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お礼

 中間試験が終わって美術部が再会されて、絵を描かないブランクは開いちゃったけれど、それなりに今日も互いにいい絵を描けたと思う。

 部活が終わり、僕と芳山は途中までいつものように帰る事になった。

「先輩、あざーす。試験で私が十七位になったなんて親や姉弟が知ったら、みんな喜びますよ」

「もう、それは耳にたこができるほど聞いたよ」

「それよりも先輩、何かお礼をしないといけないと思っているんですけれども」

「別にお礼なんて良いよ」

 またいじられるのはごめんだ。

「そんな事を言わないで先輩」

 そう言って芳山は後ろから抱きついて来た。

 芳山の胸の感触が僕の背中に伝わって心臓が破裂しそうなほどドキッとした。

「ちょっと辞めてよ」

「なにその『ちょっと辞めてよ』って、先輩女の子みたいですね」

「とにかくお礼は良いから、いつものようにしていれば良いから、とにかくほっといてくれよ」

「先輩冷たいな。それよりも先輩、試験中でも小説書いてましたよね」

「それが何か?」

 すると芳山はまた始まった。嫌らしい顔をして僕を見て。

「本当にメグちゃんは優しいよね。夜中にデートして暴走族に襲われそうになっても、その暴走族のリーダーの元に行き、改心させてしまうなんて、これはもうメグちゃんは先輩の理想の彼女でしょ」

「もう、どう取ってくれたって良いよ」

 もう芳山のいじりにも慣れてきた。

 でも僕の小説をそこまで知り尽くしている事は本気で僕の小説が面白いと思ってくれているんだよな。

 思えば芳山と出会ったのは、芳山が全校生徒の名前を一人一人検索して、僕が柴田盟と言う名前で小説を書いている事を知り、僕に近づいて来たんだよな。

 そう思うと芳山には小説家冥利に尽きるって感じだ。

 それで僕と芳山は互いの分岐点に差し掛かり、それぞれの道に帰る事になった。


 さて飯も食べたし、風呂も入ったし、そろそろ小説の続きを書こうとした。

 でも何だろう?いつものようにアイディアが浮かばない。このような事は稀にあるが、ここまでアイディアが浮かばない事があるなんて思いもしなかった。

 プロットもちゃんと書いているし、僕はどうしてしまったのか分からなくなってしまった。

 これでは今日載せる小説の続きが載せられなくなってしまう。どうすれば良いのか僕には分からなかった。

 やばいスランプかもしれない。

 僕の小説をネットの人達は楽しみにしている人も多いのだ。それなのにアイディアが浮かんで来ないなんてどうしてしまったのだろう。

 とにかく落ち着け、今日の分の作品を書かなければいけない。

 そこでいつも何百通の感想を一つずつ読んで見ると、本当に喜ばしい程、感想には黄色いメッセージが書かれている。

『本当にこんな小説が読めて最高です』『この小説は本当に面白いです』等々、感想は黄色いメッセージで埋め尽くされている。

 いつもなら、小説の感想を見ると心の底から嬉しさがこみ上げて、小説を書く意欲が増して来るのだが、今はなぜかこみ上げて来ない。

 小説を書くタブレットのポメラのキーボードを叩く事が出来ない。アイディアが浮かんで来ない。これは本当にまずい。

 もしかしたら、芳山も見ているのかもしれない。それでもし連載が出来なくなったなんて言ったらがっかりするかもしれないし、また何かいじられるかもしれない。

 何なんだよ。今日に限ってアイディアが浮かんで来ないなんて。

 仕方がない僕の小説を楽しみにしている人には悪いが今日は休載するしかないな。

 時計の針を見てみると、午前一時を示している。

 次の日、学校に行く途中に、芳山に出会った。「先輩、今日は小説の連載どうしたんですか?いつものすかした先輩の小説を見たいと思っていたのに」

 ニヤニヤと嫌らしい目付で僕の事を見る芳山。

「ごめん、ちょっとスランプに」

 そう言うときっと芳山は詰って来るのだろう。でも芳山は。

「大丈夫ですか?先輩、先輩がスランプなんて珍しい事があるのですね。あのすかした小説を描けるのは先輩しかいないのに」

 早速詰ってきた。

 でも芳山のその目を見てみると何か心配している様な目つきだった。

 いや気のせいだな、こいつが僕の心配をするわけがない。

「先輩、試験でおかしくなっちゃったんじゃないですか?あんなに頑張って私も頑張れて学年十七番になったから。ちなみに先輩は学年四位でしょ」

「別にそれは関係ないよ。僕はちょっとスランプなだけだよ」

 すると芳山は僕の後ろから抱きついて来て。

「スランプならとにかく気合いを入れて下さいよ。私は先輩の小説を楽しみにしているんですから」

 そう言って芳山は僕の足を軽く蹴り飛ばした。何だろう。この気持ちは、僕は小説を書きたい気持ちに駆られてしまった。

「とにかく先輩気合いっすよ気合い」

 芳山に鼓舞されて気合いが出てきた。

 そして小説のアイディアが頭の中に振ってくるように湧き出て来た。

 そうだよ。気合いだよ、芳山の言うとおり僕は書かなくてはいけないと思っている。

 

 今日も退屈な授業を終えて、今日は美術部の活動は休みになっていた。

 そうして僕は帰り、早速机の前に座り、タブレットのポメラに書くことにした。

 よし、芳山に言われた通り、気合いだ。

 芳山に渇入れ蹴りを喰らい、僕は頭の中から振って来るようにアイディアが生まれて来た。

 凄い、こんなに面白い小説を書いてしまった。

 本当に芳山のおかげかもしれない。

 芳山はいつも僕にちょっかいをかけて来るが、実際の所本当は良い奴なのかもしれない。

 そうだ。芳山の言う通り気合い入れて頑張るしかない。

 そんな時、妹の幸子が僕の部屋を開けた。

「お兄ちゃん。ご飯だよ」

「もうそんな時間か?」

 ご飯を食べる時間も惜しいくらいに、僕は小説を書きたいが、ここは家族に心配されないようにご飯をいただく事にした。

 夜ご飯をそそくさに食べて、僕は再び小説を書くことにした。

 ちなみに僕の夢は大言壮語を言うようだが、小説家になる事だ。きっと親や妹の幸子に言ったら笑われるかもしれない。

 僕が小説を書いていることは家族には秘密にしているというか別にばれても良いが、まああまり家族とは話さないからな。

 さて今日の分の小説は出来上がった。ちなみに明日も明明後日の分も出来上がった。

 時計を見てみると午前一時を示している。

 早く寝ないと、明日に支障が出てしまうため寝る事にした。


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