4・レニーと拳銃
4・レニーと拳銃
ケインは最近、出かけることが多くなっているようだ。バウンティ・ハンターの仕事なら手伝おうかとレニーは申し出たのだが、ケインは「仕事じゃないよ」と言って出かけて行く。そして夜になっても、帰らないこともしばしばだ。
フィニアやロアリーと一緒に、ケインの部屋に集まるのが楽しみなレニーにとって、それは少々悲しい変化であった。
ケインが今日も出かけるというので、行き先を訊ねたところ、射撃練習場だと言う。仕事でもなんでもなく、ただ銃の腕が錆びないようにするためだそうだ。
「一緒に来るかい?」
と言うケインの言葉に、レニーは強く肯いていた。レニーも拳銃の携帯許可は受けている。だが腕はかなり下手だ。
練習場で、レニーは一心不乱に、的に目掛けて発砲した。…相変わらず、あまりうまくない。以前、腕前をロアリーと競ったことがあったのだが、8割方、負けたものだ。
一方、隣のケインは、ゆったりとしたフォームから…ほぼ連射で、的を射抜いていた。5発撃ち、的の中心に全弾命中。片手で撃っているのに、着弾のブレがほとんどない。これには、顔見知りのインストラクターも驚いている。
「よおケイン…相変わらずだな。そんな腕を持った連中、滅多にいないよ、俺にもできるかどうか…」
悪戦苦闘していたレニーは、息抜きに、そのインストラクターに訊ねてみた。
「そんなに凄いの?」
「ああ。精度の高い銃を、両手で持って、ゆっくり狙ったのなら、この距離で当てても自慢にはならんがね」
確かに、周りには、もっと遠い距離で当てている人間もいた。
「でも他のヤツとは、使ってる銃が違う。ケインの銃は、古い、いわゆる『チーフスペシャル』…基本的に護身用の銃だな」
「どう違うんだ?」
「バレル(銃身)が極端に短いだろ? 精度も良くないし、狙撃するには向いてない。装弾数も5発のリボルバーだ。女性や、私服の刑事がよく使う銃だ…銃自体が小さいから、簡単にコートのポケットにも入る」
「へぇ…」
「なあケイン。お前はなんで、その銃にこだわる? 俺は、オートマチックで、精度が高いヤツをお薦めするが」
インストラクターの言葉に、ケインは軽く首を振った。
「銃撃戦なんて、御免だ。俺はあくまで、護身用に持ってるだけだからな」
「まあな…お前さんの腕なら、オートマチックのジャミングの方が、心配かな?」
「ああ。でもオートマチックが嫌いなわけじゃない。部屋にはオートマチックも置いてある。だが…持ち運ぶには、これくらい小さな銃が丁度いい。どうせ使う機会なんてあまりないんだ」
「成る程な」
「それに…」
ケインは弾を込め、再び連射で的を射抜くと、言った。
「…拳銃では小銃に勝てない」
「?」
「小銃では、戦車に勝てない」
「…?」
「戦車では、地雷にも、攻撃戦闘機にも、核兵器にも勝てない。要は…戦う相手、そして戦い方の問題さ。あるいは…戦わずとも、勝つことはできる」
インストラクターは、軽く肩をすくめる。
「お前さんの言うことはよくわからんよ…。そうだケイン、最近はあの美人、連れて来ないのか?」
「誰のことだ?」
「金髪で、明るい女さ。ほら…レニーより腕が良かったあの子」
「…ロアリーのことか?」
「そう、彼女!」
「いや、連れてきたことは一度もないんだが…。あいつが勝手についてくるだけでさ」
「たまには連れてこいよ。教えるほうも楽しい。彼女はいいセンスしてたしな。…ほらレニー。オートマチックは、反動を殺しすぎるとジャムるぞ。力も入りすぎてる」
的に向かって撃っていたレニーは「了解」と返事をすると、ぎこちない手つきで弾倉交換をし、再び、向き直った。
ケイン程の腕前でなくともいい。何かの時に彼をサポートできる程度の腕が、欲しかった。
よく狙って…撃つ。撃つ。撃つ!
的には当たるものの、どうしても着弾点がバラけてしまう。
「わかってると思うが…採点しよう。まあまあ、だな」
インストラクターがニヤニヤ笑って言う。
そう、『まあまあ』という評価。レニーはどの分野のどんなことでも、大抵、この評価をされる。ロアリーと腕を競った時もそうだった。
彼女は的を「外す」ことも多かったけれど、ケインの視線が彼女を捉えた時だけは、異様な集中力を発揮して的の中心を射抜いていたものだ。ムラがあり、不安定ではあるが、本番に強いタイプである。
だがレニーは、どんなに集中しても、あるいは普通に撃っても、差がほとんどない。コンスタントに成績が出る…と言えば聞こえはいいのだが、爽快感や達成感が感じられないのが悔しい。
「考え方の問題だよ、レニー」
ケインが、まるで心を読んで答えたかのように、言った。
「お前は全体的にダメか、全体的に普通か、全体的にいいか、そのどれかになれる。…どれになりたい?」
「…最初のはイヤだな。でもとりあえず、ロアリーに勝てるレベルにはなりたい」
「なれるさ」
ケインは僅かに笑みを浮かべながら、言った。
「ロアリーは逆に、『どうしたらコンスタントに当てられるようになるかなぁ?』って、俺に聞いてきたんだぜ」
「へぇ…。そんなもんかねぇ」
そこでインストラクターが、質問した。
「ケイン。それであのお嬢さんに、なんて答えたんだい?」
一呼吸ほど、間を置いて、ケインは答えた。
「『コンスタントに集中力を出せ』」
次へ
戻る




