2・フィニアとお酒
2・フィニアとお酒
「ねぇええええ。フィニアああぁ…フィニアってばぁ!」
「もう…!」
目の前で、酔っ払い始めた親友の姿を見て、フィニア・スレッドはため息をついた。
時刻は夕方を過ぎた頃。場所はロアリー・アンダーソンの部屋。
親友同士のフィニアとロアリーは、食事の準備や片付けの手間を省くために、時々、互いの部屋に行くことにしている。そして泊まり込みで、夜中まで語り合って友情を暖めるのだが…今日は、何がいけなかったのだろう。
夕食の、ロアリーが作ったピザは美味しかった。料理があまり得意でない彼女だが、何故か最近はパンやピザばかり作っている。「後片付けしなくて便利でしょ?」というのがロアリーの言葉だったが、実際の理由は他の所にあると、フィニアは推測していた。
そう、今日はいつにも増して、ピザが美味しかった。生地がうまくできたのだろう。それを褒めた。それがいけなかったのかもしれない。この親友はすっかり舞い上がって、お酒を飲み始め…できあがってしまったというわけだ。
「はいはい。今度はどうしたの、ロアリー」
「聞いてくれる? 嬉しいよぅ…」
目に涙を浮かべているロアリー。
綺麗な金髪で、背はやや高く、碧く澄んだ眼。何より、整った顔立ち。彼女は「美人」の範疇に入るのだが…こうも泥酔していては台無しだ。
「聞いて、聞いて。この前さぁ、物凄い失敗しちゃったのよぉ…」
「なによ、何の話し?」
「この前ね、ケインの部屋へ行ったのぉ。そしたら、ケインが出かけるって言うからね、私がお留守番したの」
「へぇ。それで?」
「でも私、部屋に鍵かけたまま寝ちゃって、ケインは窓から帰ってくるし、私はケインのシャツでヨダレ拭いちゃうし、ケインはミースばっか相手にするし…」
「わけわかんないわよ…。ミースって、確か白いネコよね。あなた、猫に嫉妬してるの?」
「ミースは私を嫌うんだよぉ…! カラスにも襲われてさぁ!」
「わかったわかった。わかんないけど、わかったから。もうお酒はやめなさい」
「はぁ~い…」
やれやれ。フィニアは天井を見上げた。
「もう…。なんでどいつもこいつも、ケインケインケインなのよ。愚痴りたいのはこっち。もう聞き飽きたわ」
「えぇ!? ねえフィニア。私の他にも誰かケインに入れ込んでる人、いるの?」
「いっぱいいるわよ!」
フィニアはつい、語気をやや荒くした。
「でも例えばレニーね。二人でデートしててもケインの話題でいっぱいよ。街で、絵を見かけては『ケインの部屋にちょうどいいな』って言うし、ティーカップを見つけては『あいつ食器持ってないんだよな』って。それにレニーは最近、ケインの、バウンティ・ハンターの仕事も手伝い始めたし。もう、ベタ惚れって感じじゃない? 男同士で、もう!
一度、彼に皮肉を言ったのよ。『私とケインと、どっちと会えなくなるのが寂しい?』って。そしたらレニーってば、本気で考え込んでるのよ? ねえロアリー、信じられる!?」
普段は愛嬌たっぷりのフィニアが、今、蓄積されていた苛立ちを放出している。その貴重なシーンを目の前にして、ロアリーは少し酔いが醒めた。そして酔いの醒めた頭で考えて…言った。
「よしフィニア、飲もう!」
総動員体制・発令だ。おつまみも用意される。
「クラッカーがあったはず。お酒は…ワインじゃダメよね。ウイスキーにしよう。何で割る? コーラとソーダとオレンジジュースがあるよ」
「水割りでいいわ」
「フィニアはいつも通り、薄めでいいの?」
「ダブルにして」
「…本気だね」
だが妙に喜んでいるロアリーは、オーダ通りにウイスキーを作って、手渡してくれる。
グラスをカチンとぶつけあった。
……。
飲みながら。年頃の女性につきものの、色恋沙汰の話題で、少し盛り上がった。
「でもロアリー。ケインって競争率高いわよぉ?」
「ふにゃ? やっぱりそうかぁ」
「ケインに気がある女の子、私の知る限り並べてみようかしら。ベティとビッキーとリィズは公言してるわね。あとは、リディアなんか強敵じゃない?」
「むぅ。ヤツまでケイン目当てなのか。…どーりで最近、ケインがよく行ってる喫茶店で、みんなの姿を見るわけだ…」
「意外なところでハンナ。彼女は奥手で何も言ってないけど、彼女もケインに惚れてるわね」
「む…ハンナは強敵だなぁ。ケインって、こう、派手な人は敬遠してるみたいだから。でも気立てのいい人のことは褒めてるもん。…でもハンナはアプローチしてないからね。まだ私の有利は揺るがないわ」
ロアリーは、自分に言い聞かせるように呟いている。
「じゃあ…一番の強敵の存在を教えてあげよう」
「え? 誰、誰?」
「水割りくれたら教えるわ。ダブルね」
酔いのせいで、いつもと違う態度なのが、自分でもわかる。だがロアリーのほうはいつになく上機嫌だ。あれも酔いのせいだろうか。あるいは、酔ったフィニアという貴重なシーンを見れるのが嬉しいのか…。
「はい。作ったよ。で、誰? 教えてよー」
ロアリーがウイスキーを手渡してくれる。フィニアは、ニッコリ笑って答えた。
「…フィニア・スレッド」
一瞬の、沈黙。
「えー!? 冗談でしょ!?」
「あら。私だって、そりゃあケインのこと、好きよ」
「…と、友達として?」
「男性として、好きよ」
するとロアリーは涙ぐみ…また泣き出した。
「ふにゃああ! フィニア相手じゃ負けちゃうよー! ケインって、フィニアみたいなのがタイプだって言ってたもん!」
一方のフィニアは…笑い出した。こちらは笑い上戸だ。
「あはははは。嘘、嘘!」
「嘘なの!? ひどーい…!」
フィニアはころころと笑うと、小さな声で、呟いた。
「まあ…まるっきり嘘ってわけでもないんだけど」
「え? なに?」
「なんでもなーい」
そしてフィニアは、残っていたウイスキーを、一気に飲み干した。
次へ
戻る




