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二人  作者: 佐々木 英治


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 3・二人の接近

 3・二人の接近


 


 その次の週。場所は再び、いつもの公園。

 いつものように読書をするアリアに、先週の彼が近寄ってきた。確か名前は、ケイン・フォーレン…

「こんにちは、ランドールさん」

「フォーレンさん、こんにちは…」

「良かった、憶えていてくれましたね」

「ええ…。今日も、絵を描いてらしたの?」

 すると彼は、どこまで本当かはわからないが、ゆっくりと否定した。

「いえ。今日は貴方に会いに来たんです」

「私に?」

「お時間を頂いて、構いませんか?」

「ええ…」


 彼はアリアの目を見つめながら、言う。

「貴方はクリスチャンでしょう?」

「そうですわ。…おわかりになりますの?」

「お会いした時はいつも、十字架を身につけていらしたので」

 胸元のネックレスを、指差す。

「ええ…。でも、あまり信心深くはないですけど」

「だけど貴方は確か先々週、仏教思想の本を読んでいた。そして先週は禅だった。それが気になりましてね」

 アリアは苦笑した。と同時に、彼の観察力に少し驚いた。

「いえ、少し、興味を惹かれたもので」

「私も、仏教については多少知識があります。クリスチャンの視点から見て、どこに興味を持たれました?」


 アリアは少し悩み、そして答えた。

「『神』と、そして『救済』についてです。キリスト教の『神』の概念と、仏教の『神』の概念が、まるっきり逆だと言うこと。そしてキリスト教の救済は『永遠の生』であることに対し、仏教の救済は『永遠の死』であるということ…」

「クリスチャンからすると、その仏教思想は、不思議なのでは?」

「不思議です。ええ。だから…ちょっと興味を持ったんです」

「素敵だ」

 彼が呟くように言った。


「え?」

「自分の思想に、相反する思想を見て、『興味深い』と思えるセンスは、素敵です」

「ど、どうも…」

「でも今日読んでいるのは童話ですね。何か心境に変化でも?」

「いえ、これは、別に…」

 確かに、心境に変化はあったのだが、何も言わないでおいた。

「そうだランドールさん。どうせだからお茶でもしませんか? 近くにいいカフェがあります」

 …アリアには、断る理由が思いつかなかった。


……。


 近くのカフェ。ウェイトレスが丁寧にコーヒーを運んでくる。

 アリアは、正直かなり緊張していた。もともと対人関係が苦手なのだ。必死で話題を探す…。

「あの、フォーレンさん?」

「ケインでいいですよ」

「そ、それでは私のこともアリアと呼んでください」

「わかりました」

 アリアは、目の前の男のことを、こっそりと凝視した。彼は緊張していないようだ…少なくとも、私よりは。

「アリアさん、それで、なんでしょう」

「え? あ、あぁ! えーと、ケインさんは、お仕事は何をなさってるんですか?」

 すると彼は、苦笑を浮かべた。

「うーん、どう言えばいいのかな。まあ、いろいろやってるんですが」

「と言うと…?」

「探偵のようなものですね。あ、『バウンティ・ハンター』のほうが、好感を抱いてくれるかもしれない」

「バウンティ・ハンター?」

「容疑者が、保釈金を払って留置場から出てくる。でもそのまま逃げるヤツがいる。彼らの身柄を、できるだけ無事に確保するのが仕事です。あぁ、ライセンス、見せましょう」

 彼は古びた証明書を、取り出して、見せてくる。


 バウンティハンターの免許証だった。


 ケイン・フォーレン。28歳。と表記されていることを、アリアはそっと確認した。

 彼のほうが年上だ。私のほうが年下…一つだけ、だけど。


「コレ、古いでしょう? 保険証と同じで顔写真が載ってないから、ちょっと不便なんですよね。まあ身分証だったら、車の免許を見せればいいわけですけど」

 彼は車の免許証も取り出した。こちらは、顔写真が貼られているカードタイプだ。当然のように、そこには目の前の男の顔写真と、それから「ケイン・フォーレン」の名前も載っていた。

「車の免許に比べて、不便なんですよね、ハンターの免許のほうは」

「あぁ…顔写真がないからですね?」

「そう。だからこのハンターの証明証、もうすぐ新しいカードタイプのに切り替わるんですよ。それで面倒なことが少なくなる」


 それから少し、世間話をした。彼が話題を振ってくれたので会話は弾んだほうだと思う。


 天気の話、季節の話、近くでやっている工事の話。そんなどうでもいい話。でも、何故かどれもがおもしろい。とっても楽しい。


 しかし、楽しい時間はすぐに去ってゆき、彼の表情が、少し曇った。

「コーヒー、もう飲んでしまいましたね」

「ええ。それがなにか…?」

「もうすぐ、お別れだ」


 しばし、沈黙。


 再び、彼が口を開いた。

「貴方に、また会いたいんですが」

 アリアは、さっきコーヒーを飲んだはずなのに、口の中が渇くのを感じた。

「私…、私も、です」

「良かった。なんせ、会ってすぐですからね。軽い人間だと思われないか心配でした」

 アリアは頬を染める。

「それ、私もです」

 二人で、軽く笑った。


「じゃあアリアさん。次はいつ会えますか?」

「私のほうはいつでも…。明日、なんて言うと、ケインさんに軽い人間だと思われますか?」

「いえ全く。俺からその提案をするところだった」

 くだけた雰囲気で、彼は言った。アリアは胸を撫で下ろす。


 ではそろそろ出ましょうか、という雰囲気になったところで、アリアは思い切って聞いてみた。

「あの、ケインさん。少し…いいですか?」

「なんでしょう」

「どうしてケインさんは、私みたいな、ごく普通の女に、興味を持ったのですか?」

「…さあ?」

「ケインさんほどの、その、容姿なら、女性に困ることはないでしょう? 私みたいな、あまり綺麗じゃない女を、どうして…」


 すると彼は、やや怒ったような表情を見せた。

「確かに私の容姿は、今の社会の美的感覚から見て、悪くはないでしょう。でも、ただそれだけです。そして容姿うんぬんは、貴方にも同じことが言えます。今の美的感覚から見て、悪くない。容姿なんて、ただそれだけです」

「でも…」

「正直、見栄えのいい女性から誘われることはしょっちゅうです。でも彼女たちは、俺の心を動かしはしない。外見ばかり気にして、内面を見ようとしない。嫌気がさします」

「…ごめんなさい」

 ついアリアは、謝った。一方の彼は、真面目な顔で、だが優しい声で、言う。


「アリアさん。俺は、貴方の外面的な部分だけを見てるわけじゃない。内面的な部分に触れ、そこにも興味を持った。…そういうことです」

「ごめんなさい…」

 謝りはしたが、しかしアリアは、清々しい気持ちになっていた。


 そして二人は、明日の夕方にまた会う約束をした。


 


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