・ロアリーと愛しい人
6・ロアリーと愛しい人
「こんにち、わーっ。ケイン、今いい…?」
フィニアと一緒に、ケインの部屋を訪ねたロアリーは、恐る恐る聞いてみた。しかし…
「ああ、ロアリーにフィニアか。すまない、今日もこれから出かけるんだ」
「えーっ!? 今日も? 最近、よく出かけるじゃない…」
「忙しいんだよ」
「何してるの?」
「ハンターのライセンスがね…。昔のは写真がついてなくて不便だから、今回の更新で、新しいカードタイプのに変わるんだ。それで、いろいろとな」
「ふーん…」
「じゃ、ちょっと急ぐから」
ケインは部屋の鍵を閉めると、足早に去って行った。
「……」
ケインの背中を見つめ続けるロアリーに、フィニアが声をかける。
「ねえロアリー…カフェにでも行かない?」
「うん…」
いつもの、不愛想なウェイトレスがいるカフェへと足を運んだ。ロアリーはかなり沈んだ気分のようで、ため息をついている。
「ロアリー、どうしたの?」
「ねぇフィニア。最近ケインって、何かヘンだよね」
「うん…」
「やっぱり…、女、なのかな」
ロアリーは呟くように言う。フィニアは、慌ててそれを打ち消すように、声を出した。
「ほ、ほら。わかんないわ。バウンティ・ハンターの、ライセンスが更新されるって言ってたし」
「フィニア。私に気を使ってくれなくてもいいよ…。私、アタマ悪いけど、それくらいわかる。免許の更新するだけで、あそこまで忙しくはならないわ」
…気まずい沈黙。
「やっぱり、私じゃダメなのかなぁ…」
ロアリーの、いつものポジティブさが、すっかり影を潜めている。
「そんなことは…」
「きっとケインって、私みたいな騒々しいのじゃなくて、お淑やかな人が好きなんだよ」
「……」
「考えてみれば、私、ケインのこと、ほとんど知らないし」
彼女は無理に無表情を装っているので、逆に、見ていて痛々しい。
「私の知らない所で、私の知らない女の人と仲良くなってても、不思議じゃないわよね…」
しばしの沈黙の後、ロアリーは、急に声を出した。
「…ねえフィニア」
「ん?」
「本当のところさ。フィニアって、ケインのことどう思ってる?」
いつもとは違う、真面目な顔だ。はぐらかすことは、できそうにない。
「好き、よ。これは絶対に本当。でも…」
「でも?」
「実は私、ケインのこと…怖い」
「怖い!?」
「うん。とっても怖い」
「なんで?」
「彼は…違うもの。私達とは」
「……」
「考えていること。見てきた世界。行こうとしている場所。求めているもの。…ケインは全部、私達とは違う。そんな気がするの」
「うん」
「彼はその気になれば、顔色一つ変えずに、赤の他人を殺せる。そんな気がする。考えすぎかな?」
「わかんない…」
「私がケインのことを好きなのは、本当よ。彼、もともと素敵だし。一緒にいて、いろいろおもしろいし。でも、やっぱり心のどこかが、彼を怖がってるの。おかしいかな」
「フィニア、それってさ…」
ロアリーは、ふと思い立って、聞いてみた。
「『畏怖』、に近いんじゃない?」
「『畏怖』? あぁ、そうかもしれない。そう、そうよ。近づき難い感じだもの。特に二人っきりになった時なんて、ピリピリする。落ちつかないわ。近寄るのも怖いし、かと言って嫌われるのはもっと怖いし…」
「あー、なるほど。それで…。『落ちつく』レニーのことが好きなわけか」
少し茶化すと、フィニアの対空砲が猛然と火を吹いた。
「そりゃ落ちつくけど、アイツはダメね。頼りないし、ハッキリしないし、奥手だし、気の利いたセリフも言えないし。服装のセンスもないし、プレゼントの趣味も悪いし、嘘ついても顔でバレるし。部屋も片付いてないし、お酒飲むと先に寝ちゃうし…、…って、なに笑ってるのよロアリー!?」
「んー、別にぃ」
愛嬌が良く、誰にでも好かれるフィニアが、他人にここまで辛口の評価をするのは初めて聞いた。もう「身内」と捉えているせいだろうか。
しかし、再び沈黙。今日は会話が弾まない、というか、明るい話題にならない。一体、誰のせいだろう!?
「ねえフィニア。もしさ、もしケインに恋人でもできてたとしよう」
「うん」
「ケインも、彼女に惚れたとしよう」
「うん」
「相手は…どんな人だと思う?」
それはちょっと想像つかなかった。ケインが、女性に惚れる? どう考えても想像つかない。少なくとも、相手と、対等なパートナーシップという立場ではないだろう。
「相手か…。そうね、彼の言葉を使おうかな」
「ん?」
「『負のエネルギィの少ない人』、だと思うよ。…よくわからないけど」
「わからないよねぇ…」
またも沈黙。やはり、会話が弾まない。
「ロアリー。それでさ。もしケインに恋人ができていたら…貴方、どうする?」
彼女は俯き加減で、答える。
「どう、しようかなぁ…」
「諦められる?」
「それしかないじゃん…。まあ友達として、近くにいると思うけどさ」
「ああ、良かった。意外とまともね」
「ん?」
「直情的なロアリーのことだから…包丁でも振りかざして、『ケインを殺して私も死ぬぅ!』とか言い出すかと思った。安心したわ」
「まさかぁ。それにね…」
ロアリーはクスッと笑った。
「ケインに包丁一本で向かってくほど、私バカじゃないわ」
「え。ケインって、そんなに喧嘩強いの? なんとなく聞いてはいるけど」
「ボクシングってガラじゃないけどね。柔術っての? 殺人的っつーか芸術的っつーか…。一回見たことあるんだけど、うん、あれはまた見たいな。ケインの投げ技? よくわかんないんだけど、こう、フワッ、ときて、ストンって感じなの」
「うん、よくわかんないわね」
ロアリーは苦笑して、そして言った。
「ケインに勝つには、最低、拳銃がなきゃダメだよ」
次へ
戻る




