サヴァン症候群
登校中にヨッシーとその仲間達に出会った。
でも何か様子がおかしかった。
ゆっこが、
「ヨッシーどうしたんだよ昨日は、あたし達の事を邪険にして」
「ごめん。私アイパットで絵を描いていると周りが見えなくなるほど、夢中になっちゃうの」
シーマが。
「それは重傷だな、とにかくアイパットを手にしない方が良いんじゃない」
「いや、それは出来ない。私にアイパットで絵を描くことをやめてしまったら、何も残らなくなるから」
何か、三人にヨッシーがいじめられているようでいてもたってもいられなかった。
「おい、お前ら、何やっているんだよ」
「何、パイセン、別にあたし達は何もしていないよ」
「とにかくヨッシーを責めるような事はやめろ」
「別に責めてないって、昨日のヨッシーの様子がおかしいからあたし等、心配になって聞いてみたのよ」
何だろう。確かにヨッシーの友達達は心配している。でもヨッシーは珍しく何かに怯えているような感じだった。
それにヨッシーの友達達の威圧感は相当なものだった。
だから僕はヨッシーから預かっている。アイパットからヨッシーの友達達の事を描いているシーンを見せつけた。
ゆっこが。
「これって、まさかあたし達」
「そうだよ。別にヨッシーは疚しい事で君達を邪険にしている訳じゃないんだよ」
シーマが。
「ごめんヨッシー、うちらの事をこんなにも思っていたなんて思いもしなかったから、それにヨッシーは最近様子がおかしいから」
島さんが。
「そうだよ、ヨッシーいつもなら授業中あたし達とお菓子を並べて語り明かした仲じゃないか、それなのに真面目に授業を受けるなんて」
それって、ヨッシーがまともになって、お前達がおかしいんだよ。そう言ってやりたかったが僕にはそんな度胸はなかった。
期末の時の勉強の意欲はどうしたんだよ。
だからお前達の担任の柴田に疑われるんだよ。と言ってやりたかったが僕にはやはり情けなくもそんな度胸はなくただそう思っていただけだった。
もし三人を刺激したら僕はおろか、ヨッシーにも被害が及ぶかもしれない。
*
そうして授業も終わり、美術室に行くと、ヨッシーはカンバスの目の前をジッと見つめて
いた。
「お待たせヨッシー、早速絵を描こうじゃないか」
「はい、先輩、今日は私の事をかばってくれて本当にキモかったよ」
これがいつものヨッシーだ。僕の目の前でしかその本性を現さない。
ヨッシーに預かっているアイパットを渡し、僕もアイパットに絵を描き始めた。
描き始めて数分後、扉が開きだし、何事だと思って振り向くと、この美術部の部長であった。
「部長」
部長は切れ長の目元に整った顔をしていてスタイルも良く背は高く、それにやたら胸がでかい部長で僕とヨッシーの先輩だ。
「何だ、深瀬、その子は新入部員か?」
「はい。芳山亜希子と申します」
ヨッシーは部長が来たにも関わらず、ずっと絵に没頭していて、部長が来たことも気がつかない有様だ。
部長は美術部の中に入っていき、僕が描いた絵を見て。
「深瀬、腕を上げたな」
そう言ってヨッシーの方の絵を見てみると、部長は「芳山亜希子さんと言ったな」と言っても部長に気がついていない様子だった。
そこで僕はヨッシーをフォローする事にして、
「芳山はアイパットで絵を描いているとき、かなりの刺激を与えないと気がつかないのですよ。それに絵を描いているところを邪魔されると怒り出すんですよ。だから、そっとしていてやれませんか?」
「なるほど、これはまさにサヴァン症候群だな」
「何ですか?そのサヴァン症候群って」
「何でも、夢中になり出したら止まらないある精神病の一種だ。でも悪い精神病じゃない。相対性理論を解いたアインシュタイン、発明王のエジソン、音楽家のモーツァルト、モナリザを描いたレオナルド・ダ・ビンチなどがそう言った精神病にかかっている。それに私もそうだ。これは面白い人材をうちの部に入れたな、深瀬」
部長はヨッシーが描いている絵を見て。
「おい、芳山とか言ったな」
芳山を呼んでも、部長の声は聞こえていないようだ。
「部長、芳山は僕の彼女でもあるんですよ。それに刺激を与えると芳山は怒り出すから、やめて貰えませんか」
「そうか」
すると部長はヨッシーが描いているアイパットを奪った。
するとヨッシーは狂ったように怒りだして、
「何をするんだよ!」
と言って部長が奪ったアイパットを取り替えそうとした。
「ちょっとやめて下さいよ部長」そこで芳山にサヴァン症候群から切り離そうとして、芳山を羽交い締めにした。
「ヨッシー落ち着け、この人はうちの美術部の部長だ」
「あああああああああああああああああ!」
ヨッシーは狂いだしたかのように怒っている。
まるでヨッシーがヨッシーじゃない様な感じだった。
「何、先輩までこの人の味方になっているんすか?私の優雅な時間を邪魔しないで」
部長は。
「これは凄い絵だ。深瀬、お前以上なんじゃないか?」
そう言われると何か心が傷つく。
「そうだ。私の絵と、この芳山とやらの絵とどちらが凄いか、勝負しないか?今年の文化祭で」
「私は絵を比べられる様な事はしたくない」
「芳山さんとやら、確かに君の言うとおり絵は比べられる様な物じゃない。赤子からプロまで絵を描く者はいる。でもその描いた絵はこの世に一つしかない物だ。その一つしかない絵を描いて感動を与える事が出来る。私は君の絵を見て感銘を受けた。私の絵と君の絵、どちらが多くの人に感銘を受けられるか勝負しよう」
「そんな事をして何になるんですか?」
「私は絵を描いて色々な人に感銘を与えたいと思っている。君は何の為に絵を描いている」
「分かりません。私に取って絵は楽しく描く物だと思っています。先輩の小説のシーンを描いていると何か描きたくなるんですよ」
「おい、深瀬、君は小説を書いているのか?」
「はい、僕は部長の絵には敵わないと思って密かに小説を描いています。それにその小説をネットにあげて、かなりの評価を貰っています」
「私には敵わないと思って、その分小説で補うつもりだったのか、それも結構だ。今、芳山さんの絵を見て、これは深瀬が書いた小説のシーンだと言うことは分かったよ。それに凄いこの絵から情熱を感じる」
ヨッシーは。
「褒めて貰えるのはとても光栄な事だと思いますけれど、なぜ勝負をするのですか?」
「君は深瀬の彼女と言ったね、実を言うと私も深瀬の事が気になっていたのだよ」
「・・・」
先輩の気持ちを聞いて僕は凄く驚いた。まさか僕みたいな根暗な人が好きだったなんて。
「なぜ、そう言う事になるんです。私は先輩の事が好きです。先輩は私の彼氏です」
「じゃあ、深瀬に問おう、深瀬、私と芳山さんとやらとどちらを取る」
「もちろん、ヨッシーに決まっているじゃないですか」
「そうか、じゃあ、もし君達が勝ったら君達の言うことを何でも聞こう。それで私が勝ったら、この美術部を廃部にする」
ヨッシーは興奮して。
「何でそうなるんですか?そんなの横暴ですよ」
「私が卒業してしまったら、君達は二人だけになり、どこかのクラブにこのクラスを乗っ取られるだろう。でも私がいれば、この部は廃部にならなくて済む。どのみち、この美術部は廃部の話が出ている」
そこで僕が、
「でも去年の文化祭で先輩の絵は一位を取ったじゃないですか」
「ああ、確かに私の絵は一位を取ったが、芳山さんと深瀬の絵では私の絵に届く事は出来ないと思う」
「そんなの分からないじゃないっすか?」
「ほう、芳山、君の絵は確かに素晴らしい、でも私の絵には敵わないと思う」
「だったら勝負っすよ、私も先輩も絶対に負けない」
「じゃあ、一週間後の君達の絵を楽しみにしているよ」
そう言って部長はクラスから出て行った。
「何よ、あの人、私も先輩も絶対に負けないんだから」
「ヨッシーあの人は手強いぞ」
「何、先輩弱気になっているんすか?」
僕はその部長の本来の実力を見せるために一つの部長の絵を見せた。
その部長の絵を見て、ヨッシーは感銘を受けている。
「先輩、この絵、凄く引き込む要素を持っています」
その絵は森であり、あのクリスチャンラッセンを超えるような絵だと思って僕は感銘を受けた。まあ改めて見てそう思ったのだけれども。
「先輩、私、描けとか、これ以上の物を描けとか言われるとなぜか描く気がしないんっすけれど」
「じゃあ、芳山は芳山で描きたい絵を描いていれば良いのだ」
「それでこの絵を超えろと言うのですか?私には無理っすよ」
「ヨッシーはさっき言っただろう。絵は比べられる物じゃないと、そう言う気持ちで描けば良いんだよ。仮に先輩に負けて美術部がなくなっても、アイパットはあるんだし、絵なんてどこでもかけるから良いんだよ」
「そうっすよね。じゃあ、私は私の描きたい絵を描き続けます」
そうだ。絵はうまい下手関わらず、自分の描きたい絵を描いていれば良いのだと僕は改めて思った。確かに部長の絵は本当に人間が描く様な物じゃないと思っている。
その部長の絵を超えろと言って描き始めようと思うとなぜか僕もヨッシーも描く意欲がなくなってくる。
ヨッシーはアイパットを返して欲しいと言って返す事にした。
文化祭まで後、一週間しかないし、部長はヨッシーの事をサヴァン症候群だと言っていた。
サヴァン症候群の事をスマホで調べてみると、エジソンやモーツァルト何かがサヴァン症候群だと言っている。
サヴァン症候群は新しい物を作る為になる病気なのか、良く分からないけれど、よっぽどの執着心がないとなれないと僕は思う。
ヨッシーも部長もサヴァン症候群だと言っていたっけ。




