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この中に『光の巨人』の方はいらっしゃいませんか?

 

 一度立ち止まり、爛爛と輝く太陽を見上げる。

 噴き出た汗が首筋を伝い砂漠へと落ちる。


「太陽系以外にも太陽ってあるんだな」

「もしかしたらマスターのいた世界と、この世界は並行世界の関係性なのかもしれませんね」

「並行世界かぁ……」

「まぁ、あくまでも仮説です。何光年先かにある銀河系からここへ飛ばされた、と考えるよりも、世界線の壁を超えてここに来たと考える方が合理的なんですよね」


 確かに感覚としては納得できる。

 長距離を移動したというよりかは、コインの表と裏がひっくり返ったかのように一瞬だったからな。

 ただ、ここが仮に並行世界だとしても、俺がこの世界に来た理由はなんだ?

 魔王でも倒せばいいのか?

 

「その辺りはもう少し情報を集めてみないと私にも分かりませんね。何せ、700年ぶりに意識を取り戻したので」

「700年ッ!?」

「はい。私以外の【機械生命体(テクノロジア)】が機能を停止したのを確認してからずっと700年間寝てました」

「この寝坊スケさんめ」

「てへっ」

「ちゃんと可愛いな」

「へけっ」

「ハムタロサァン!?」


 そうこうと砂漠を歩いていると、少し遠くに巨大な建造物群が見えて来た。

 

「……何だあれ」


 それは途轍もない程の圧を放っていた。

 巨大なコンクリート壁に囲われた近代チックな都市。

 その中には幾つもの高層ビルが立ち並んでおり、色取り取りのネオン光がそこらかしこで輝いていた。

 建物間を良く見ると、その間を飛行する車の様なものや、箒に跨った人間らしきものが凄まじい速度で行き交っていた。

 差し詰め、サイバーパンクとファンタジーを足して2で割ったかのような景色がそこにはあった。


「……すげぇ規模だな」

「あれですね……700年前の私の予測ですと、【機械生命体(テクノロジア)】が滅んだ後、四界連合は絶対に内ゲバして崩壊すると思っていたんですけど……そんな事もなかった様ですね」

「ちょっと悔しそうだな」

「そうですね――――――ちょっとぶっ殺したくなってきました」

「マキアさん落ち着いてッ!!!」


 プルプルと体を震わせるマキアを何とか宥め、肩車をしながら歩みを進めた。


――――――――――――


 都市の方へと近づいて行くと、何やら関所の様なものが見えて来た。

 その建物の前には衛兵だろうか?

 全身が機械で構成された白い機械衛兵が仁王立ちしていた。

 そして、その機械衛兵はこちらの存在に気がつくや否や、手に持っていたライフルに似た何かをコチラへと向けてきた。


「マキアさんッ!ヤバいよこれッ!」

「安心してくださいマスター、私に名案があります」


 そう言うと、マキアは両手を大きく上に挙げる。


「――――Heyッ!そこのNICEボディの衛兵さんッ!ちょっとお茶でもしませんか!」

「マキアさァァァァァァァァンッ!!!それはまずいです……よ?」


 すると、声をかけられた機械衛兵はゆっくりと銃口を下ろし、右腕を上げた。


「――――Hey彼女ッ!いい声してるねっ!!!」

「ってオイッ!!!ノリノリじゃねーかッ!!!」


 ツッコミをかます悠馬の顔を見下ろしながら、マキアはドヤ顔で右手の親指を立てた。


――――――――――――


 機械衛兵が立つ関所前まで来ると、監視カメラが至る所に設置されているのに気がついた。

 監視カメラは機械音を鳴らしながら首を振り仕事を続けていた。


「こ、こんにちは」

「こんにちは。二人はどういった要件で四界(しかい)都市に?」


 体長3メートルはあるであろう巨大な機械衛兵は悠馬の顔を覗き込みながら問う。

 顔の中央には大きな赤いカメラレンズの様なものがあり、映画の前に出て来る例のアノ人に似ていた。ノーモア、不法侵入者。


(どうするマキア? 観光とかでいいか?)

(そうですね、一旦その案で行きましょう)


「いや~、俺ら観光で来たんですよね〜」

「ほう、観光ですか……妙だな、その割には随分と軽装の様に見えるが?」


「必要な物は旅先で揃える方がいいかなぁ〜って」

「なるほど……いや、妙だな。ここら一体は砂漠地帯。水の一つも持たずに徒歩で観光か?」


「そ、そうですね。体を改造しているのでその辺りはいい感じなんですよねッ!」

「ふむ……しかし、妙だな。その割には生身の割合が多い様に見えるが?」


「いやぁ〜内臓部分を機械化してるんですよね〜ははは」

「ほほう……いや、妙だな。本国の方では、最近の流行りは外部骨格の改造と聞くが?」


「自分、流行に疎くて〜」

「ふむ。実は俺も流行には疎い方なので分かるぞ……いや待て、妙だな。内臓機能だけを改造する程マニアックな君が流行を知らないとは考えにくいが?」


(マキアさんッ!この機械衛兵、滅茶苦茶しつこいんだけどッ!ヒロ◯キかよッ!)

(任せて下さいマスター。今の会話で色々と情報が落ちたのでいけます)


 マキアは一歩前へと出る。


「すみません、観光というのは嘘です」

「……ほう?」

「実は私たち訳あって元いた場所に居られなくなってしまいまして」

「なるほど、実は難民だったと」

「……はい。嘘をついてごめんなさい」


 マキアは目をウルウルとさせながら機械衛兵の顔を見上げる。


「……ふむ、であれば問題はない。ここ四界都市は、何処にも居場所が無かった放浪者や、本国を追放された異端者達が集い作りあげた都市だ。もとより難民は受け入れている」

「本当ですか!?」

「あぁ。かく言うこの俺も本国で居場所を失った身でな」


 そう言うと、機械衛兵は監視カメラの方を向き小さく頷いた。

 すると、ガリガリと砂を押し除ける音を鳴らしながら、重厚な扉が左右へと開いた。


「まずは中央にある総合管理施設『オナホ』を目指すといい」

「ご親切にありがt……ん? 今なんて!?」


 突然に出てきた、親の声よりも聞いた単語に悠馬は困惑した表情を浮かべる。


「『オナホ』だ。一際大きなビルがあるからすぐに分かる」

「お、おっけーです。『オナホ』に行けばいいんですね?」

「そうだ。『オフィシャル・ナェイション・ホールディングス』だ。そこで難民申請ができる」


 それ『オネホ』でいいだろッ! 『ネ』の音をごり押しで『ナェ』にすなッ! 意識高い系の使う英語かよッ!……ん?英語?


「あぁ、そういえば。最近は一部市民が違法薬物で【宇宙生命体(ヴォイド)】化して暴れてるみたいだから気をつけるといい」

「……あっ、し、親切にありがとうございます」


 悠馬とマキアは頭を下げ感謝の意を示した。


「なにいいってことよ。困った時はお互い様だからな」

「そう言えば名前は何て言うんですか?」

「ディザスターノヴァだ」

「……なんて?」

「ディザスターノヴァだ」


(マキアさんッ!この人絶対裏ボスかなんかだよッ!)

(気持ちはわかります。ですが落ち着いて下さい。もしかしたら平和主義的な優しいディザスターノヴァさんかもしれません)

(優しいタイプのディザスターノヴァって何だよッ!)


「へ、へぇ〜。凄くかっこいい名前ですね」

「あぁ。母曰く『この世の支配者になる男の名前』らしいぜ」


(これ絶対ヤバい方のディザスターノヴァさんだよォオオオオオオ!!!物語中盤で急に存在感出し始めて、後半で一気に来るやつだよ!)

(落ち着いて下さいマスター。まだ慌てるような時間じゃ――――)


 すると、ディザスターノヴァはおもむろに左腕をコチラに見せて来た。


「因みに俺の左腕は『究極的(アルティメット)破壊の一撃(ハイレーザー)』を撃つことが出来る。一発で半径500メートルは吹き飛ばせるぜ」


(逝ったァァァァァァァァっ!!!これヤバい方のディザスターノヴァさんだァァァァァァァァッ!!!)

(これヤバい方のディザスターノヴァさんですねッ!!!)

(マキアさんこれどうする!?このまま何事もなく通り過ぎて、何も見なかった事にするか!?)

(因みに私は半径1キロを吹き飛ばせる爆弾を射出できます)

(……あっ、そっか)


 悠馬は考える事を止めた。


「凄いですねッ!じゃ、また何処かで会ったら一緒に食事でも行きましょう!」

「おうよ、アンタらも大変だと思うが頑張れよッ!」


 こうして、機械衛兵ディザスターノヴァに見送られながら四界都市の中へと入る事に成功した。


――――――――――――


 通路を抜けるとひんやりとした空気が頬を撫でた。


「……すげぇな」


 陽の光を遮る程に背の高いビルが何棟も立ち並んでおり、辺りは少し薄暗かった。

 しかし、ギンギンに光るネオンがその暗雲とした空気を押し除け活気へと変えていた。

 辺りを行き交う者達は多種多様な格好をしており、ハロウィンの時の渋谷みたいな騒がしさを感じられた。


「猫耳っ子に、魔女っ子に、ロボ娘っ子に、サキュバスっ子とすげぇな」

「昔は異種陣営同士でちょくちょく殺し合いをしていたのに、今ではこんなにも平和的になっているというのは……信じられないですね」


 視線をやや上へと移すと、空中に道路標識と思しき模様が光となって浮かんでいた。

 それは赤から青へと色を変えると、空中で停止していた車のような物が動き始めた。

 その他にも箒に跨る魔女のような風貌の女や、背中にジェットパックを背負った機械人間、更には鳩顔の男といった怪人もいた。


「何と言うか、凄いごちゃごちゃしてるな」

「まぁ、それぞれが違う世界から来た者達ですからね」

「因みに、やっぱりマキアは……彼らに対しての憎しみ心とかってあったりする?」


 悠馬は真剣な表情で隣に並ぶ銀髪の美少女メイドへと問う。


「ありますよ。仲間の仇を取るべく――――普通にぶっ殺したいです」

「……そうだよな」


 悠馬は息を呑む。

 すると、その反応に応える様にマキアは悠馬の手を握った。


「まぁ、でも。そんな事をするよりかは、マスターと第二の人生を謳歌した方が合理的なんですよね」

「合理的?」

「はい。復讐は胸がスカッとしますけど、残るのは瓦礫の山と無数の屍だけです。その点、マスターとのスローライフは新しい幸せを得られるかもしれません。復讐は取り返しがつかないので、第二の人生が退屈だった時にでもした方がいいです」

「な、なるほど」


(つまりは、俺がマキアに『復讐心を忘れるくらい楽しい第二の人生』を提供できれば血の雨が降ることは無くなるのか)

(そうゆう事です)

(マキアさんッ!思考パートを挟んで会話パートとのメリハリをつけようとしてるのに、これじゃずっと会話文になっちゃうよッ!)

(小説の世界じゃないのでセーフです)

(ほな問題ないか)


 すると、遠くの方から大きな爆発音が炸裂した。


「何だッ!?」


 音のした方向を見てみると、巨大な怪獣がコチラへと向かって来ているのが見えた。

 体全体に黒い鱗を纏わせた亀の様な怪獣は、ノシノシと音を立てながら周囲のビルに対して攻撃を仕掛けていた。

 

「何だあいつ……ってか早く逃げるぞ!」

「本当にそれでいいんですかマスター?」

「ああゆうのは光の巨人にでも任せた方がいいだろ!?」

「いいですか? 今の私達にはお金も、家も、職も、戸籍すらありません。ただ、ここで一発活躍すればそれらの問題が解決するかもしれません」

「打算的すぎるよッ!」

「と、言う事で――――【白銀の翼(シルバー・ウィングス)】」

「……え?」


 マキアの背中に白銀に輝く翼が現れた。

 バサリバサリと音を立て柔らかく靡くその翼は、よく見ると金属の様な材質で出きているのが分かった。

 そして、マキアはゆっくりと空中へと浮くと――――悠馬の体を後ろから抱き上げ強引に飛翔した。


「マキアさァァァァァァァァんッ!!!」

「レッツゴーマスターッ!!!」


 銀色の軌跡を残しながら、段階的に加速する。

 凄まじい程の空気圧が悠馬の顔面を襲う。


「あばばばばばば」


 顔の皮膚がぶるんぶるんと震え、まともに口を動かす事が出来なかった。穴という穴からは汁がドバドバと溢れ出し普通に汚く、醜かった。

 しかし、悠馬が人としての尊厳を失いかけたその時、速度が段階的に落ちていくのを体で感じた。

 

「近くで見るとそんなに大きくないですね」

「ガハッ……はぁ、はぁ――――」


 悠馬は肩を大きく揺らしながら深呼吸をする。

 そして、眼前にいる亀怪獣を見下ろす。

 

「そ、そうか? 普通に25メートルくらいあるけど」

「これならマスターのマスター♂の方が大きいまでありますね」

「その心笑ってるねッ!?」


 すると、コチラの声に気がついたのか亀怪獣はゆっくりと振り返った。

 

「ドオシテダァアアアアアアッ!!!ドオシテダメナンダァアアアアアアッ!!!」


 亀怪獣は絶叫にも似た声を上げながらその場で地団駄を踏んだ。

 押し出された空気が衝撃となって悠馬の顔面を襲う。


「こ、こいつ喋れんのかよ!?」

「……これは困りましたね。ただの【宇宙生命体(ヴォイド)】ならサクッと始末できますけど、【怪獣(ガルド)】の方だと容易に手が出せません」

「確かにな。この土地にはこの土地なりの法律とかあるかもだしな」

「はい。一度ここは撤退を――――」


 すると、亀怪獣は大粒の涙を流し始めた。


「マリアサァァァァァンッ!アナタノコトヲオモウト! カメゴロウ ノ カメゴロウ ガ ガチガチカメゴロウニナルウゥゥゥ!!! ムラムラ ガ トメラレナイイイイイイ!!!」


「「……」」


(なぁ、コイツ普通に痛い目に合わせた方がいいやつじゃない?)

(今すぐにスッポン鍋にしてあげた方が良さそうですね)

(有り得ないくらい精力つきそう)

(※なお、使い道はない模様)

(グッ……その言葉は俺にも効く。俺も【童貞】や節子)

(マキアです)


 そうこうとしていると、亀怪獣は口を大きく開き始めた。

 上顎と下顎の間に、何やら球体状のエネルギー玉らしきものが生成され始めた。


「ちょちょちょっと待てよッ!まだ光の巨人さんが出勤してないだろうがッ!!!」


 悠馬は咄嗟に叫ぶが、亀怪獣にその声は届いていない様子だった。

 黒色のエネルギー玉はドクンッと一回り大きくなり、凄まじい程の熱風がまたもや悠馬の顔面を襲う。


「マキア!」

「……多分大丈夫です」


 マキアは顔を下へと向けた。

 すると――――


「大丈夫かい君達?」


 声のした方向を見る。

 するとそこには――――全裸の金髪イケメンが居た。

 その男はムキムキとした筋肉をひくつかせながら、爽やかな笑みでこちらを見上げている。


「もう大丈夫だよ君達!!!」

「何も大丈夫じゃないよねッ!? 変態がもう一人増えたんだけどッ!?」


 二人の眼前で『性欲強強亀海獣』 VS 『全裸の金髪イケメン』 の戦いが今始まろうとしていた。


「ねぇ、これどうゆう事――――ッ!?」


 困惑に満ちた悠馬の叫びは、エネルギー玉の轟音にかき消された。



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